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社員構成の未来を想定する

先週から、日経新聞で「少子高齢社会の実像」というタイトルで、経済の考察が連載されています。日本の人口減少や少子高齢化の特徴を説明したうえで、経済成長、格差、貧困にもたらす影響を議論し、どのような政策が考えられるのかを考察するものです。

12月6日の記事を一部抜粋してみます。

今では多くの人が少子化対策の重要性を意識していますが、少子化対策で人口問題は解決できるのでしょうか。残念ながら厳しいと言わざるを得ません。理由は2つあります。

1つは、対策が遅すぎたということです。前回、日本で少子化問題への意識が薄かった要因として、人口が増加していたことを挙げました。合計特殊出生率が人口置換水準を下回れば、長期的には必ず人口は減少します。

合計特殊出生率が2を下回り続けても人口が増加したのは、当時の日本には出産期の女性が多かったからです。「1人の女性が生涯に産む子ども数」である合計特殊出生率が2を下回っても、出産期の女性が多かったため、出生数は相対的に高かったのです。このことを「正の人口モメンタム」といいます。

逆に、現在の日本は仮に合計特殊出生率が2を上回り続けても、かなり長い間、人口減少は避けられません。それは、現在の日本が出産期の女性が少ない人口構造になっているためです。このことを「負の人口モメンタム」といいます。

2つめは、出産意欲自体が低下していることです。22年9月に公開された「第16回出生動向基本調査」(調査は21年)によれば、有配偶者の理想子ども数は、第15回調査(15年)の2.32から2.25に減少しました。さらに、未婚者の希望子ども数は、女性で2.02から1.79、男性で1.91から1.82となり、未婚女性の減少が顕著です。既婚、未婚問わずに欲しい子ども数が低下していることを考えると、希望と現実のギャップを埋めることができたとしても、十分でないことが分かります。

もちろん、希望と現実のギャップを埋める政策が方向として正しいのは事実です。仮にギャップを埋めないと、さらに少子化は加速します。ただ、重要なのは少子化政策を行うことと同時に、人口減少や少子高齢社会は不可避であることを認識し、所与としたうえでの経済社会政策が不可欠だということです。

経営学者のピーター・ドラッカー氏は、人口構造の変化は予見可能なものだと指摘していました。書籍「イノベーションと企業家精神」では、次のようにあります。

産業や市場の外部における変化のうち、人口の増減、年齢構成、雇用、教育水準、所得など人口構造の変化ほど明白なものはない。いずれも見誤りようがない。それらの変化がもたらすものは予測が容易である。しかもリードタイムまで明らかである。

そのうえで、ほとんどの組織はそのことに対応できていないと指摘しています。

このような人口構造の変化が企業家にとって実りあるイノベーションの機会となるのは、ひとえに既存の企業や公的機関の多くが、それを無視してくれるからである。彼らが、人口構造の変化は起こらないもの、あるいは急速には起こらないものであるとの仮定にしがみついているからである。

この示唆は、大きく2つのことに通じると考えます。ひとつは、市場やお客さまの変化を想定しきれていないことで、マーケティングや事業機会を的確に捉えられていないということ。もうひとつは、事業活動を行うに必要な内部人材という資源の確保を難しくしてしまうということです。

予見可能性が高いながら対応できていない理由のひとつが、短期的に出てくる影響が限定的だからでしょう。合計特殊出生率が2を下回っても人口が増えていれば、どうしても切迫感は感じづらくなります。私たちには、損失を先送りしようとする性質が備わっています。負の影響を実感していないなら、長期的にはまずそうだと感じていても、当該課題への対応の優先度をなかなか上げようとはしないものです。

12月8日の同連載では、次のように説明されています。(一部抜粋)

日本のベビーブームは急速に終わりを迎え、1950年代のはじめには合計特殊出生率が急激に低下しました。このことは、短期的には経済に対してプラスの影響をもたらしました。

人口分布を測る指標には高齢化率以外に「従属人口指数」があります。15歳未満の年少者と65歳以上の高齢者を足した人口を、生産年齢人口で割った値です。指数が小さいと一般的には経済に対してプラスになり、「人口ボーナス」ともいいます。出生率が低下すると15歳未満が減少する一方、65歳以上人口は短期的には変わらないので、人口ボーナスとなります。

出生率低下は短期的には経済成長をもたらします。その理由の1つは、子育て負担低下で家計の貯蓄が増えることです。家計の貯蓄増は投資の源泉となり、資本蓄積を通じて経済成長をもたらします。もう一つの理由は、子ども数が減ると1人の子どもに十分な教育投資が可能となり、人的資本が蓄積されて経済成長をもたらすことです。

日本の高度経済成長の要因として、高い投資率や質の高い労働力が挙げられますが、これらの背景には出生率の低下という人口構造の変化があります。中国も同様に一人っ子政策による強制的な出生率の低下が、投資率の高さや教育水準の向上を通じて経済成長の原動力になりました。

これらのことは、国という単位の組織だけではなく、企業という単位の組織でも起こっていることだというのが、ドラッカー氏の示唆から導き出されることなのだと思います。

従属人口指数の考え方の通り、企業も短期的には、新卒などの若手社員の入社人数が減ったほうが、経営効率が高まります。ビジネススキルの低いメンバーを新たに加えることに投資をしないことで、その資源を資産の蓄積や前から在籍しているスキルの高いメンバーに投資することで、生産性が高まるからです。どうしても回らない業務があったとしても、外注化して対応することもできます。

新しいメンバーを加えて、自社についての教育や社会人教育から行い、ビジネススキルを1から覚えてもらうのは手間がかかるものです。その手間を少なくするほうが、事業がスムーズに進みます。しかし、それはあくまでも短期的な視点での話です。その考え方では長期的にうまくいかなくなるのは、負の人口モメンタムの考え方の通りだと思います。

しかし、ドラッカー氏の示唆の通り、いろいろな企業の方をお話しても、次のようなことは想定していない、取り組んでいないことが多いものです。

・現状のままだと、自社の5年後、10年後の社員構成がどうなっていくか、社員構成のピラミッド予測ができている。すなわち、現在の社員と採用のあり方・実績を続けていくと、社員総数が何人で、その内訳として社歴年数、年齢、性別、職種、役職、スキル、経験値などの属性がどのような構成になっていくのか想定できている。

・自社の長期ビジョン、経営戦略を進めていこうとした場合、5年後、10年後の組織図が現状からどんな組織図に変わっていなければならないか、描けている。その組織図上にいる人は、社歴年数、年齢、性別、職種、役職、スキル、経験値などの属性がどのような内訳の構成になっているべきか明確になっている。

・両者のギャップから、どんな人材調達・育成をしていくべきか、方針がまとまっている。それに向けた取り組みが既に始まっているか、あるいはいつから何を始めるか決まっている。

新規の人材流入の減少が、組織の発展・成長に与える影響は、国同様、短期と長期ではまったく異なると言えます。そして、新たな人材や若手人材のパイ全体が減っていく今後は、急に外から人材調達を始めようとしても、これまで以上に難しくなります。

一定の未来が確定している社員構成への対応感度を高めていく視点を、もっともつべきだと言えるでしょう。

<まとめ>
人口動態の今後を想定する視点で、組織のメンバー構成を想定する。

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