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物価高への対応を考える(2)

前回の投稿では、物価高が長期間続く前提で対応が必要になることをテーマにしました。物価高が自社の収益構造に与える影響を、品目ごとに慎重に見積もったうえで、早めの価格改定を検討するべきだと考えました。その続きです。

今までと同じ商品・サービスで価格を見直すにとどまらず、この機会に商品・サービスの中身自体を見直すことも、検討に値すると思います。

ある経営者様から、次のような対応を目指して動いているとお聞きしました。

・原材料費が上がった分、消費者価格に転嫁せざるを得ない。自社が適正な利益を確保できるだけの価格転嫁をさせていただく。

・同時に、製造工程の一部を見直す。自社では、他社にはない、ある製法が売りとなっているが、その製法を100%徹底しようとすると費用と手間がかかるため、完全には取り組めていなかった。この機会に費用と手間をかけ完全に取り組み、「100%の○○」と謳うことにする。

・そのためにかかる価格も反映させ、消費者価格を大胆に見直す。お客さまにとってはトータルで結構な価格増になるが、より明確な差別化を図る。意識の高いお客さまには、この取り組みが理解されると判断している。

値上げしやすい環境下で、利益確保に必要な分以上の値上げをするだけだと、単なる便乗値上げです。しかし、製造工程を見直し付加価値を高めることも行うのであれば、企業戦略の一環と評価できます。同社様の例のように、この機会に商品・サービスの中身とポジショニングを再構築するのもよいのではないでしょうか。

3つめは、人件費への適切な反映を判断することです。近年、インフレ率2%が社会的な目標値として認識されてきました。これも意識した結果になっているのか、ここ数年は平均で年2%程度の賃上げが続いています。そして、現政権は3%の賃上げを各社に求めています。しかしながら、物価高が利益を圧迫する環境下で人件費までも例年のトレンドの範囲を超えて上げるのは、経営にとっては結構な負担になるはずです。

他方、インフレ率を下回る賃上げ率だと、従業員の生活水準は下がることになります。消費者物価指数は直近公表分の1月で0.5%の上昇にとどまっているようですが、この先価格転嫁が進めばさらに上昇していく可能性があります。3月13日の日経新聞記事を参照すると、「日本の企業物価指数が2月に9.3%上がり、41年ぶりの伸びになった。携帯電話料金の引き下げの影響が一巡する4月以降、2%台に乗るとの見方もある。」とあります。

さらに、社会保険料が年々改定されていきます。各種サイトを参照すると、2022年10月に雇用保険料率が改定されます。例えば月収30万円の従業員の場合は、10月以降に下記となります。(事業者負担分も別途上がります)

従業員負担(月額):これまで900円→10月以降1,500円(600円増)

月収30万円にとっての600円は、0.2%に相当します。つまりは、賃上げゼロの場合、実践的な手取りとしては雇用保険料が増えた分事実上の0.2%賃下げとなるわけです。インフレで消費者物価が上がっている場合、その分も事実上の賃下げ要因になります。

こうした上昇は、広義の社会保険である「医療保険」「年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」のうち、労災以外は今後も起こっていくでしょう。

会社が事業活動を継続するために必要な利益を確保しながら、同時に従業員の生活レベル維持向上を可能にする賃上げを実現させる。とても難しい経営判断になりますが、現状の賃上げルール据え置きを続けると、実質的な賃下げとなり、気付いたら他社の待遇に対して力負けしていた、ということにもなりかねません。賃金相場のトレンドについて、例年以上に感度を高めて観察しておくことが、当面必要だと思われます。

<まとめ>
賃金相場のトレンドに注意し、自社として最適な賃上げ水準を判断する。


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