初任給42万円
7月26日の日経新聞で、「サイバー、初任給42万円 非ITも厚遇、2割アップ」というタイトルの記事が掲載されました。新卒入社後の1か月目から42万円もらえるという給与の額は、インパクトがあります。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事に関する視点を、ここでは大きく3つ取り上げてみます。ひとつは、賃金の内訳を細分化して想定し評価する必要があるということです。
賃金の一般的な構成は、月例給与×12か月+賞与+その他一時金等です。月例給与は、基本給+各種手当+残業代で成り立っています。賞与は、上場の大企業であれば5か月などです。同社制度の詳細は存じ上げませんが、同記事の年俸制という内容からは月例給与と賞与の区別はなさそうです。また、おそらく固定残業制や裁量労働制等の仕組みにより、残業代込み(残業代の全部ではないかもしれないが)のようです。
よって、42万円×12か月=504万円の年収を、賞与5か月として17で割ると1か月あたり29.65万円です。(ただし、記事中にある業績連動賞与がこれにプラスされると、この賞与額いかんではもっと大きな値になる可能性があります)
さらに、一般的に支給される残業代相当分を差し引くと、一般的に基本給と称している各社の基準に近いものが出てくることになります。世間で一般的に基本給と称している金額が42万というわけではありません。自社や他社と比較する際は、この視点をもっていないと比較結果を間違えてしまいます。
2つ目は、賃金の国際競争が、これまで以上に各職種で広がるのではないかという点です。
同記事にあるように、IT人材は世界的な人材の争奪戦で賃金が上がりやすかった職種です。国境を越えて移動できますし、あるいは国境を越えなくても他国企業の仕事もできます。日本は賃金上昇が緩やかですが、他国との直接競争にもなる以上、上げざるを得なかった事情があるでしょう。
これに加えて、例えば製造現場や店舗関連の人材などは、現場と居住が紐づきますので、日本全体や業界の給与水準に合わせた動きとなりやすかった背景があります。よって、賃金が上がりにくかったわけですが、IT業界以外でも、今後は場所を問わずできることが増えていく流れです。
さらには、外国人労働力に頼っていた部分も、現状のままでは今後期待できなくなります。日本全体の賃金水準が他国に比べ魅力ないものになりつつあり、今の水準では人口減少を続ける韓国や中国との獲得競争に負けてしまうでしょう。こうした賃金上昇の圧力要素は今後も強まります。IT人材以外の職種にも、これまで以上の賃金上昇は避けられないと思います。
3つ目は、このことは合理的な投資であろうという点です。
ITエンジニアを外注しようと思えば、月40万円程度、年500万円程度は、一般的な必要経費です。同金額帯の請負であれば、対応するのはトップレベルではないエンジニアでしょう。
同社に就職を目指するのは、おそらく学生時代からIT系の領域で何らかの活動をしていた人が多く含まれると想像します。42万円と聞くと高いと思うかもしれませんが、そのようなポテンシャルもあり、採用後正社員としていろいろな活躍の場に合わせて配置できる人材を採れるのであれば、人材投資としては決して高くないと言えると思います。しかも、2年目以降は評価次第で初任給以下の賃金になりえる制度ですので、是々非々で人件費管理もできる状態になっていると思われます。
私が20年以上前に大学卒業で就職した時の募集要項は、初任給が基本給19万~20万円+手当+賞与でした。20数年かけて2~3万円の伸びですので、たいへん緩やかです。しかし、ここにきて各社の初任給引き上げ、ベースアップ、最低賃金全国平均1000円突破を目指す動きなど、賃上げの動きが加速しそうな情報を見かける機会も増えました。
環境変化も追いつつ、自社の賃金水準を積極的に引き上げての人材投資は、今後必要性が増すものと思われます。
<まとめ>
環境変化を見定めて、自社の賃金テーブルを再設定する。
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