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スパルタ的な研修について考える

先日、企業関係者の方々と話しているときに、新入社員研修について話題になりました。「~~特訓」などのようなイメージで、スパルタ的に度胸試しや根性試しのような過酷なことを行うプログラムの研修に、教育上の意味はあるのだろうか、という視点での意見交換でした。

そうした研修に教育上の意味があるかどうかは、状況や設定にもよりますので一概には言えません。そのうえで、少なくとも次の3つを満たしている必要があるのではないかと考えます。

・研修担当者が確信をもって説明できるほど、目的が明確になっている

・研修受講者がかかわる相手にとって意味がある、あるいは相手にとって明らかに迷惑をかけるといったことがない

・各人それぞれにとっての気づきとその後の行動に活かす、明確な学びがある

私の知人の若手人材で、ある企業の経営企画責任者として活躍している人がいます。さらに別の上場企業の役員から声がかかり、週に1回程度業務委託で副業できないかという打診も受けている、高パフォーマーです。

同知人は、以前新卒で入った会社の新入社員研修のあるプログラムでつぶれてしまったそうです。そのプログラムというのは、顧客リストなど何もなしに法人相手に飛び込み訪問をしひたすら名刺を集めてくる。それも、社長の名刺が最も評価が高く、役職なしの名刺はあまり評価がされない。といった内容のものだったそうです。

その研修で、行く先々の会社で迷惑がられて門前払いされることに耐えられなくなり、名刺0枚で会社に戻って罵倒されたところでドクターストップ状態、翌日以降の継続困難な状態と判断され、研修への参加中止となったそうです。結局その後別の会社に環境を変えて、活躍できるようになったというわけです。

例えば同研修を上記3点に沿って振り返ってみます。まず、「度胸をつける」といった程度の漠然とした趣旨の説明はあったものの、納得できるような目的の説明はなかったそうです。

自社の商品やサービスについて相応の理解をし、「こういう方にお役に立てるはずだ」という信念を持ったうえで相手に飛び込み営業するのであれば、(その話を受ける受けないは別として)かかわる相手にとっても意味があるかもしれません。

しかしながら、入社直後の学卒新人で目的もろくに説明を受けてない状態では、自社の何かに関する相手にとって価値ある説明などできるわけもありません。相手にとっては、迷惑なだけの結果となったようです。まったくの飛び込み訪問ではなく、異業種交流会などお互いに名刺交換したい人が集まっている場なら、何の迷惑もかからないでしょうけど。

その新人研修の指示を出している会社の社長自らが、「アポのない飛び込み電話や訪問は全部断るように」と周囲に指示出ししていたようです。そうした状況で、「飛び込み訪問で社長の名刺を獲得してくると最も評価が高い」研修を社員に課しているのは、完全に矛盾していると言えます。

同知人の直属長の研修担当者も、「自分ではやりたくない研修」だと言っていたそうです。これでは、指示を受けて研修プログラムを遂行する側の納得感がないのは当然と言えます。研修として機能しないでしょう。

同知人は、「自分を必要とする相手に対して、試行錯誤して全力で応じるホスピタリティには自信があるが、この研修によって、自分を必要としない=自分を否定されることに大きなストレスと自己否定感を覚えた」と言います。逆効果にしかなっていない研修だと言えそうです。

そして、新入社員全員が、同研修が求める成果(評価の高いとされる名刺を数多く集めること)を同じように上げることが必要なのでしょうか

同知人は、対外的な営業や交渉などより、対内的な企画立案や戦略策定などを得意とするようです。冒頭であげたパフォーマンスのとおりです。一方で、同研修のようなタスクで張り切って、あるいは張り切るまではいかなくとも苦なく成果を上げる人もいると思います。

多様性とか、それぞれの強みを活かすといったテーマが人材育成・配置で叫ばれている中、同じ種類のタスクで同じような成果を上げることを一律で期待することが、その会社の人材戦略に合っているのかどうか、ということです。

評価の高い名刺を数多く集めてくるという命題を、同知人のような特徴の持ち主にも課すことに効果を見出すとするなら、次の2つのうちどちらかではないかと考えます。しかし、どちらでもなかったようです。

・自分の特徴、強み、弱みを知る。その研修で成果を上げること、そのために有効な資質や行動が何かを考え、自分の持ち合わせている資質や行動特性では困難だと考えるなら、それを強みとする人と協業するのが有効だということの価値を学ぶ。

・同社で採用する人材には例外なく、全員にその研修で成果を上げるために有効な資質や行動を求める。よって、それらを持ち合わせているであろう人材のみを見極めて採用するのを方針とし、本人もそのことを(すべてとは言わないまでも)ある程度イメージして入社してくる。

その研修はだれにとってどのように有効で、それはなぜなのか。振り返ってみたい視点だと思います。

<まとめ>
その特訓での成果を、全員に満遍なく求める必要があるか。

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