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二重価格の今後を考える

6月14日の日経新聞で、「値上げ 変わる食卓の常識4 二重価格でも「安すぎる」」というタイトルの記事が掲載されました。「インバウン丼」と称されるなど、外国人観光客向けの高額な丼ものが最近話題にもなっていますが、その背景について取り上げている内容です。

同記事を抜粋してみます。

東京都江東区にある公設の卸売市場である豊洲市場の隣に2月に開業した「豊洲 千客万来」。約50の飲食店が軒を連ね連日、円安の恩恵を受けるインバウンド(訪日客)でにぎわう。しかし、市場で働く人や買い出しする人の姿はまばらだ。1万円のウニ丼など銀座すら超える価格設定が多いからだ。

家族で香港から来た馬英明は「日本の海鮮丼を食べるのが夢。地元の和食店でも5千円以上はする。安すぎるくらいだ」とトロやイクラがのった1万8千円の丼をためらうことなく選んだ。北海道のニセコや小樽など観光地では訪日客バブルが起きている。

外食企業は訪日客シフトを強める。「日本人はサーロインの3000円牛串を買わないが、訪日客は『安い』と言って買う」。外食大手ワタミ会長兼社長の渡辺美樹は今後、国内は訪日客の需要が見込める場所にしか出店しない方針を明らかにする。

23年11月には和牛串焼きの持ち帰り専門店を東京・築地に開いた。ワタミの24年4月の訪日客売上高は76%増と過去最高の伸び率だった。とはいえ日本にいる以上、日本人を相手にしなければビジネスは広がらない。その答えが二重価格の導入だ。

東京都渋谷区で4月に開業した飲食店「海鮮バイキング&浜焼きBBQ 玉手箱」は日本在住者と訪日客で価格が違う。約60品の海鮮食べ放題に飲み放題も付いたコースは月~木曜日の夕食時間帯で日本人と在日の外国人なら税抜き5980円なのが、訪日客は1000円高い6980円になる。

「SNSで見てどうしても来たかった。地元で同じ料理を食べると2倍はする」。5月22日夜に訪れた香港在住の黎衍均は、価格を気にする様子なく食事を堪能した。レストラン運営会社社長の米満尚悟は「訪日客への接客コストを考えると金額を高く設定せざるを得ない」と説明する。

消費者保護法制に詳しい弁護士の古川昌平は「料金の適切な説明ができれば、二重価格表示でも景品表示法で問題にはならない。消費者の受け止め次第だ」と指摘する。デフレを脱却しつつある今、商品・サービス需要に応じて価格を変えるダイナミックプライシング導入など新たな価格体系を導入する時にきている。

同記事からは、2つのことを考えました。ひとつは、料金設定の適切な根拠を明確にすることの必要性です。

同記事中の識者の示唆によると、料金の適切な説明ができれば、複数の価格設定は法的に問題にならないということです。逆に言うと、説明ができるぐらいに料金の根拠を明確にしておく必要があるということになります。

かかる費用など、商品・サービスの料金の構成要素のうち、どこまでを細かく開示するかは別として、少なくとも異なる料金設定を行うのであれば、その理由を尋ねられた時に十分説明できる考え方の準備をしておくことが求められそうです。

もうひとつは、同じような商品・サービスで多重価格やダイナミックプライシングが存在する状態が、今後ますます広がっていきそうだということです。

交通機関や宿泊代が、まったく同じ便益を享受するものながら、繁忙期・閑散期で異なる料金設定になっているなどの多重価格には、私たちはある程度なじんでいます。しかし、同記事の例のように、例えば食事ではまだあまりなじみがないと思います。

一方で、他国では観光客向け・外国人向け料金というやり方は、ある程度浸透していると言われています。日本においても、今後この動きは広がっていくことを予感させます。このことは、観光業以外にも波及していきそうです。

そもそも、多重価格やダイナミックプライシングといったやり方自体は、これまでにも存在していました。

性能が劣化したわけでもないが売れ残りのセール品を安く売る、今申し込んだ人だけ割引の特典があるなど、わけありの理由がわかるものであれば、これまでにも広く受け入れられてきました。こうしたやり方が、今後さらに幅広い場面や状況、用途に広がっていくのではないかと、同記事からは予感する次第です。

それにしても、トロやイクラがのった1万8千円の丼を、安いと言って食べる人がいるということです。2時間かけて食べる懐石料理ならともかく、丼ものなら20分ぐらいで食べ終わるでしょう。日本人の一般的な経済感覚では、当てはまらないものがあります。

もちろん、すべての外国人が同様な感覚と判断をするわけではなく、あくまで一部の人の例のはずです。そのうえで、私たちの感覚ではあり得ないような料金設定の料理が売れるということは、それだけ国内外の価格差が広がっているということ、日本国内の商品・サービスの値付けで安いものがあるということだと考えられます。

国内外の市場を超えて、商品・サービスの価格設定の動きに敏感になるということは、今後ますます求められそうだと思います。

加えて、インバウンド消費の需要は、国際的な移動ができなくなるような環境に置かれると一気に蒸発してしまう可能性があります。事業の収益を、来日する人が実地でインバウンド消費することに過度に依存することは、リスクが高いというのも認識しておくべきだと思います。

<まとめ>
多重価格やダイナミックプライシングは、今後さらに幅広い場面や状況、用途に広がっていくかもしれない。

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