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学生の生活費の現状を考える

8月18日の日経新聞で、「学生、自給自足の「推し活」 バイト代、30年で1.5倍 仕送り減でも購買力」というタイトルの記事が掲載されました。現在の学生事情を概観する一助として、有益な内容だと感じた次第です。

同記事の一部を抜粋してみます。

大学生の娯楽にかける費用がバブル期並みの水準に回復した。親からの仕送りは3割減ったが、高騰するアルバイト代で稼ぎ、その分を趣味に充てる自給自足の若者像が浮かぶ。バブル期は愛車でスキーや海に出かけたり、ブランド品を身につけたりするのがトレンドになった。令和はアーティストの「推し活」など自分の嗜好に合った消費に熱を入れる。

都内の大学に通う三重県出身の女子大生(21)は飲食店のバイトと企業のインターンシップで生活費を稼ぐ。仕送りは9万円で「光熱費や食事代もあり仕送りだけでは遊べない」。月約10万円をバイトで稼ぎ、余ったお金で楽しむのはアーティストのライブだ。「物を買うよりその場にいてこそ楽しめるライブの方が価値が高い」と話す。

消費者庁の2021年度調査では意識的な支出として音楽フェスなどの「参加型イベント」を選んだ人は10代後半、20代で16%超。全体平均6.6%の2倍以上だ。

バブル期の消費は大きく異なる。当時の若者を描いた映画「私をスキーに連れてって」(1987年)は高級ホテルのあるリゾートスキー場が舞台。男女問わず愛車を走らせ、好景気を体現していた。

博報堂生活総合研究所の「生活定点」調査によると、現在お金をかけているものとして「車」を挙げた20代は92年に27.8%。2022年は7.8%に減少した。

同研究所の夏山明美上級研究員によると、バブル期の若者は車やブランドを購入する「モノ」消費が主流だが、令和は参加型イベントなど「トキ消費」も重視する。「SNSが普及した半面、リアルの経験を求める人が増えた。その時しか味わえない盛り上がりを楽しむ」と語る。

全国大学生活協同組合連合会の「学生生活実態調査」からは、趣味などにかける費用が1990年代初頭並みに戻ったことが見て取れる。

下宿生活する国公私立大の学生が趣味や交際、サークル、新聞などに使う「教養娯楽費」は2023年は月1万2840円。ピークの1992年(1万3390円)と同水準になった。90年代後半から急減し、リーマン・ショック後に底打ちした後、新型コロナウイルス禍を除いて近年は回復が著しい。

一方、支出の中心を占める住居費は上昇しており、食費や衣料品・化粧品代などはバブル期よりも減少した。

収入の要の仕送りは月平均約7万円で直近ピークの96年に比べ3割減った。文部科学省によると、私大授業料(2023年度)はバブルが始まった1986年度の1.9倍。親元の余力は限られる。

ただしバイト代の高騰が減少分を補いつつある。90年前後は時給700~800円ほどだったが2023年は1100~1200円ほどに上昇し、大学生のバイト収入は月約3万6千円(23年)と1990年代から1万円近く増加。金銭的なゆとりが戻ったとは言えないが、「日常の中の『ちょっとしたぜいたく』を楽しんでいる」(夏山氏)。

93年の経済白書はバブル消費を「周りの人々が買うから自分も買う」と形容した。翻って令和は「消費行動が多様化し、1つの商品で大きなトレンドは生まれにくい」(ニッセイ基礎研究所の久我尚子上席研究員)のも特徴だ。

「モノ」消費に対する「コト」消費という言い方をよく聞きますが、同記事の示唆のように「トキ」消費と称するほうが、「コト」という言い方に増してより実態に合っているかもしれないと感じます。

学生のお金の使い方の内訳は、学生が自分たちの生活で何を優先させるのかを表しているはずです。

もちろん、何にどれだけお金を使うかは個人の志向によって違うわけですが、その中で全体的な傾向もあるはずです。よって、未来の社会人の支出がどのような傾向になりそうかについて予想するうえでの、ひとつの想定材料になり得ます。

同記事の範囲内から、3点想定してみます。ひとつは、是々非々で買うものを選別する消費スタイルが今後さらに強まっていくのではないかということです。つまりは、価値を見出すものにはきちんと支出するが、価値を見出さないものには支出をしないかさらに節約するということです。

同記事からは、学生が使えるお金の総額が、30年前などと比べて実質で減っていることが指摘できます。

同記事で掲載されていたグラフから読みとると、学生1人の1か月当たり仕送り受取額+アルバイト代による収入の合計金額(生活費にできる金額計)の平均は、仕送り代ピークの1996年で約13万円でした。これが、2023年では約10万7千円です。約18%減となります。この間、多少とはいえ近年物価が上昇していることを勘案すると、実質ではさらにマイナスとなってそうです。

保護者からの仕送り減額の影響が18%減につながっていて、保護者の可処分所得が減っていることが要因になりそうです。子どもへの仕送りを減らしながら家計をやりくりしてきたわけですので、当然様々なものへの支出を節約しているはずです。こうした節約志向の考え方は、子どもにも影響をもたらすはずです(賢い節約をしようというのは、ある意味いい影響だと思います)。

90年前後の時給700~800円が2023年に1100~1200円ほどに上昇したということは、時給が1.5倍程度になっているということです。この間、バイト収入の平均は月約2万6千円が3万6千円に約1万円増ということですので、約1.4倍です。ということは、学生がバイトに取り組んでいる時間は、この30年間で微減ではあるもののあまり変わっていないと概観できます。

首都圏のコンビニなど小売店では店員が外国人の方ばかり、飲食店でも外国人の方ばかりを見かけます。こうした景色を見慣れてしまうと、「日本人学生はアルバイトをしていないのだろうか?」と思ってしまいそうですが、実際はそうでもなくて相応にアルバイトに取り組んでいそうだと想定されます。おそらく、バイト先も多様になったのと、そもそもの母数である学生数の減少から、そのように感じるのかもしれないと想像します。このあたりも、表面的な印象にとらわれると、実態を誤解しそうな例のひとつかもしれません。

他方で、バイト時間を増やしてまで収入を増やそうとはしない、ということも言えるのかもしれません。学生の本業である勉学に加えて、就職活動で取り組みを期待されることも増えていき、もしかしたらバイトの時間を増やしたくても増やしづらいなどの環境(いい意味で)もあるのかもしれません。

また、教養娯楽費が92年と2023年でほぼ同じである一方で、食費や衣料品・化粧品代などは減少しているとあります。同記事にあるグラフからは特に食費の減り方が大きく、1か月あたり5610円下がって約25,000円になっています。1日あたり約800円です。

このことからは、生活を維持するために最低限必要な食事で済ませ、それ以外のぜいたくな食事や外食などが減っていることが想定されます。

一方で、教育娯楽費への支出は、30年前の学生とあまり大差がないというわけです。自分が使いたいと思う費目には、それなりに使っていることも想定されます。

支出総額は30年前の学生より減っている。その中で、全体的には節約をしながらも、自分にとって価値を見出すものには選別したうえで使う。こうした消費スタイルは、社会人になって以降の消費スタイルにも多少なりともそのまま受け継がれるのではないかと想定されます。

続きは、次回考えてみます。

<まとめ>
支出を節約したい費目は一層節約、支出したい費目にはそれなりに支出する消費スタイルが、さらに高まるかもしれない。

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