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米国雇用統計の結果を考える

3日の22:30(日本時間)は、米国雇用統計の発表がありました。毎月第1週金曜日の夜間に発表される同指標は、経済の動向を見る重要指標として、世界中の投資家が注目しています。発表を受けて米国株式市場は下落、為替市場では米ドル高となり、ドル円は発表前の128円台から131円台まで動いて引けるなど、今回もその影響力を発揮した印象です。

発表された指標の結果は、次の通りです。

・非農業部門雇用者数
結果 51.7万人、予想 19.0万人、 前回 22.3万人

・失業率
結果 3.4%、予想 3.6%、前回 3.5%

・平均時給(前月比)
結果 0.3%、予想 0.3%、前回 0.3%

・平均時給(前年比)
結果 4.4%、予想 4.3% 前回 4.6%

時季的要因等で変動の大きい農業部門を除いた、非農業部門雇用者数は、20万人増加が巡航速度だと言われています。理由は、米国の人口動態にあります。近年のコロナ禍や移民抑制政策下の環境では少し動きがぶれていましたが、それまで米国の人口はざっくり年間で約240万人増えていました。1か月で約20万人となります。

つまりは、1か月間で20万人増えるかどうかは、米国が増える人口以上に雇用を生み出せているかどうかの境目ということになります。世界最大の経済大国が、人口増をまかなえるだけの雇用を生み出せているかどうか、その動きが貿易等で他国に波及する効果を想像すると、イエスorノーの結果が市場に与える影響の大きさもうなずけます。

今回は、前回を下回り、巡航速度をも下回る19万人が識者による事前の予想でした。しかし、結果はそれを大きく上回る51.7万人で、昨年7月以来の高い値となりました。ここに市場が反応したというわけです。

米国雇用が堅調である=米国の景気後退懸念が和らぐということで、利上げが継続されるのではないかと想起されました。利上げ継続=資金調達のハードルが高くなる=株式下落、米ドルの優位性が続く=ドル高(円の場合は円安)というわけです。(株安、米ドル高の要因は他にもあると思いますが)

失業率は53年ぶりの低い水準です。平均時給も予想を上回る高い伸びが続いています。日本では5%の賃上げを目指すことが叫ばれていますが、米国ではあらゆる雇用形態の労働者の平均で既にその水準をほぼ達成しているわけです。労働の供給力が限られていて、労働市場で強い買い手市場の状態が続いていることが想定できます。

私たちの事業活動に影響を与えそうなことを、ここでは2点考えてみます。ひとつは、人材難がさらに強まるかもしれないことです。

以前も投稿で取り上げたことがありますが、国外企業がリモート勤務も含めた日本人労働者の雇用に積極的になる動きも見られます。米国をはじめ各国で人材が調達しにくい状態が強まると、日本人に対する人材調達意欲も高まるはずです。私たちにとっては、国内他社だけでなく国外他社もより競合となっていくことを、認識すべきかもしれません。

もうひとつは、高い水準の物価上昇が当面続くかもしれないということです。

企業活動においての経費は、人件費が半分以上を占めます。米国企業による経費の増加と賃金の増加は、商品・サービスの売値と買値をつりあげる方向に働きます。その動きが他国に波及すれば、輸入物価は当然上昇します。

米国で物価上昇に落ち着く動きもあると見られてきましたが、少し先になるのかもしれません。だとすると、日本でも今の規模の物価上昇の現状がしばらく続いていく可能性があります。事業活動においては、この可能性と必要な対応も視野に入れておく必要がありそうです。

ところで、ジェトロのデータで米国の人口増加の内訳を見てみると、国際移住(移民)による人口増加数が最も多かったのは、2015-2016年の頃で約105万人/年です。同時期の自然増加数は、約130万人です(両者を合計すると、冒頭の約240万人)。

これが、コロナ禍前の2019年でそれぞれ国際移住60万人、自然増加数96万人まで下がっていました。コロナ禍以降はさらに下がってきています。このことは、巡航速度の基準が現在は一時的に下がっていることにつながります。このことを考慮すると、冒頭の数値は直近の巡航速度を大きく超えて雇用が強いことを示した結果と言えます。

米国の経済を支えるひとつの要因は、ピークで約45%(105万人/235万人)を占めていた移民の存在です。日本ではまだ2-3%です。日本においても、移住による労働者の雇用やリモートでの外国人雇用など、国外人材の労働力受入に今後さらなる検討の余地がありそうです。

<まとめ>
雇用統計の上昇は、人材難と物価上昇の影響の継続を想起させる。

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