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人事評価制度の目的

先週、「人事研鑽会」というタイトルの勉強会を行いました。秘密保持の前提で、人事・人材マネジメントに関する各社の実情を意見交換しながら、ヒト資源の活用方法について考えていく趣旨のものです。

ご参加者の中から、次のような問いかけがありました。
「そもそも人事評価制度を実施する目的を、各社がどこに定めているのかが知りたい。モチベーションアップなのか、人材教育なのか、など。」

人事評価制度には、大きく次の3つの意義・目的があると考えることができると、私は説明しています。この3つは、どの企業にも当てはまる要素だと言えます。

・業務の推進
・人材の育成
・適正な処遇

人事評価制度の設計では、「自社がこんな人材であふれた組織にしたい」「自社の社員にはこんな人材になることを目指してもらいたい」という考えを形にします。また、各人に期待される役割・機能や結果としての成果を定義し、各人が最大限のパフォーマンスを発揮できるように導きます。

そして、例えば今年度に各人が獲得したい職能、発揮したい役割・機能、達成したい成果等と現状との一致やギャップを明らかにし、今後どんなことに取り組んでいくのかを考え、実践していきます。これにより、「業務の推進」「人材の育成」が後押しされると言えます。

また、評価結果により賃金配分を決定し、賃金をもらうべき人が相応にもらう状態をつくることで納得感を生み出すことにつなげます(「適正な処遇」)。私たちは、「人事」や「評価」について考える時、往々にして「適正な処遇」のみにフォーカスしがちです。しかし、「業務の推進」「人材の育成」が、組織全体で、及び個のレベルで実現できていないと意味があないため、これら2つの要素にも注目すべきです。この目的感を認識しておくことが重要です。

そのうえで、どの目的によりウェイトを置くのかの重みづけ・優先順位は、各社のビジネスモデルや方針によって異なってくるでしょう。

ある会社では、人事評価では「適正な処遇」に思いっきりフォーカスする、その結果相互に報酬のパイを競い合うことでパフォーマンスが上がり、組織が生み出したい成果が最大化されると考えるかもしれません。その場合は、もしかしたら相対評価によって各人の成果を順位付けし「適正な処遇」を追求することが理にかなっているかもしれません。人材育成も重要ながら人事評価ではそこは全面的にはフォーカスせず、二次的な効果として期待するわけです。

あるいは別の会社では、「人材の育成」にフォーカスする、自社の人材基準を決め各人がどこまで到達できたかを評価し成長を徹底して促すことが、結果的に組織の成果を最大化させると考えるかもしれません。このように考えたうえで年功序列や新卒主義などを標榜するならば、それもひとつの有効な人材マネジメントの姿になり得ます。

いずれにしても、モチベーションアップについては、直接の目的とするべきではないと思います。上記3つの目的を実現する過程で、結果としてついてくるものと認識すべきです。その理由は大きく2つです。1つは、基本的に人のモチベーションを他者や会社が直接操作することはできないからです。

何を魅力的に感じ、どんなことにやりがいを感じるかは、個人の中で自然に沸き起こってきたり、個人が決めたりすることです。他者から「このことについてのモチベーションを上げよ」と言われて上がるものではありません。よりよい仕事ができて、次はどんなことをやってみたいか描けていて、自己成長できていると感じられれば、自然にモチベーションは上がっていくはずです。モチベーションアップは、人事評価制度の主目的ではなく、副次的な効果と位置づけることが必要だと思います。

2つめの理由は、評価によってモチベーションを操作しようとすると、そこから評価制度の運用が歪んでくるからです。ありがちな話としては、「この評価結果で処遇しフィードバックもすると、本人のモチベーションがダウンすることが心配。よって今回は、期待料込みで加点し評価を少し上げておく。」というものです。こうした操作を加えた途端に、評価の公平性への信頼を失います。

人は敏感なものです。個別の評価結果を開示していない組織でも、なんとなく各人がどのように評価されているのかの評価結果は感じ取っています。上記のような操作も感じ取り、「結局やってもやらなくても評価は同じ」「自分は評価されない」のようなメッセージがまん延するものです。こうなると、その本人のモチベーションはともかく、周囲全員のモチベーションを下げることにもなってしまいます。

また、本人に対しても、今の仕事で足りていないところや課題とすべきことが的確に伝わらず、できていないものができているという間違ったメッセージにもなり得ます。そうなると、業務の推進も人材の育成にもなりません。

人事評価制度で何の実現を目的とするのか、改めて社内で認識共有し、そして現状の運用がその目的とずれていないか、振り返ってみるとよいと思います。

<まとめ>
モチベーションアップは、人事評価制度実施の直接の目的にはならない。


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