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「大玉送り」など、一見すると昭和風のイベントだが

3月11日の日経新聞で「Z世代の「育て方改革」」というタイトルの記事が掲載されました。パナソニックが開いた社員1200人の大規模交流イベントを例に、若手世代への対応について考えた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

人手不足で人材獲得競争が激しさを増すなか、企業が若手の育成に苦労している。転職も含めて自分のキャリア形成を重視する「Z世代」の価値観が、伝統的なタテ割り組織とかみ合わないからだ。職場内訓練(OJT)で育てる従来のやり方には限界があり、企業も「育て方改革」に動き出している。

2月22日、パナソニックが東京・代々木第二体育館で社員1200人が参加する交流イベントを開いた。大玉送りなど「昭和の社員運動会」にも似た競技に会場は沸いたが、内実はかなり違っていた。

参加者はキャリア採用を含む入社5年までの若手に限定。そこから18人の実行委員を公募し、ゼロからイベントの企画・運営を委ねた。チーム分けは所属をごちゃ混ぜにし、互いの仕事を語り合うセッションや、品田正弘最高経営責任者(CEO)ら経営幹部と直接話す機会も設けた。

実行委員をサポートしたカルチャー改革チームの唐澤篤氏は「入社5年を境にやる気が低下する社員が多い。コロナ禍もあり、事前と事後の交流も含めて、コミュニケーションを通じた行動変容を促したいと考えた」と話す。

そもそもこのイベントは、同社を構成する5つの分社間の意思疎通が、オープンイノベーションなどに不可欠と考えたことがきっかけだった。イベント後、異なる部門の技術やマーケティングを生かそうという声が参加者から自発的に出てきたという。

北海道から鹿児島まで対象社員の3人に1人が参加し、宿泊代や旅費など会社が負担したコストは数千万円とみられる。社内調整では「イベントで離職率はどのくらい下がるのか」といった厳しい指摘も受けたが、参加者の満足度は99.9%。その理由は「入社年度の近い人との交流ができた」という回答が最も多かった。当日の模様をSNSで発信することも解禁した。

いま30歳までの若者は、一般には1990年代後半から2012年までに生まれたZ世代と呼ばれる。その育て方に一石を投じたパナソニックのイベントには他の会社からの照会が相次いでいる。実際どの会社も悩みは多い。

リクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員は昨年『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』を出版した。「Z世代にとって友人にどうみられているかが重要」という。同社のアンケートでは「人から羨ましがられることは自分にとって重要である」という設問を肯定する回答が30代、40代に比べて非常に多く、45.6%を占めた。業務の指示だけする上司では「自分を見てもらえていない」となってしまう。

「○○方改革」が乱発している感がありますが、「育て方改革」という言葉も現れたようです。

それはさておき、同記事からは3つのことを考えました。ひとつは、「承認欲求」はどんな人にも共通する本能だろうということです。

私たちはみな、「誰かに何かで認められたい」という欲求を持っています。そのうえで、「誰」「何」がなんなのかは、人によって異なります。適当な例ですが、「世の中の多くの人から、革新的な製品を生み出したとして認められたい」という人もいれば、「自分が直接かかわった人から、あなたに会えてよかったと感謝されたい」という人もいます。

ここには、時代による一定の変化の傾向も認められるでしょう。

例えば、かつては「高級車に乗ったり高級腕時計をしたりしている姿を友人や見知らぬ人に見てもらって、ステータス感を味わいたい」という承認欲求がありました。今でも各世代にそのことが当てはまる人はいますが、数十年前の若手世代に比べて、今の若手世代で当てはまる人は明らかに割合として少ないです。「所有欲」を起点とした承認欲求が減退しているためです。

他方で、「ばえる」という言葉があるように、「インスタ映え(ばえ)やSNS映え(ばえ)する姿や投稿を見てもらって、「いいね」の反応をたくさん集めることでステータス感を味わいたい」という承認欲求は、数十年前の若手世代には見られなかった新たな形態の欲求です。企画・運営を本人たちに任せたうえで、当日の模様のSNS発信解禁をしたことは、イベント参加者世代にとって重要な前提だったと思われます。

「承認欲求をいかに満たすか」は、マネジメントにおいても人間関係においても、古くからの命題なのだと感じます。

2つ目は、「Z世代」で一括りすることの危うさです。

同記事の図表で紹介されていたデータを、抜粋して下記します。

入社3年目までの若手に聞く「いつまで現在の会社で働きたいか」に対する回答結果(リクルートワークス研究所「大手企業における若手育成状況調査」より)

・「定年・引退まで」:20.8%
・「20年は」5.4%
・「10年は」13.7%
・「5年は」15.6%
・「2、3年は」28.3%
・すぐにでも退職16.2% 

意外にも、20年超もの長期間勤続したいと考える層が、全体の4分の1を占めています。もちろん、終身勤続を志向する考え方の持ち主は、以前に比べて減っています。それでも、一定数存在するわけです。

上記で挙げた「誰に何で認められたいか」も、「Z世代は誰が〇、何が○」などと一括りにはできないわけです。この点を見落としてしまうと、一人ひとりの主体性を引き出すマネジメントや関わり合いなどは、うまくいかないかもしれません。

3つ目は、イベントや行事なども効果や是非は企画次第、ということです。

どのような満足度調査を行ったのかはわかりませんが、参加者満足度99.9%という結果からは、大成功だったと考えてよいはずです。

「社員旅行や会社の運動会など、今となっては時代遅れ」といった声を聞くこともありますが、それも本質ではないということです。当該イベントにどのような目的を持たせ、何をどのように運営するか、あり方、やり方によって、いろいろな可能性があるということを、同記事からは改めて感じます。

組織活動を考えるうえで、参考になる視点だと思います。

<まとめ>
その取り組みの効果や是非は、企画・運営次第。

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