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円安に向き合う(2)

前回の投稿では、最近動きが急な円安をテーマにしました。円安にはかつてほどのメリットは見出しにくくなっている、円安の流れの反転は簡単ではないものの、さらなる規模の円安が見込まれるかというとそうでもないかもしれない、ということを考えました。

このような環境下で私たちは実務的にどのように向き合うとよいのでしょうか。3つ目の視点は、商品・サービスの高付加価値化、価格転嫁による輸出を目指す、ということです。

9月24日の日経新聞で、「円安が変える企業行動」というタイトルの記事が掲載されました。同記事の一部を抜粋してみます。

横浜国立大学教授の佐藤清隆氏(9月9日付経済教室)は今回の円安局面で日本企業がとった行動の分析に踏み込んだ。企業は生産コストの上昇に苦しみながら、従来の円安局面とは異なり輸出価格を大幅に引き上げていた。

輸入原材料の価格が上昇しても、企業が製品価格に転嫁しないかぎり輸出価格は上がらない。交易条件の要因分析により、円安局面で輸出価格要因がプラスになることは過去なかったという。今回は国内向け販売価格を容易に引き上げられない日本企業が輸出価格を引き上げる行動をとっている。ただし生産コストの上昇と比べ、輸出価格の上昇は低水準にとどまり、価格転嫁は不十分という。競争力が高ければ、輸出価格の引き上げも可能だから、輸出財の高付加価値化が重要と説く。

ウクライナ紛争や異常気象で食料事情が関心の的だ。「食料危機が来るから自給率の向上を」というのが通説だが、明治学院大学教授の神門善久氏(週刊東洋経済9月3日号)は日本に食料危機など存在しないと訴える。

日本農業は戦後一貫して供給過剰である一方、農家が強い政治力を持ち、国は農家を保護するために大量の補助金を投じることが常態化した。

神門氏は従来の政策が農業の地盤を弱くし、「農業のハリボテ化」を起こしていると憂う。特に懸念するのが技能の低下だ。稲作の目利きは継承されず、新規就農者は一部の外国人技能実習生と同等に使い捨てされている。農産物の輸出で稼ぐといっても品質管理は難度が高く、検疫に通らないリスクに直面する。農業の技能継承に注目する視点は重要である。

自給率の低さを問題視する説に疑義を呈するのは、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏(週刊東洋経済9月3日号)も同じだ。国は食料危機や低自給率をあおる一方、国民にとって最も必要なカロリー源であるコメの生産を減反政策で減らしてきたところに矛盾があると指摘する。

小麦や大豆を国内で生産するため国は年2300億円を投じるが、生産量は130万トンに満たない。このお金があれば1年の消費量に当たる700万トンの小麦を輸入できるという。

コメの国内需要が減っている以上は生産量を減らさざるを得ないという主張は、国内市場しか見ていないと山下氏は反論する。国内需要を上回るコメは輸出に回せばよく、その分は食料危機時の備蓄にもなる。現実を直視した農業政策の必要性を痛感する。

「日本国内で消費される米が減っているから、それに合わせて生産量を減らすべきという考え方は、合理的なように見えてそうではない」とする同記事の示唆にはうなずくものがあります。その考え方は、表面的な事象からいきなり結論に飛んでしまっている点で、本質的とは言えないでしょう。

先日ファミレスでランチを注文し、ライスではなくパンを選ぼうとしたら「パンは米粉になっている」と説明書きがありました。これまで原料にしていた小麦粉が入手しにくいからでしょう。食べてみたところ、限りなくこれまでのパン同様の味が再現されていました。

従来の「ごはん」という食べ方による国内消費だけで捉えると、人口減少や食べ物に対する嗜好性の変化から、今後も消費量はマイナス続きかもしれません。しかし、代替の利用方法や、記事が言うように輸出などに回すことができれば、コメ生産による農業の活性化という解決の方向性も出てくると思います。

そして、国内でのインバウンド消費への対応も挙げられます。

国連総会出席のためニューヨークを訪問した岸田総理によって、10月11日から1日当たりの入国者数上限の撤廃や個人旅行の解禁などを行うことが表明されました。底辺まで落ちたインバウンド消費も、いずれは再開されます。再開をチャンスとするには、自社商品・サービスの何をどのようにお買い求めいただけるのかについて、改めて整理する必要があります。

その際、同記事も示唆する輸出だけではなく、国内市場向けでも円安によるコスト上昇分を最終価格へ反映させることが望ましいと言えます。加えて、単に価格転嫁だけだとうまくいきにくい面もありますので、商品・サービスの付加価値も同時に高める視点が有効だと言えます。

このことはインバウンド消費以外にも当てはまりますが、とりわけ円安の影響で割安に出費できるインバウンド消費の担い手に対しては、より当てはまることだと想定されます。そして、そうした動きが広がっていけば、各市場の物価全体も少しずつ押し上げられるかもしれません。

円安には、言うまでもなく大変な面があります。そのうえで、これを契機としできることに取り組んでいく視点ももちたいところです。

<まとめ>
円安を機会に、輸出を含めた商品・サービスの高付加価値化、価格転嫁を目指す。


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