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ワークライフフィットという概念

「ワークライフフィット」という言葉があるそうです。

「ワークライフバランス」という言葉が米国発で日本にも輸入され、各企業で課題テーマとなったり、働き方改革につながったりしてきました。その後、米国では「バランス」というより「統合」のほうが本質を表しているということから、「ワークライフインテグレーション」と言われるようになっているそうです。他に「ワークライフフィット」という表現もあるというわけです。

CNN.co.jp(2017.12.02付)の記事に、次のようにあります。(一部抜粋)

最近、「Work-life balance(ワークライフバランス)」という言葉を至る所で目にする。この言葉を聞いて思い浮かぶのは、まず、仕事と生活とは全く別の物で、次に、この2つを完全に調和させて禅のようなバランスを実現する方法が存在する、という2つのことだろう。

しかし、アメリカ心理学会(APA)の組織的卓越センターのディレクター、デビッド・バラード氏は、「ワークライフバランス(仕事と生活のバランス)という言葉が間違った意味で語られることが非常に多いと感じる」と述べる。「『バランス』という部分が、時間とエネルギーを(仕事と生活に)等しく振り分けると思わせるが、実際は必ずしもそうではない」と語る。

では、「ワークライフバランス」が正確な言葉ではないとしたら、一体どんな言葉が正しいのだろうか。専門家たちは、この概念をより良く理解するのに役立つ代わりの言葉をいくつか提案している。

Work-life integration (ワークライフインテグレーション、仕事と生活の一体化)
「ワークライフインテグレーション」は、女性のためのハイテク業界専門求人サイト「パワー・トゥ・フライ」の共同創業者、キャサリン・ザレスキー氏が推奨する言葉だ。起業家として多忙な日々を送るザレスキー氏は、仕事を私生活に持ち込まなくてはならない時もあれば、私生活を仕事に合わせる方法を模索する時もある。

ザレスキー氏は「(経営者は)従業員たちが会社のために多くの時間を捧げるという事実を尊重する必要がある。だから彼らが午後4時に子どもを迎えに行くなど、多少の私生活を仕事に持ち込むのは構わない」とし、さらに次のように続けた。

「この概念を(仕事と生活の)バランスを取る行動ととらえるなら、仕事と生活の比重が常に等しくなければならない。しかし、そうならない日もあるし、バランスが崩れる日も多い」~~

ワークライフフィットという言い方についても、次のように紹介されています。2017年=テレワークが全盛となるコロナ禍前のタイミングから、このテーマについて進んで向き合っていた様子が見てとれます。

~~Work-life fit(ワークライフフィット、仕事と生活の適合)
労働文化戦略家カリ・ヨースト氏は「ワークライフフィット」という言葉を使っている。その理由は、現状持っていないバランスに目を向けるのは難しく感じるが、合わせることなら可能と思えるためだという。

ヨースト氏は、例えば月に1回「在宅勤務」の日を作るといったごく小さな変化でも、自分に最適だと思う環境を見つけ出すのに大いに役立つと語る。

他にも「ワークライフインターフェイス(仕事と生活の相互作用)、「ワークライフスウェイ(仕事と生活の間の揺れ動き)」などの言い方も紹介されています。いろいろな言い方があるようですが、いずれにしてもその真意は、「仕事や会社とプライベートとを完全に切り分けることなどできない」という考え方にあると言えそうです。

書籍「従業員のパフォーマンスを最大限に高めるエンゲージメントカンパニー」(広瀬元義氏著、ダイヤモンド社)では、ワークライフフィットについて「会社に長時間いて幸せな人はそうすればいいし、家で働いて会社に1時間しか来たくない人はそうすればいいという、働き方に対する考え方」と紹介した上で、次のようなエピソードを挙げています。

こんな話がありました。ある会社の社長と総務部門の女性従業員の話です。年末になって、年賀状を取引先に出す仕事がありましたが、専任の女性がどうしても翌日休みたい、との申し入れがありました。

「もちろん、休むのはいいけど、年賀状はどうするの。明日にでも郵便局に持っていかないと年明けすぐにつかないよ?」と社長が言うと、その女性従業員は子どもの話を始めました。

実は、小学校4年生の女の子が、学校で嫌なことがあったのか、珍しく「もう学校に行きたくない」と、昨夜言ったそうです。今朝は何もなかったかのように、ケロッとしてたけど、気になって明日は一緒にいてあげたい。とのこと。そこでその社長は、こう言いました。「要は、その子と一緒にいてあげたいのなら、会社に子どもを連れてくればいいんじゃないの?」

結局、その総務の女性は会社に子どもを連れてきて、お母さんの隣の席で、宿題をやったり、総務のみなさんのお手伝い、コピー取りなどをやって一日を過ごしたそうです。もちろんそのことで、この女の子はすっかり元気になったそうですが、後日、お母さんから「子どもがまた会社で、仕事したいと言われて困っているんです」と今度は、嬉しい相談を受けたそうです。

日本では、珍しいことかもしれませんが、アメリカではプライベートを会社に多く持ち込みます。机の回りに家族の写真を飾るのは当たり前ですが、「ネコが心配」と言って、会社にネコを連れてきた話も聞いたことがあります。日本人は会社で家族の話をするのがあまり好きではないようですね。冠婚葬祭、病気や事故、プライベートを会社に持ち込むな、甘ったれるな的な感覚がどこかにあるのでしょう。先ほど会社と家族はコインの裏表と言いましたね。切り離すことができないのだから、自分の家庭の事情、家族のことをどんどん会社で言えばいいと私は思います。

確かに、子連れ出勤を認める日本企業は、少数派でしょう。

いろいろな企業で経営者や経営幹部・管理職の人と話す機会に、社員が仕事と生活を明確に区分しようとすることへの不満や懸念を聞くことも多いです。片手間で仕事をしているように見えたり、引き受けたことをやりきるより生活時間の確保を優先したりするように見えることで、組織としてのパフォーマンスが下がっていくのではないかと感じられるためです。そうした不満や懸念は理解できるものがあります。

そのうえで、社員に対して仕事の成果にコミットを求めるのであれば、上記の例のように、会社にプライベートを持ち込ませる覚悟があるのかも、これからは同時に問われるべきではないかと考えます。

開始と終了の時刻を明確に区切れていた、かつての製造業や店舗型ビジネスのサービス業などの形態ではない事業が増えています。ネットを介して常時つながるお客さまへの対応や、時間・場所の制約を問わず企画できるような仕事では、開始・終了の時刻を予め一律に決めるのが難しくなります。かつては時間を明確に区切れていた事業であっても、その中には時間を区切るのが難しくなった工程も出てきていることでしょう。

加えて、配偶者のどちらかが集中的に家事をマネジメントするというやり方の世帯も減っています。子育ての問題に加えて、介護の問題なども増えています。

仕事と家庭と、どちらが大切なのかを選ぶことなどできません。どちらも大切で、選びようのないテーマです。仕事を完全に対価を得るための手段とみなし、時間を切り売りして作業だけするパートタイムジョブを行うと決めた人であればまた別かもしれませんが、多くの人にとって仕事も家族も同等に責任が伴い、切り離すことはできないものだと思います。

社会環境の変化が起こり、私たちの就業環境にも変化が起こっているのですが、かつての社会環境・就業環境を前提にしたままのルールや風土で今も続いているという会社も多くあります。一昔前は、「会社にプライベートを持ち込むな」が合っていた環境だったかもしれませんが、今は会社にプライベートを持ち込んだり、プライベートに会社を持ち込んだりするような時代です。

個人の生活と職業生活・会社生活は、切り離すことはできない関係であり環境でもあるということの再認識が必要だと思います。その意味では、自身がどうありたいかを自覚したうえで、職場の規律を守りつつ自分に合ったやり方を見出していく「ワークライフフィット」という言葉でこのテーマに向き合うのが、よいのかもしれません。

<まとめ>
仕事と生活を切り離すことはできない。自分に合ったやり方を見つけていくことが必要。

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