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出社手当という考え方

11月27日の日経新聞で「注目される「出社手当」 新興で相次ぐ 在宅との利点両立」というタイトルの記事が掲載されました。リモートワークの広がりに合わせて「在宅勤務手当」の支給は各社で聞くことも出てきましたが、新たに「出社手当」という考え方も出てきたようです。

同記事の一部を抜粋してみます。

新型コロナウイルス対策によってリモートワークが定着した社員に、一定日数の出社を促そうと「出社手当」を導入する企業が出始めた。

プロジェクト管理システムを手掛けるアジャイルウェア(大阪市)は9月から、1日4時間以上オフィスに出社した社員に出社手当の支給を始めた。1日2000円。社員同士でランチに出た場合には、各人に500円のランチ手当も出す。いずれも月10日分が上限だ。近く就業規則の賃金規定に関連条項を新設し、恒久的な賃金制度にするという。

同社では現在、週2回の出社を推奨している。他社では、一定日数以上の出社を業務命令として出す例もある。だがアジャイルウェアは、コロナ禍前からリモートワーク制などを導入し、社員に場所を選ばない働き方を認めて来た経緯があった。社風と矛盾しない手法として、手当支給による出社促進策を打ち出した。

出社を重視する背景には、エンジニアのメンタルヘルス対策がある。コロナ禍で完全な在宅勤務状態だった時期に入社した社員で、メンタルの不調により退社した人も出たという。川端光義社長は「社員が顔を合わせ、仕事上の悩みや健康状態を察知し合う機会が必要と考えた」と話す。さらに「社員同士や上司との会話から生まれる新アイデアへの期待」も持っている。

暗号技術関連サービスを提供するAcompany(アカンパニー、名古屋市)も、6月から出社手当支給を始めた。午後1~4時の3時間、オフィスでコードを書くなどの作業をした場合、1日1000円を支給する。

同社には北海道や沖縄県に住む社員も在籍。ネット経由の業務でも支障はない。だがエンジニア同士で仕事の手順を教え合ったり、新発想を得たりする細やかな関係構築には限界がある。同社幹部はリモートワークに慣れた社員を「取りこぼさない」出社推奨策として手当支給を考えたという。

両社は通勤手当も見直してきた。今後もリモートワークと出社を両立させる方向性と、フル出勤が前提の旧来型通勤手当は合わないためで、実費清算に切り替えた。

アジャイルウェア社の例で、月10日間出社しランチも社員と食べれば、月25,000円を給与に加算してもらえることになります。かつては当たり前のことだった、平日の出勤日に出社をするだけで手当をもらえるというのは、数年前にはなかった考え方だと思います。社会環境の変化を感じます。

コロナ禍で組織全体がフルリモート勤務の形態になった後、出社を推奨するようになり、出社とリモート勤務のバランスで悩んでいる企業は少なくなさそうです。(ビジネスモデル上、当てはまらない企業や職種も多いと思いますが)

知人の勤務する会社でも、以前はフルリモート勤務可でしたが、週2回の出社を義務づける方針に転換となりました。そのことをきっかけに、フルリモート勤務を前提として入社した社員の間で、不満を持った一定数の人が退社したそうです。

同記事の紹介する出社手当は、積極的な出社を促して社員間の関係構築やメンタルヘルス対策を高めるのもさることながら、効果としては不公平感の軽減が最も大きいのかもしれないと考えます。

仕事の満足や不満を考える上で、「衛生要因」と「動機づけ要因」からなる「二要因理論」(ハーズバーグ)が参考になります。

衛生要因とは、整備されていても満足につながるわけではないものの、整備されていないと不満につながるものです。動機付け要因とは、なくてもただちに不満にはならないものの、あればあるだけ仕事に対して前向きになれて満足度が高まるものです。

賃金は休日数などと同様に、基本的に衛生要因の構成要素であって、動機づけの面はカバーできないとされています。低い賃金では納得できず、その仕事を続けることができるかどうかの意欲を左右します。しかしながら、一定の賃金が満たされていれば、それ以上賃金が上がっていったとしても、仕事に新たなやりがいを見出すことにはつながらないというわけです。

要は、賃金ができることは納得感・公平感の担保まで。納得感・公平感を超えての仕事への動機づけは、仕事自体のやりがいや自己成長の実感など賃金以外の要素で考えていくべきだということです。

賃金に関する納得感・公平感には、外部公平性と内部公平性の2つの面があります。外部公平性とは、社外の一般的な水準と比較し、自身の金銭的報酬に納得感が得られるかどうかという視点です。自身と同様の質・量の仕事をしている世間の同世代、同業界他社の給与水準と自身の報酬を比較し、「こんなものかな」「自分はもらえているほうかも」と思えれば、不満になりません。

内部公平性とは、社内の評価基準や他の社員と比較し、自身の金銭的報酬に納得感が得られるかどうかという視点です。自身と同様の質・量の仕事をしている社員や、人事制度上のルールと照らし合わせて、「自身の報酬はこんなもんかな」と思えれば、不満になりません。

しかし、「私は社員としてこれだけ頑張って、成果も上げているはず。周りからもそのように言われている。でも、そうでない社員とどうやら同じ給与らしい」などと感じると、外部公平性がいくら担保されていても、不満を感じてしまうというわけです。

テレワークを導入している企業で聞く話として、出社に関する内部公平性の欠如からくる不公平感があります。

・自社が全面的にテレワークを解禁する方針だと言ったから、子育てと両立しやすい環境になると思っていたのに、また出社に戻すって、働き方改革を叫んでたのは何だったの?

・テレワークが可能な職種や人とできない職種や人が、自社の中にいる。できる人は自由に勤務場所を選んでいるが、できない人は出社以外に選択肢がない。

・会社で対面での顧客対応をするために、在宅勤務も可能な状態の中で献身的に出社しているつもりだが、出社せず自宅で仕事している人がなぜか在宅勤務手当の分、得している

・・・など、聞くことがあります。

出社したことに対する手当として1日何円が妥当かなど、どこまでいっても正解がないテーマでだと思いますし、手当のみで内部公平性の不満ゼロにすることも難しいと思います。そのうえで、「まあこのくらいもらえるのは、出社の負担としてありだよね」となんとなく納得感ありそうな金額の手当を出すことは、テレワークに関する内部公平性を担保しやすくする方法としてはありかもしれません

ちなみに、上記知人に「出社手当という制度をつくる企業もあるようだが、もしそのような制度ができたら不満は軽減されそうか?」と聞いてみたところ、「けっこうな効果はあるのではないか。社員にとっては、もともと聞いていた話と違って負担だけが増えた印象なので、ある程度の埋め合わせにはなると思う」という回答でした。皆がそう思うかはわかりませんが。

社会的に賃上げの動きが続いていますが、賃上げ予算の一部をこうした手当に振り向けてみるのも、企業によっては一考の余地があるかもしれないと思います。

<まとめ>
内部公平性を高める手当の拡充も、一考に値する。

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