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Blue in Green/kiki vivi lily×SUKISHA

華金にしっかり残業をして最寄り駅に着いた頃、電車が遅延しなかったのが嘘みたいな土砂降りだった。すっかり梅雨は明けたと油断しきっていたところで、残業疲れにコンボして湿度の不快感が身にまとわりつく。

大きくため息をついた瞬間、「先輩、おつかれさま。」改札を出たところで傘を差し出したのは、普段は大人しく隣の席に座っている後輩だった。


タクシーに乗り込み、軽く一駅分離れたホテルへ向かう。今夜は酷い雨だから近場でも良かったかな。きっと誰にも気付かれないよ。昼間に見せる無口で愛想の無い顔と違って悪戯に笑う彼は、雨のあまり降らない土地で育ったせいか、雨が酷くなればなるほど興奮しているようだった。「先輩、明日も一日中大雨だって。」

私、雨の日が苦手なんだよね。その一言で始まった、雨の日だけの宿り木。いつ枝が折れてもおかしくないのだから、雨が止むまで、と自分に強く言い聞かせる。大丈夫、もう梅雨は明けるのだから。


微かな光が差し込む朝、辛うじて空が見える小さな窓を覗き込んでいると後ろから腕を引かれた。「まだ雨は止んでないよ。」そうして私は何度も深く深くベッドの底へ沈んでいく。深く根を張るように。

来週末も雨の予報みたいね。その一言で君が優しく微笑むから、私はきっとまた折り畳み傘をカバンの底へ仕舞い込む。


kiki vivi lily×SUKISHA

「Blue in Green」


PS.しとしとと雨音が聴こえて落ち着きます。

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