見出し画像

「ねじの豆知識」 リベット 第一回 リベットとは

「リベット(rivet)」は金属やプラスチックなどを接合する際に広く利用されているファスナーの一つです。日本語では「鋲(びょう)」とされます。年長の方の中には、高度成長期の工事現場から鳴り響くリベットの打鋲音を思い起こされる方いらっしゃることでしょう。でも、名前は知っているけれども「あまりなじみがないなあ」という方も多いと思います。今回のねじの豆知識は、四回にわたり「リベット」に注目してみたいと思います。

ねじの豆知識 リベット 
第一回 リベットとは
第二回 ソリッドリベット(ソリッドシャンクリベット)
第三回 中空リベット(チューブラリベット)
第四回 ブラインドリベット(Blind Rivet)


リベットとは

リベットは締結・固定する部材を挟み込み締結するファスナーです。日本語では「鋲」の字を当てます。

英語の「リベット(rivet)」という単語は、古フランス語の「rivet 釘、リベット」から来ており、古フランス語のriver「締め付ける、固定する、留める」という動詞に由来しているようです。中世フランス語の「rivet」が14世紀頃に英語に取り入れられ、固着や締結のために使用される小さな金属製のピンを「rivet」と呼ぶようになったようです。

また、日本語の「鋲」は国字、つまり日本で生み出された漢字です。事物の類型を表す記号(意符)と発音を表す記号(音符)の組み合わせで作られています。部首の金偏「の金」は金属を、つくり(旁)の「兵」は「びょう」という「音(おん)」を表しています。

現代のリベットと同じ原理(かしめ)を用いた金属接合時術の歴史は古く、古代エジプトやメソポタミア、ギリシャ、ローマなどの文明で金属部品の接合に使用されていました。

トルコ・アンカラのアナトリア文明博物館にて


日本でも鋲は、古くから利用されている金属接合技法です。例えば鎧兜の製作には欠かせません。

姫路城にて

近代においてリベットは、橋梁、造船、蒸気機関の車台やボイラなど製造、また、あのエッフェル塔のような巨大な建築物などのインフラにおける重要な接合技術でした。

リベットが使用されている橋梁の一部


トルコの鉄道記念館に保存されている蒸気機関車


現代でもその特性を生かしたリベットが、家電製品や自動車、航空機等の多種多様な産業や用途で使用されています。

リベットの締結方法

リベットの締結方法はねじやボルト・ナットとは少し異なります。リベットの外観は大抵円筒形をしており、ねじ山はありません。片方の端にはあらかじめ成形された頭部があります。結合させる部材を重ね合わせて下穴を開け、リベットを挿入します。下穴から飛び出した端部を下穴径より大きくなるよう変形させることで部材同士をしっかり挟み、締結します。

リベットの種類

身の詰まった円筒と一方の端に頭部を持つ最もシンプルな構造をしている“ソリッドリベット”は、単に“リベット”、あるいは頭部の形状により、丸リベット、平リベットなどと呼ばれます。軸部が中実(中身が詰まっている)なのでソリッドシャンクリベットと呼ぶこともあります。

ソリッドリベット

これに対して軸部の端部に茶筒のような空洞がある構造のものは “チューブラリベット”、ワークの片側からの作業だけで締結できるようにデザインされた独特の形状のリベットは、“ブラインドリベット( blind rivet)”と呼ばれています。裏側に回れない、つまり覆われて見えない状態(blind)でも使用できる画期的なリベットということで、この名が与えられたようです。

中空リベット


ブラインドリベット

また、下穴を必要としない打ち込みリベット、道具を必要としない便利なハンドリベットなども開発されています。

アルミニウム製のハンドリベット


リベットの材料には鋼・ステンレス鋼・アルミニウム合金・銅・チタンなど様々な金属が用いられます。また、用途によりプラスチック製のリベットもあります。

樹脂リベット


リベット接合の利点

接合方法にはリベット以外にも、ボルト・ナットに代表されるねじ締結、溶接やはんだ付け・ろう付け、接着等様々な技術があります。その中でリベット接合の利点とはどんなものでしょうか?

リベット接合は、専用工具があればだれでも少しの訓練で比較的簡単に利用でき、難しい技能の習得を必要としません(一部例外あり)。また、接合させる部材に大きなダメージを与えることもありません。結合作業に必要な時間が短く、異なる種類の材質の部材を接合できることも利点として挙げられます(ガルバニック腐食を防ぐためには、組み合わせや使用環境を考慮する必要があります)。

リベット結合は、ボルト・ナットのようなゆるみの心配がありません。さらに溶接や接着とは異なり、リベットの頭をドリルなどで削って取り除けば、部材に傷をつけることなく分解できます。そのため分解・再組立てを伴うメンテナンスが必要となる箇所でも利用できます。

ソリッドリベットでの接合では専用の工具を使用して圧縮するので、下穴との隙間をリベット自身が満たして、強度に優れたと結合体となります。中空リベットは自動化に適しており、片側作業で締結できるように開発されたブラインドリベットは、裏側に手を回せない袋状の構造体に部材を取り付けるのに大変便利です。ハンドリベットには、手で押し込むだけで締結できる便利さがあります。

リベットはどのように選択する?


多種多様なリベットから最適なものを選択するには、以下の要素を考慮します。

負荷条件

接合部にかかる負荷条件(引張り、せん断、曲げなど)を考慮してリベットの種類や材質を選択します。耐荷重性や耐久性が求められる場合は、それに適切な強度を持つリベットを選択する必要があります。これらの点は製品カタログで確認することができます。

環境条件

リベットが使用される環境条件(温度、湿度、雰囲気など)も考慮します。特定の環境条件下での耐性が求められる場合は、適切な材料やコーティングのリベットを選択する必要があります。

接合材料の種類と厚さ

使用するリベットは、接合に使用される材料の種類と厚さに適合している必要があります。異なる材料や厚さに対応するためには、リベットの種類と径や長さ、サイズそして材質を選択する必要があります。メーカーの公開している情報を確認することが確実です。
例えば、一般的にはソリッドリベットの直径dは、接合する最も厚い部材の厚みの3倍以上が目安とされています。そして長さは接合する部材の厚みの合計プラス1.5d(リベットの軸径の1.5倍)が目安とされています。

取り付けスペースとアクセス

リベットを設置する際のスペースやアクセスの制約も考慮するポイントです。取り付けスペースが狭い場合や逆側へのアクセスが難しい場合は、ブラインドリベットを選択できます。

外観と仕上げ

リベットの外観や仕上げも重要な要素です。特に外観が重視される場合は、目立たないリベットヘッドタイプや特定の仕上げを持つリベットを選択します。

コスト

最後に(あるいは最も重要とも言えますが(笑))、予算に合わせてリベットを選択することも重要です。耐久性や特性に応じてリベットの品質と価格をバランスさせる必要があります。

これらの要素を総合的に考慮して、最適なリベットを選択します。場合によっては、実際のテストや試験を行ってリベットの性能を確認することも有効です。また、メーカーのアドバイスを受けることも役立ちます。

次回からは様々な形状のリベットについて紹介します。

参考:熱間リベット(Hot rivet)

「熱間リベット」は、設置時にソリッドリベットを900℃から1,100℃程度まで加熱して打鋲する、リベットの接合方法を指します。かつては広く用いられた接合方法ですが、現在はほとんど用いられていません。

熱間リベット接合は、エッフェル塔のような巨大な建築物や橋梁の建設、造船などで20世紀前半までは幅広く用いられていました。

建設中のエッフェル塔 パリ土産のコースター
エッフェル塔 トロカデロから


日本の東京タワーでも多くのリベットの打鋲がこの方法によって行われました。

東京タワー

他にも、船舶の構造や船体部品の接合に、また、輸送機の分野でも蒸気機関車のボイラや車両の組立てに行われていました。

例えばエッフェル塔の建設では、1887年7月1日から 1889年4月30日までの635 日間に、平均すると1日当たり4人一組の16チームが、合計1,050,846本のリベットを打設したという記録があります。

エッフェル塔のアップ

※リベットの打設を含め、エッフェル塔の建設については、こちらのページが詳しいです。

熱間リベットの締結方法

最初にリベットを必要な長さでカットし、専用の加熱装置で900℃~1,100℃程にまで加熱します。加熱されたリベットの足が穴に挿入され、頭部は当て盤で押さえ、リベットガン(圧縮空気がシリンダーの中のピストンを往復運動させその衝撃力でリベットを打撃する)を使用してリベットの先端部を圧縮・成形します。リベットが圧縮されると同時に冷却が始まり、リベットが金属材料にしっかりと固定されます。こうして、接合部品の強度と耐久性が確保されます。

熱間リベットは、高い強度と耐久性を持つため、日本でも昭和40年頃(1965年頃)まで、特に大型の構造物や重要な部品の接合に広く使用されてきました。

5~7名で一組のチームを組み、リベットの焼き手が親方、ほかのメンバーが受け手、当て盤、打ち手、ボルトさらいの役割を分担したようです。

焼き手が、ドラム缶を加工した炉で、コークスを燃料としてリベットを赤熱するまで加熱します。加熱されたリベットを焼き手が火箸で掴んで投げ(時には30mもの距離を投げたそうです)、受け手が漏斗状の受け口で受け止め、火箸でつかんでリベット穴に差し込みます。当て盤で頭側を押さえ、打ち手は先端部が半円球状となるまでリベットガンでリベットを打ち込みます。

「熱間リベット」による接合は、大きな騒音を伴う危険で熟練を必要とする過酷な作業でした。そのため接合技術の進歩により、熱間リベット接合は、コストが合理的でメンテナンスしやすい高力ボルト接合や溶接等の他の接合方法に置き換えらました。

※2011年の若戸大橋の改修工事で行われた、熱間リベットの打設作業の様子をユーチューブで見ることができます。

若戸大橋は福岡県北九州市の洞海湾にかかる、戸畑区と若松区を結ぶ橋。建設当時は東洋一の吊橋でした。竣工は1962年9月26日。2011年に大規模改修工事が行われました。
全長   627 m
幅    19.6 m(道路幅員15.2 m)
高さ   84 m
桁下高  40 m
最大支間長  367 m

若戸大橋

現在、熱間リベット接合の技術の継承が、リベット接合されている文化的な価値の高い鉄構造物の保存・修復のための課題となっています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?