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円安に向き合う

先週、政府・日銀が24年ぶりの円買い介入に動いたことが話題になりました。今年1月は1ドル=110円台前半だったのが、22日には146円台目前まで円安が進みました。9か月間で30円以上も円安という、変動幅としては過去最大規模と言われています。この円安をどのように捉えて向き合うべきなのか、改めて整理してみたいと思います。

ここでは、3点考えてみます。ひとつは、円安にはかつてほどのメリットはないだろうということです。このことの指摘は、様々なメディアでも散見されます。

円安にはメリットもデメリットもあると言われますが、代表的なメリットは輸出が有利になることです。1ドル110円であれば、1ドル分の商品を売って110円得ることができます。これが1ドル140円なら、140円得ることができるわけです。輸出品を受け入れた他国では他国の通貨に基づいて支払いをしますので、円安であるほど他国通貨を円に換金した時の円額が膨らむことになります。

輸入は逆に不利になります。日本円を基本として支払いをしますので、1ドル分の商品に対して以前は110円の支払いでよかったものが、140円も払わないといけないことになります。私たちが普段手にする多くのものが、原材料は海外産・加工も海外でなされていますので、円安が進むほど支払いの負担は増えていきます。

以前は、日本は輸出大国と言われていました。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は大幅な黒字だったわけです。1990年代には年間10兆円を超えるようなプラスでした。しかし、最近ではコロナ禍前から貿易収支は赤字となっています。2019年度は約1.3兆円の赤字、2021年度は約5.4兆円の赤字となっています。

つまりは、輸出より輸入のボリュームのほうが大きいため、貿易面では円安で恩恵を受けるボリュームのほうが少ない、というわけです。貿易というものは、上記のような単純なわけではなく、もっと複雑な要素も考慮すべきだろうと思いますが、環境変化とそれに伴う為替を介した影響の概要としては、ざっくり上記のようにとらえるとイメージしやすいのではないかと考えます。

ちなみに、貿易収支は赤字ですが、経常収支は今でも日本は黒字です。経常収支とは、モノの輸出入の集計である貿易収支に、サービス収支、所得収支、経常移転収支を加えたものです。ここでは詳細は省きますが、企業が海外での直接投資で得た収益である所得収支が大きな支えとなっています。(ちなみに、この経常収支まで通年で赤字になってくると、国の与信力が大幅に悪化に向かいます)

円安のほうが、海外での投資で得た収益を円換算すると円額が膨らむため、日本全体のトータルで考えればなお円安のほうがメリットが大きいとみることもできるかもしれません。しかし、海外での直接投資には縁のない中小企業や一般消費者は所得収支の恩恵はそれほど受けないはずですので、かつてないほど円安のデメリットのほうが大きくなっているととらえることができます。

2つ目は、円安にも限度があるのではないかということです。これについては、専門家でも様々な見解がありますし、非常に不確実性の高いテーマですので、為替の素人である私などが軽々しくは言えないのですが。。そのうえで考えてみます。

今の円安は、商品・サービスの売買で実際に必要とされる実需に基づくもの以外に、投機的な資金の動きにつられた影響もあるはずです(どれだけの割合がそうなのかは存じ上げませんが)。唯一のマイナス金利となった日本で円を売り、米国など金利の高い国の通貨を買えば、金利差で利益が出ます。

加えて、円安という流れに乗ることで、他国通貨を買った時よりも、その通貨を円に対して高値で売ることができれば、その分の差益も出ます。外国為替証拠金取引(FX)が空前の活況と言われているのも、これを狙った流れの資金流入があるからです。

しかし、投機の資金は、どこかのタイミングで利益確定し、資金回収することが必要となります。政府・日銀の介入直後に5円ほど急激に円高に振れたものの、無限に介入できるわけではないため今後への影響は限定的だという声もあります。しかしながら、145円で介入したという実績は警戒ラインとして今後意識され、投機資金の引き上げを促す効果もあるのではないかと推察されます。資金の引き上げは外貨を売って円を買うことを意味しますので、円高圧力となります。

加えて、他国の金利上昇も無限ではないということです。米国も物価上昇幅が落ち着きつつあり、急激な金利上昇の影響で景気が冷めつつあると指摘されています。これまでは、日本と他国の金利差拡大がさらに進む想定で円安圧力がかかり続けましたが、今後これ以上金利差が開きにくいとなるとさらなる投機資金の流入は見込みにくいかもしれません。

以上、円安にはかつてほどのメリットは見出しにくくなっている、円安の流れの反転は簡単ではないものの、さらなる規模の円安が見込まれるかというとそうでもないかもしれない、ということを考えました。このような環境下で私たちは実務的に何を考えるとよいのか、3点目については次回以降のコラムで取り上げてみます。

<まとめ>
今の日本は、円安のメリットをかつてほどには受けにくい構造となっている。


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