見出し画像

自立持続可能性自治体の取り組みを考える

5月29日の日経新聞で、「「消滅しない町」 埼玉・滑川町 人口戦略会議が予測 医療費無料、全国に先行 若い世代の定着促す」というタイトルの記事が掲載されました。人口が安定的に増えている埼玉県滑川町の背景について取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

埼玉県滑川町をご存じだろうか。同県中部に位置する小さな自治体だ。東京の池袋駅(豊島区)から東武東上線で約1時間。この町がいま「人口が安定し、100年後も消滅しない町」として注目を集めている。支えるのは若い世代の流入・定着だ。全国に先行して約20年前に導入した子育て支援が実りの時を迎えている。

(民間有識者で構成する「人口戦略会議」が4月に発表した報告書で)若年女性人口が2050年まで増えると予測した自治体は全国でわずか8つ。増加率1位は東京都港区、2位は同中央区。こんな自治体が並ぶなかで滑川町は全国6位となった。同会議は町の若年女性人口は50年まで1.7%増えると予測し、全国に65市町村しかない「自立持続可能性自治体」の1つと判定した。

町の人口は5月1日時点で1万9678人。00年の1万2836人から50%以上増加した。18歳未満の子どもがいる世帯の数は、20年時点で2155世帯と00年より6割超増えた。全国で少子化が進むなか、同町の子育て世代の増加は目を引く。

子育て世代が増えた要因は大きく分けて二つ。一つ目は東武鉄道が02年に始めた戸建て住宅「フランサ」の分譲だ。同社は同年につきのわ駅を開設し、その周辺で合計1000区画を分譲した。敷地は平均で約200m2と東京都内より広く、様々なライフスタイルに合わせた大胆な間取りを売り物とした。

分譲価格は約3500万円から。バブル崩壊を受けて住宅市場は冷え込んでいたが、20代から30代の家庭を中心に評判を呼び、最初の3年間に分譲した約400戸はすぐに完売した。同社によると東京都内からの移住者も多かったという。都心回帰に逆行して郊外の価値を掘り起こす戦略で、滑川町で新たな市場を切り開いた。

もう一つの要因は全国に先駆けて導入した子育て支援策だ。町はフランサ分譲に合わせて06年度に12歳までの医療費を無料化し、11年度には対象を18歳まで拡大した。同年度からは町内の全ての小中学校、保育園、幼稚園の給食費を無償にした。保護者が昼間に家庭にいない小学生を放課後に受け入れる「学童保育室」も13カ所整備した。

フランサに住む子供が通う月の輪小学校に隣接する学童保育室「学童第6わくわくクラブ」を訪ねた。午後3時すぎには40人を超す小学生のにぎやかな声が聞こえてきた。この学童保育室に小学校6年生の娘を通わせている若槻渚さんは、埼玉県川越市から滑川町に引っ越してきた。決め手となったのは町の子育て支援策だった。

若槻さんは語る。「医療費や給食費の負担がないだけでなく、残業しても子供を預かってもらえてありがたい」。同クラブの運営を町から受託する「一般社団法人あんど」の吉野さつきさんによると、学童を利用する母親の多くが正社員として働いているという。

大規模な住宅開発で住民を呼び寄せ、手厚い子育て支援で定着を促す好循環。住宅開発企業と行政の連携が実った格好だ。大塚信一町長は「子育て支援策は現時点でできることは全て取り入れている」と胸を張る。安心して子育てできる環境が整備され、同町で1人の女性が生涯に出産する子供の数を示す合計特殊出生率は1.50(18年~22年)と埼玉県の平均1.16を大きく上回る。

同記事からは、3つのことを考えました。ひとつは、社会あるいは組織を丸ごと変えていくには、時間を要するということです。

少子化対策は、改めて言うまでもなく社会的な課題テーマです。人口流出している地域や人口数の少ない地域にとっては、より切迫したテーマです。多くの地域でいろいろな対策を打っているものの、なかなか成果が上がりにくい、難解なテーマでもあります。

同記事では、子育て支援策が20年をかけて実を結び始めたとあります。同記事内容のような大がかりな子育て支援策を当時から始めていた地域は、少数派です。「重要度が高いが緊急度が低い」ことは、効果が出るまで時間がかかる、緊急度が低いうちに時間をかけて継続的に取り組み続けるべきだということを、滑川町の事例は示唆していると思います。

2つ目は、商品・サービスの本質であろうこと、すなわち、「お客様の困りごとが何かを見出して、その解決策を形にしてご提案する」です。

同記事で紹介されている「わくわくクラブ」について検索してみたところ、通常の保育時間が終わった後も18:46~(有料で)延長保育が可能なようです。保育の終了時刻は出ていませんでしたが、それなりの遅い時刻まで預かってくれるのかもしれません。

未就学児の保育も働く親にとっては負担の大きいものですが、「小1の壁」と呼ばれるように、小学校低学年の育児も負担の大きいものです。小学校に上がることで、学校に預けられる時間が保育園に比べて2~4時間短くなると言われます。まだ小さい子どもを家でひとりにするわけにもいきませんので、保育園時代よりも親の負担が大きくなるとも言われます。

この状況に対応するために放課後児童クラブがあるのですが、関連サイトを参照すると放課後児童クラブの約4割は18:30までしか開所していないそうです。18:00が終業時刻の企業などでは、自ずと利用が難しいということになります。よって、時短勤務が何年も続く、さらに時短勤務は父親ではなく母親に偏る、といった事象が出てきます。

このことを踏まえると、滑川町の「わくわくクラブ」が18:46~延長保育可能にしているのは、被雇用者の社員として勤務する親にとってはかなり心強いものになっていると想像されます。

また、他の地域から移り住んだ人は、子育て支援策の充実したところに住みたい=子育てでやりにくさを感じていたという共通の思いを持っている人が多いはずです。

そうした人たち同士で、同記事にあるような公的な子育てサービスが突発的な事情等で利用できない場合でも、パパ友・ママ友等に一時的にお願いするなどの助け合いも強いのではないかと想像します。そうした、滑川町の支持者同士で連帯が深まるという副次的な効果もありそうに思います。

3つ目は、地方圏の場合はより強力な誘引策が必要ではないかということです。

同記事の滑川町の例は、子育て支援策に力を入れることで、都内など大都市圏居住者の流入を主に狙った施策だと想定されます。池袋まで1時間、どうせ住むなら住みやすい町ということで、勤務先はそのままに通勤可能なエリアとして滑川町に転居したという方も多いのではないかと想像します。

若年女性人口が2050年まで増えると予測した自治体8つのうち、東京都以外では滑川町、茨城県つくばみらい市、千葉県流山市、茨城県守谷市と、いずれも滑川町同様に首都圏内で子育てがしやすいと評判のところで占められています。

この構図は、都市圏内にあるという立地では成り立ちますが、地方圏においては再現性が難しく、子育て支援策だけでは不十分ではないかと想定されます。子育て支援に加えて、その地域ならではの魅力や新たな産業によって人口の誘引を目指すことが必要ではないかと考えます。

いずれにしても、移住者の引き抜き合いで、少子化の進む中限られた人口のパイの取り合いにとどまってしまうと、国全体の視点では問題解決として限定的です。出生率1.50と全国平均を大きく上回る滑川町の取り組みには、参考になる点が多いかもしれません。

お客様の困りごとに徹底的に寄り添うと成果が上がるという点は、企業経営の視点でも参考になると思います。

<まとめ>
お客様の困りごとが何かを見出して、その解決策を形にしてご提案する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?