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自己決定の重要性

先週は、4月17日の日経新聞の記事「日本企業の「偽りの優しさ」 自己決定重視に転換を」に関連し、仕事への熱意などについて考えました。今日は、同記事に関連し違った角度から考えてみたいと思います。

同記事から一部引用してみます。

~~職場を活性化するキーワードが「自己決定」だ。働く人一人ひとりが自らの選択に覚悟と責任を持ち、自律的にキャリア形成するのが本来の姿である。人事部の言いなりではなく、自ら選んだ仕事なら熱心に取り組むのは当然だ。「やらされ感」から解放され、生き生きと仕事をする人が増えれば、職場と会社は活気を取り戻す。

一例をあげると、KDDIが2020年に始めた社内副業だ。社内の各部門が「ドローンビジネスの用途開発」や「採用のためのイベント開催」といった業務を特定し、副業人材を公募する。意欲ある人が手を挙げ、6カ月の任期で副業を開始。勤務時間の20%を副業に充てるのがルールで、例えば週1日は副業先のオフィスで丸1日過ごすことになる。同社の白岩徹人事本部長は「副業をいろいろ経験すれば、自分の適性や好きな仕事が分かってくる。素晴らしい上司や仲間に出会うかもしれない。社員のキャリア形成の幅を広げたい」という。

カゴメは働く人にあえて「拒否権」を付与した。育児や配偶者との同居を理由に、最大2回まで転勤についての希望をかなえるのだ。勤務地の選択を社員に委ねることで、人生設計の自由度を高め、働く意欲を引き出す狙いだ。

サイバーエージェント(CA)や双日が実施するのは、極めて実践的なビジネスコンテストだ。CAの「あした会議」という経営会議では各執行役員がヘッドになり、現場の社員を4人募り、新たなビジネスプランを競い合う。この会議から生まれた子会社はすでに32社に達し、同社の主軸の一つであるゲーム事業もここから誕生した。~~

人は当然ながら、自分の行動することを他人の命令ではなく自分の意志で決めたほうが、その行動に対してやる気と責任が持てます。このことを理論的に説明しようとするものとしては、自己決定理論というものがあります。アメリカの心理学者であるエドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱したものです。

この理論の中では、以下のことが説明されています。

・基本的に「外発的動機づけ」(報酬、評価、罰則、強制など、外部からの働きかけが行動の起点となるもの)よりも「内発的動機づけ」(興味、関心、好奇心など、自分の内面の感情が起点となるもの)に基づく行動のほうが、最終的に高いパフォーマンスや学習効果を得られる。

・私たちは、「有能さ」「関係性」「自律性」の3つの基本欲求をもっている。その中でも、「自律性」の欲求を満たすことが重要である。この3つを高めていくことで、当初は外発的動機付けが起点となって始めた行動であっても、次第に内発的動機付け(自身がやりたいと思う)を土台とする行動に変わっていくことができる。

有能さ:自分はできる、能力があると感じられる状態

関係性:周囲の人から自分に関心を持たれていると実感できる状態

自律性:行動開始から終了まで、自らの意思で決定できる状態

同記事がキーワードにしている「自己決定」とそれに関連する事例は、この自己決定理論に当てはめると「自律性」を高めるための仕組み・取り組みであると言うことができそうです。

上記で転勤に拒否権を与えるカゴメの事例が紹介されています。以前の社会環境では、社員は転勤辞令に応じて無制限に動くのが一般的でした。そこには、自律性がなかったのではなく、ある種の自律性が満たされていたと言えるのではないかと思います。それは、「転勤拒否して辞めるという選択もできる。1人で一家の収入を支えているので、辞めるなら同等の就職先を確保しなければならないが、それはほとんど可能性がない。そんなことをわざわざするより、辞令に乗って相応の昇進をしていくほうを選びたい」といったものです。

しかし、社会環境は変わってきました。この画一的な自律性が依然として当てはまる人もいる一方、当てはまらない人の割合が増えてきているのは、周知のところです。カゴメの事例は、環境変化も踏まえて現状に合った自律性を持たせるための工夫と言えると思います。

経営学者のドラッカーは、MBO(Management By Objectives and Self-Control)を提唱しました。MBOは日本では「目標管理」と訳されましたが、この言葉は「and Self-Control」(自己統制)をそのニュアンスから落としてしまっています。本来の意味合いは、個々のメンバーに自ら目標を設定してもらい、その実行や進捗管理を各人が自ら主体的に行う考え方です。本人の自律性に委ねることで、結果として大きな成果が得られるという人間観に基づいていると言えます。上記の自己決定の考え方と通じるところです。

普段いろいろな企業でお話を聞く機会がありますが、社員が自律性に満たされていると感じながら仕事ができている環境・文化の職場は、そう多くありません。また、すべての社員を取り巻く環境で上記のような考え方が簡単に適用できない現実もあります。例えば、新入社員に対していきなり業務目標を自己決定し自己統制してもらおうとしても、まだ何の知見・経験もない新人には無理があります。

しかし、独力でできることが増えていったり(有能さ)、自分のやっていることが周りから感謝されたり(関係性)、業務の中で自分の裁量で企画できることが増えていったり(自律性)することで、もともと組織から命じられた仕事であっても次第に内発的動機付けに基づくものに変わっていく可能性もあります。組織活動で重要だと言われている、部下へのフィードバックや対話を通して、このようなことにつながるやり取りも意識して行うとよいと言えます。

メンバーに(及び自分自身に)自己決定を促す制度などの仕組みと現場での取り組みがなされているか、振り返ってみるとよいと思います。

<まとめ>

自己決定の実感が持てる環境をつくる。

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