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リアルなコミュニケーションがとれるセンス

先日、ある企業様で10人ほどの方を対象にワークショップを実施する機会がありました。現地にて対面形式で行われたたものです。同じワークショップは、コロナ禍の環境制約等の関係もあり、他社様でオンラインにて実施したこともあります。

今回も、やり方を工夫すれば、同ワークショップの実施自体はオンラインで十分可能でした。改めて、なぜオンラインではなく現地の対面形式という形態になったのだろうと考えてみました。

まったく同様の趣旨・内容のワークショップを実施しての、ファシリテーター実施者の感想としては、大きく2つです。

・現地対面形式のほうが、実施中・実施直後の効果の実感が大きい。

ディスカッションやグループワークの活性度や内容の質が、やはり違います。相手の表情を見ながら意見を促したり、飛び交う話から論点をその場でホワイトボードに書き出したりする。オンラインでも可能ではあります。しかし、どんなに音声の品質が上がり、便利なツールが発達して参加者間での情報の一覧性が高まっても、この差は埋まらないのではないかと思われます。

・現地対面形式のほうが、ストレスがかかり疲れる。

一方で、現地対面形式は疲れます。相手の感情はダイレクトに伝わってきますし、逃げ場がありません。オンラインの画面上であれば、みんなの視線が一斉に自分に向けられることもありませんし、個別に話しかけられて注文をつけられることもありません。そうした双方向のコミュニケーションの圧を受け止めてよい方向に促そうとすると、ストレスがかかります。

オンラインであれば、参加者は「すみません、ちょっと急ぎの・・」などと言って画面オフにすることもできます。(参加者全員に対してではなく)個別で自分だけに対するチャットでいろいろ注文をつけられるメッセージが届くこともありますが、その気になれば気付かないことにするのも可能です。

対面では、その場で何が決まったのかの明確な結論を求める空気感も、やはり強まります。様々なストレス要素と向き合いながら、その場で利害関係もダイレクトに調整しながら明確な成果を上げるのは、相応の技能が必要だと、改めて感じます。(もちろん、オンラインにはオンラインの良さと、そこで求められる技能があります)

書籍「絶対悲観主義(楠木建氏著)」では、オンライン=効率、オフライン=効果、のトレードオフがあるとしたうえで、現地対面式のほうが講義や講演も効果が大きいとしています。そして、次のように説明されています。(一部抜粋)

PCとネットが誰にでも使え、コピー&ペーストし放題ということになると、人間の本性からして文章を「サクッと」書くようになります。すぐにクリックして別のページに行けるので、読者にしてもじっくり文章を読む機会は減る一方です。

スマートフォンの限られた面積のモニターで隙間時間に読む(というより見る)文章です。書き手は文章を練り上げようとはしないし、読むほうもそれを求めていない。この悪循環で、どんどん文章の質が下がっていくという現象が起きています。

これと同じように、リモートワークが進んでいくほど、生身の人間を相手にしたコミュニケーション能力は劣化していくのではないか。だとすれば、リアルなコミュニケーションが得意な人の価値は、これからどんどん上がっていくかもしれません。ここいちばんというときにはオフラインで上質なコミュニケーションがとれる。これはスキルというよりもセンスの問題です。

スキルのデフレとセンスのインフレは中長期的に続くメガトレンドだと思います。もし仕事にとってもっとも大切なものをひとつだけ挙げろという無茶な質問をされたら、僕は人間洞察だと答えます。リモートワークは、直接・間接、意識的・無意識のうちに人間の人間に対する洞察能力を毀損する面があります。人間洞察のセンスは仕事をするうえで今まで以上に大きな価値を持つようになる、というのが僕の見解です。

事業・仕事には、「他の人や他の会社がやりたがらないことをわざわざ引き受ける人・会社は、重宝されて依頼が来る」という本質があります。楽で便利なツールが発達すれば、当然人はそっちのほうに流れていきます。オンラインでもそれに近しいことをより効率的にできる中で、わざわざ現場現物で行う人は、センスが高まり重宝されるようになるというのが、上記の趣旨だと思います。

そして、その兆候が現れつつあると紹介しています。

ここにきて潮目が変わってきた。情報技術やAI(人工知能)の発達で、銀行の融資担当者の業務はシステム査定に代替され、ニューヨークの世界的ローファームは、これまで年間報酬一〇万ドルだった仕事をフィリピンの法科卒業生に一万五〇〇〇ドルで発注するようになった。大手会計事務所のEYも二〇一五年から新入社員の採用条件から大卒資格を外し、コミュニケーション能力や協調性、対人適応能力を重視するようになった。コンサルティングファームや銀行もこれに追随している。

これからの世の中で、もっとも価値がありそうなのは、頭の認知能力よりも他者に対する共感や関係構築などの社会的能力なのではないか。医療にしても、診断や解決策を見つける臨床能力は相当程度まで技術に代替されるけれども、患者にしてみれば自分の気持ちや状況を理解してくれる医師から直接助言を聞きたいことには変わりはない

現地対面方式で様々なストレス要素と折り合いをつけながら、関係者間をまとめ上げて成果を上げていく、このこと自体が参加者の付加価値を高めることになるのかもしれない。そのように考えることができるのだと思います。

2014年9月に開校されたミネルバ大学という大学があります(以下、ウィキペディアも参照)。米国カリフォルニア州サンフランシスコに本部を置く総合私立大学です。特定のキャンパスを保有していないことが特徴で、オンラインで授業を受講することで話題となり、世界中から入学希望者が増えていると聞きます。

同大学はオンライン受講ではありますが、全寮制の4年制総合大学で、学生は4年間で世界7都市に移り住むことになっています。このあたりにも、やはり現場現物で学び、リアルなコミュニケーションがとれるセンスを高めようとしていることが見て取れる、と言えるのかもしれません。

アジェンダがすべて決まっている報告会議のようなコミュニケーションはオンラインで効率的に、よりインタラクティブ性や意識の共有が求められるコミュニケーションは現地対面でストレスとも向き合いながら、という使い分けも、一層考えてよいのかもしれません。

<まとめ>
リアルなコミュニケーションがとれるセンスは、それ自体が他者・他社との差別化になるかもしれない。

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