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インドの雇用動向を考える

9月28日の日経新聞で、「インド、正規雇用を増やせ」というタイトルの記事が掲載されました。24年度予算は雇用面の強化を目指すうえで十分とは言えないとしながら、インドの雇用の現状と必要な方策について提言している内容です。

先日の投稿では、他国での経済動向を把握することをテーマにしましたが、今回はインドの一端について、同記事も参考に少し考えてみます。

同記事の一部を抜粋してみます。

インドのモディ政権は7月、2024年度の政府予算案を発表し、大衆の支持を得るために「雇用予算」と銘打った。財政状況は改善されつつあり、支出は女性と若年層の雇用や訓練を重視している。マクロ経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が強いため、インド経済に対する投資家の関心は急速に高まっている。

好ましい経済状況はインドの金融資産や主要都市から顕著に感じられるが、農村部や若い世代にはまだ浸透していない。多くのインド人はマクロ経済の拡大と、女性の低い労働参加率や限られた正規雇用が重荷である労働市場との間に差があると感じている。

仏投資銀行の調査によると14年のモディ政権発足以来、雇用は1億1200万人増えたが、インド人の約45%は依然として農業部門に従事し、その大半が最低賃金未満で働いている。2億4700万人が働く農業を除くと建設業が最大の雇用の受け皿だ。6800万人を雇用するが、同産業も低賃金で福利厚生は限られている。国際労働機関(ILO)によると、23年にはインドの人口約14億人のうち労働力人口は5億4500万人にとどまり、そのうち正規雇用は約10%にすぎなかった。

仏投資銀行の調査では未活用かつ新しく生まれる労働力を吸収するため、インドは30年までに1億1500万人の正規雇用を創出する必要がある。困難な課題を達成するには今後5年間、製造業からサービス業まで、成長エンジンをフル回転させなければならない。

インドはサービス業だけでは人口ボーナスを活用できない。理由は2つある。まずインドではすでにサービス業が経済規模に比べて大きな比重を占める。そして労働市場での吸収能力は人数と質の両面で限られる。インド中銀によると、現在インドのサービス輸出は世界第7位だ。通信、コンピューター、ICT(情報通信技術)サービスの規模はアイルランドに次いで世界第2位とみられる。

サービス分野が成長する余地はまだあるものの、技能集約型のために雇用の吸収力は限定的だ。例えばIT(情報技術)部門全体の雇用は500万人にすぎない。ILOの24年の雇用報告書によると、ICT、金融、ビジネスサービス部門の雇用が約2300万人であるのに対し、製造業は6300万人だ。これは、インドがサービス輸出の成長を続けたとしても、雇用を吸収できる能力には限界があることを意味する。

インドの貿易赤字は製品輸出が振るわないだけでなく、自国の消費に必要な量さえも生産できず、増え続ける中国からの輸入に頼っていることを示唆している。インドは生産年齢人口が世界最大であるにもかかわらず、製造業輸出は世界第19位と低い。

同記事に見られるインドの雇用人口について、関連サイトも参照し、次のとおりまとめてみます。

総人口:約14億3000万人
労働力人口:5億4500万人(約38.1%)
農業人口:約2億4700万人(約17.3%)
製造業人口:6300万人(約4.4%)

日本の総人口と、総人口に対する各雇用人口の割合を関連サイトから概算してみます。

総人口:約1億2400万人
労働力人口:約6900万人(約55.6%)
農業人口:約130万人(約1%)
製造業人口:約1050万人(約8.5%)

労働力人口とは、15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたものを指します。人口のうち、働いている人と、働く意思を持っている人の総数です。インドの労働力人口の割合が日本より低いということは、日本に比べ働く意思を持っていない人の割合が高いという想定ができます。日本では女性人材やシニア人材の就業が進んだことで、このような開きがあるのではないかと思われます。

経済発展が続くにつれて、雇用先が農業から製造業へ、そしてサービス業へと移っていくのが、これまでの流れです。経済を取り巻く環境は変わっていきますので、今後もその通りになるのかはわかりませんが、当面はその流れが続くと想定されます。

日本とまったく同じ雇用人口の構造になるわけでもありませんが、仮にインドが今の総人口を維持したまま、製造業→サービス業の発展を経て日本の人口構造に近づくと、次のようになります。農業人口1%は極端かもしれませんが、農業大国の米国でも1.62%であり、現実感がまったくない値とも言えない(いつの時点になるかはともかく)と思われます。

総人口:約14億3000万人
労働力人口:約7億9508万人(約55.6%)+2億5008万人
農業人口:約1430万人(約1%)-2億3270万人
製造業人口:約1億2155万人(約8.5%)+5855万人

今後、(上記が仮に実現した場合)新たに労働者となるインド人が日本の人口の倍以上増え、その中で製造業従事者は日本の約5倍分新たに増えるというわけです。

さらには、製造業以外の他産業にとって、上記で労働力人口が増えることによる新たな労働供給源、及び農業人口が減った場合に移ってくる新たな供給源になる人口は、+2億5008万人+2億3270万人-5855万人の差し引き4億2423万人です。この雇用人口が、サービス業などの新たな雇用の受け皿になる可能性があることになります。

インドは、足元で既に少子化が起こっています。しかしながら、今世紀半ばまで人口が増えると予想されていて、16億人を超えるという予想もあります。労働供給力のポテンシャルがここまで高い国は、世界中他にないかもしれません

しかも、上記が現実化すれば、1人当たりの可処分所得も上がっていきます。今後の市場のポテンシャルとしても、世界随一だと言えそうです

同日付の別記事によると、インドの経済発展に最も必要なのが労働集約型製造業の育成だと、多くの経済学者が指摘しているそうです。また、かつて世界の最貧国と言われた隣国のバングラデシュが、労働集約型の典型と言われる繊維・アパレル産業を輸出産業に育てて、1人当たりGDPでインドを抜いた経緯があると指摘しています。

国の政策との関連もあり、この構図がそのままインドに当てはまるとは限りませんが、同じような状況下から近隣エリアで成功した事例は、そのようになる一定の現実感を示唆しているとも言えます。

製造業にとっての事業展開先、伸び率の高い経済発展に伴う所得水準の向上とそれに伴うニーズに答える販売先として、各社にとってインドという存在感や選択肢は、視野に入れるべき方向性として改めて大きいことが言えると思います。

<まとめ>
製造業にとっての事業展開先、商品・サービスの販売先として、インドのポテンシャルは大きい。

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