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クラウド働き方改革のススメその1 〜脱windows編〜

このnoteは、岡山の田舎の小さな印刷会社で7年かけて取り組んだ、クラウドサービスを使った働き方改革についての記録です。

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クラウドサービスが業務に普及しない理由

昨今やれMFクラウドやら、kintoneやら、boxやらと様々なクラウドサービスをススメられますが、なぜ普及しないのか疑問に思うことはないでしょうか?

私見ですが、結局コストの問題なのではないかと思います。上記クラウドサービスはサービスの使用ユーザー数に対してライセンス課金するものがほとんどです。そのため課金される月額料金を2〜3年累積すると、大体自社サーバーで運用した方が安価になるという現象が起こります。

また最大のハードルは基幹業務のシステムが全てWindowsベースで稼働しているため、全員に5〜10万円くらいするWindowsPCを持たせ、かつVPNでも引くか、シンクライアントにでもしない限りテレワーク化が不可能だということです。

iOSベースで基幹業務を脱Windows化

結局中小製造業がクラウドサービスを活用して、テレワークなどの働き方改革を実践しようとするとき、コストを考えると基幹業務のモバイル化&脱Windowsが必須条件ということになります。

そうなると販売管理、製造管理、仕入管理、会計管理といった基幹業務のシステムを、いかにWindowsサーバーの魔の手から助け出すかが一番の課題となり、長い検討の結果導き出された一つの答えが"FileMaker"でした。

FileMakerはWindowsでいうACCESSに近いデータベースアプリで、約30年の長い歴史を持っています。特徴としては、レイアウトの自由度の高さや、スクリプトやリレーションシップの簡単さが挙げられます。

しかしFileMakerを採用すべき最大の理由は、Appleの100%子会社であるため、iOSに完全対応していて、かつWindowsにも完全対応している点です。

つまりFileMakerベースの基幹業務システムを構築出来れば、iPadやiPhoneで業務が出来、PCすら不要になるということになります。

FileMakerで基幹業務システムを構築する

以上の理由から基幹業務システムをFileMakerに移行し始めたのですが、クリアすべき課題は大きく3つありました。

①FileMakerでのシステム開発

②オービックのオンプレミス奉行シリーズからのデータ移行

③社内のシステム移行

①については運良く20年以上の開発経験のある個人の開発者を紹介していただき、レイアウトを自社で行って、データベースのリレーションシップとスクリプトの開発をお願いするという体制で開発を進めました。(FileMakerは歴史もあるため、開発会社は全国に多数あります)

FileMakerのレイアウト画面は吸着やガイド、揃えの機能などがとても充実していて使いやすく、デザイン的に親しみやすいものが出来上がっていきました。

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またシステム開発についても、元々オービックの商奉行や蔵奉行では取引先と売買のデータしか管理していなかったため、今後今まで台帳で管理していた製造データもシステムに載せたいという希望を持っていました。

そのため台帳管理していた生産データの項目に加え、原価管理の目安となる個別の製品に対する作業時間も記録でき、工程も管理できるよう、一から仕組みを作っていきました。

約半年で全体システムは完成し、いよいよ②のオービックシステムからのデータ移行です。

ここでもFileMakerの力が発揮されました。汎用の販売管理システムは、通常オリジナル形式のcsvでしかデータを吐き出すことは出来ません。そのためデータを新しいシステムにインポート出来る形式に変換する必要があります。

FileMakerはACCESSのようにデータを整形する機能が充実しているため、変換用のスクリプトを組むことで簡単に移行が出来ました。ただ年度やシステムのバージョンの切替ポイントでデータ形式が変更になっていることがあり、それには苦労をさせられました。

そしてデータ移行が終わり、約半年の既存システムとの併用期間を設けて、③の社内のシステム移行を行なっていったのですが、この時問題になったのが「入力」です。

社内の平均年齢も高かったこともあり、パソコンを触ったこともない人もいました。そのためマニュアルを作成し、説明会も設けて入力を促していったのですが、ここでもFileMakerの真価が発揮されました。

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本システムは機器のコストを出来る限り抑えるため、各部署に1枚ずつの中古iPadを配布し、PCはサーバー用の中古MacBook proのみという構成でスタートしました。(MacならFileMakerのサーバーは普通のPCでOK。さらにMacをサーバーにすると、automatorという簡易RPAも使えるのでお得です)

そのため全員iPadにタッチパネル入力するのが標準となったのですが、これが高齢の人にも入力しやすく、拡大も出来るためPCより読みやすいと2ヶ月もしないうちに浸透していきました。

また今まで台帳をめくって調べていたものが、検索ですぐに調べられることが理解されてくると、入力漏れも徐々に減っていきました。この時、1年前から既存の複合機で作業伝票の製品番号をファイル名にして、作業伝票をスキャンしたPDFを収集していたことも功を奏しました。

過去の作業伝票を検索するのに、手書き台帳では詳細が不明なため、過去1年分についてはPDFで閲覧可能なシステムを追加したことで、作業者がiPadに触れる機会も増えました。

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さらにiPadのカメラ機能でバーコード検索機能が使えることも解り、情報へのアクセス性も向上しました。

外部からのデータアクセスについても、月1000円程度の費用でグローバルIPを取得し、簡単にiPhoneでもアクセス出来るようになりました。

これで生産販売管理についてはモバイル化が完了し、これからがようやくクラウド働き方改革のスタートになります。(ここまでのハードルが高くて、みんな諦めるのだと思います)

会計システムのクラウド化

次に取り組んだのが会計システムのクラウド化です。それまではオービックの勘定奉行で月々の試算表を出力し、それを風呂敷に包んで車で40分の会計事務所に渡し、会計事務所はそれを事務所で使っている会計システムに入力し直すという、非効率な仕組みになっていました。

しかし、オービックのシステムを解約するにあたり別システムへの移行が必須になったため、上記問題を全て解決できるクラウド会計へ移行することにしました。

検討したのは、MFクラウド、freee、弥生会計、crewなど。当時最もまともに機能したのはMFクラウドでしたが、製造原価会計に対応していなかったため、crewと組み合わせて入力と会計を完成させる仕組みを半年テストしました。

結果わかったのは、クラウド会計のインターフェイスが良くも悪くも複式簿記の会計画面らしくないため、企業の会計には向かない(チェックも教育も一から体制を整える必要がある)ということと、PCにインストールしたソフトより思ったより入力に時間がかかり、ストレスが溜まるということです。

そんなとき友人の公認会計士から教えてもらったのがA-SaaSでした。

A-SaaSは税理士の出資により作られ、10年以上の歴史があるクラウド会計&給与システムで、顧問税理士がシステム費用を負担して顧問先が使用する仕組みが特徴です。(契約税理士の方針にもよります)

A-SaaSは税理士の出資により開発されただけあって、インターフェイスも税理士が入力しやすいベーシックな複式簿記の画面になっていて、税理士のチェックも受けやすいものでした。

そして何より有り難いのは費用がかからないことと、給与システムも付いてくることでした。この給与システムが優れもので、社会保険の届出や銀行振込、マイナンバー管理にも対応していて、これにより対応してもらえる税理士さんへの切り替えは必要になりましたが、オービックのシステムに比べて会計事務のコストは大幅に削減されました。

会計給与システムでのデータ移行

システムは非常に低コストで運用できる目処が立ちましたが、最も大変だったのはデータの移行でした。弥生会計を使っていれば容易に移行は出来たのですが、10年以上前の勘定奉行からのデータ移行だったため、一旦弥生会計のフォーマットに変換してからデータをA-SaaSにインポートするという面倒な方法を行うことになりました。

そのため、この時だけのために購入したのが、会計コンバータ2です。実はこれだけでも変換が出来ず、結局さらにFileMakerで変換スクリプトを作ってインポート出来る形式にしたのですが、正直普通に現行のメジャーな会計ソフトを使っていれば、このようなトラブルはなかったと思いますので、これから挑戦される方はご安心ください。

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給与についてもインポートは可能ですが、労働時間のインポートは出来ないので、年金事務所の監査を意識するなら地道にデータを入力して移行する必要があります。

記帳代行でのクラウドサービス活用

会計で最後に問題になったのは、日々の記帳業務をどうするかです。それまで記帳を行なっていた担当者はかなり高齢だったので、新しいシステムを一から覚えるのは難しく、早急に記帳代行をお願いする必要が出てきました。

しかし以前にも会計担当者が病気で長期入院した時に、採用も派遣も難しかったという経験もあり、今回はクラウド会計とインターネットバンキングの入力閲覧用アカウントを使って、リモート記帳代行をお願いすることにしました。

具体的には、銀行からの入出金データをFileMakerの基幹システムで得意先の残高に半自動で引き当て、そのデータをA-SaaSにインポート出来るcsv形式で書き出します。そしてGoogle Drive経由で、現金と手形の残高管理用のexcelファイルと共に、共有フォルダ内で日々更新管理するという方式です。また紙ベースの現金出金や請求書...については、日々Google Hangoutで写真を送り、リモートで手入力してもらうことになりました。

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この方式は非常に有効で、お陰で月次決算にも対応出来、税理士と記帳代行と自社のトリプルチェックの体制になることで、決算時の確認も日々Google Hangoutのメッセージで解決しているため殆どなくなりました。

社内制度のiOSフォーマット化

他にも各部署にiPadが導入されたことから、営業との連絡も留守電を使うことがなくなり、FAXもメッセージアプリの写真で営業に送って完了、逆に客先の手書きの打合せ原稿もすぐに社内に写真で送れるようになり、移動や確認の時間ロスが激減する効果がありました。

またカレンダー機能で出張や会議室、残業や有給休暇の管理も行うようになり、給与計算も何処でも出来るようになりました。

このiOSを標準にした社内制度だけでも、本当に価値があったと思います。

技術データの安全なリモートアクセス

最後に取り組んだのが、それまでNASで管理していた客先ごとの印刷データに営業先から安全にアクセスするシステムの導入です。

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具体的にはFileBlogという全文検索サーバーをNASとは別に設置し、NASのデータを高速で全文検索しつつiPhoneなどのモバイルでリモートアクセス出来る仕組みを導入しました。

FileBlogのネットワークは、直接データベースとは接続されておらず、安全にかつ高速に外部から必要なデータにアクセス出来るようになりました。またFileBlogはオプションで、印刷関連で必須のAiやpsdファイルのサムネイル表示にも対応しています。cadデータも各種サムネイル表示出来るため、出張の多い会社ならとても役に立つと思います。

今回FileBlogはテレワーク補助金を活用して導入しました。目標設定した人数のテレワークを達成すると1人15万円の補助(2/3まで)が受けられるというもので、サーバーも含めて20万円程度で導入することが出来ました。

クラウドHRはコスト高

おまけで、失敗について。

最近労務関係のクラウドサービスが登場してきましたが、A-SaaSを使用している限りは不要です。

実際にsmartHRというサービスを半年使用してみたのですが、まず社会保険事務所に全く行かなくて良くなることはありません!

さらに社会保険関係を電子申請するには、公的電子証明書が必要なのですが、頻繁に電子入札や特許・商標を登録する会社は持っているかもしれませんが、一から取得するには年間3万円程度の維持費がかかります。

給与やマイナンバーがA-SaaSで事足りる以上、頻繁に入退社の手続きが発生しないならクラウドHRサービスは契約する必要はないと思います。

クラウド働き方改革とは

ここまで7年くらいかけて検証と導入を進めた中で、先日船井総研のクラウド働き方改革の講演を聴きました。

内容はkintone、box、MFクラウドを紹介して海外に頻繁に渡航しながら働く税理士の話を聞くというものだったのですが、10人以上の会社には当てはまらないと感じました。

ただ一つ良いことを言っていたのは「クラウドサービスを活用して何をやりたいかが一番大切」という話でした。

7年間まさにそのこととの闘いで、目指した通り達成したのは以下の3つでした。

①WindowsのOSサポートに左右されない社内システム

②会計事務の9割外部化(社長が経理と営業を兼務)

③完全に社外で仕事が出来る体制による、家庭での可処分時間の増加

結局③が一番重要で、家庭からのプレッシャーは大きなモチベーションに繋がりました。

今後は製造業の事務で工場と紐付いていてリモート化出来ないと思われている業務を、クラウドサービスを使ってリモート化することと、さらにゲーム開発の手法を取り入れることで、効率化の先の付加価値を創造する仕組みづくりに注力していく予定です。

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おそらくこれからが本当のクラウド働き方改革なのだと思っています。

上手く説明出来たとは思いませんが、工場や場所に縛られなくなった先に見える仕事のカタチを考えるために、コストをかけずに一歩を踏み出すご参考にしていただけたら幸いです。

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