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岩盤品目の物価上昇

5月25日の日経新聞で、「サービス値上げ、岩盤品目に波及 4月消費者物価2.2%上昇 賃上げで価格転嫁」というタイトルの記事が掲載されました。物価が動きにくかった商品・サービスにも、値上げの動きが広がりつつあることを取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

総務省が24日発表した4月の消費者物価指数(CPI)では、サービス品目のうち過去の値動きが乏しかった「岩盤品目」でも値上げがみられた。4月は企業の価格改定が多く、賃上げを踏まえた価格転嫁の動きが相次いだとみられる。

5月以降はエネルギーを中心にコストプッシュ型のインフレ圧力が強まる見通しだ。賃金と物価が相互に上がる好循環が経済全体で大きく実現するかが課題となる。

4月は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数(コア)が107.1と前年同月比2.2%上昇した。モノの価格である財は3.1%、サービスは1.7%の上昇だった。モノは原材料の価格高騰や円安などで値上がりしやすく、サービスは国内需給を背景とした賃金上昇で上がりやすい。

サービスでも外生的なインフレに左右されにくく、過去をさかのぼって上昇率ゼロ%前後に張り付いた品目は「岩盤品目」とも呼ばれる。2000年以降で前年同月に比べ2%以上の変動をほとんどしていない品目は30近くある。

4月はその岩盤品目でも値上げ幅の拡大が目立った。家事代行料は8.5%上昇し、ロードサービス料は74.1%上昇した。写真撮影代も1.7%と4カ月ぶりの値上がり幅だった。人件費率が高く賃上げ分の価格転嫁が影響したとみられる。

実質賃金が増えなければ消費も伸びず企業は値上げを続けにくい。インフレ率は25カ月連続で日銀が目標とする2%を超えるものの、植田和男総裁が「第一の力」と呼ぶような円安や原油高によるコスト高の値上がりが主導してきた。

日銀はこれが人件費比率が高いサービス価格の上昇に点火すれば、賃金と物価が互いに高まる「第二の力」につながるとみる。6月13~14日に予定する日銀の金融政策決定会合では、サービスを中心とした価格動向をどうみるかが注目される。

6月には定額減税の開始や賃上げの波及といった所得が上向く効果も見込める。消費の回復を伴うインフレの定着が実現できるか正念場となる。

コアCPIの基準年は、西暦年の末尾が0と5の年を基準時として、5年ごとに改定されます。現在の基準年は2020年です。

関連サイトを参照すると、2000年以降2022年3月までで、コアCPIの対前年比が2%を超えていたのは、下記の期間のみです。下記以外は、2%を超える上昇はありませんでした。

2008年7月2.4%、8月2.4%、9月2.3%
2014年4月3.2%、5月3.4%、6月3.3%、7月3.3%、8月3.1%、9月3.0%、10月2.9%、11月2.7%、12月2.5%
2015年1月2.2%、2月2.0%、3月2.2%

リーマン・ショックが発生したのは2008年9月です。その直前の期間が、バブル的に物価が上がっていたのではないかと想定できます。そして、翌2009年には2%を超えるような物価下落時期もあり、2008年の物価上昇は2009年通年でほぼ帳消しされています。

2014年4月は、消費税が5%から8%に改定された時期です。よって2014年4月~2015年3月までは、対前年比3%上昇で実質的な物価上昇ゼロになることを考慮する必要があります。よって、実質的な物価はほとんど動いていない、むしろ2014年後半からは下落だと評価できます。

2019年10月にも消費税は8%から10%に改定されましたが、2%を超える上昇とはなりませんでした。つまりは、上記期間の2%越えは局面的なたまたまの値であり、2000年以降2%を超える実質的な物価上昇は、2022年3月までなかったというわけです。

そのコアCPIが、2022年4月に対前年比2%を超え、先月まで一度も2%を下回らず推移しています。同記事中にある「107.1」の「7.1」分は、ほとんどが2022年4月以降につくられたわけです。物価や経済に関して、明らかに構造変化が起きていると認識したほうがよいのではないかと言えそうです。

モノの価格である財はいち早く対前年比でプラスを記録していきましたが、サービスが0%を超えてプラスを記録し始めたのは2022年半ばになってからです。2%を超えたのは2023年半ばになってからです。モノとサービスの価格差は、最も大きい時で6%程度の開きがありましたが、今では1%程度の差に収まっています。モノの物価上昇→サービスの物価上昇、背景に人件費(賃金)の上昇、が恒常的に実現するかが重視される理由が見てとれます。

5月15日の日経新聞では、物価が動きにくい主な「岩盤」品目が紹介されていました。原則として、消費者物価指数(CPI)の一般サービスのうち2000年以降の前年同月比の変動が±2%以内の頻度が90%以上の品目ということです。次の通りです。

民営家賃、持ち家の帰属家賃、植木職手間代、大工手間代、家事代行料、モップレンタル料、車庫借料、駐車料金、ロードサービス料、理髪料、エステティック料金、葬儀料、マッサージ料金、人間ドック受診料、PTA会費、私立中学校授業料、私立大学授業料、自動車教習料、映画観覧料、ゴルフ練習料金、写真撮影代、獣医代

ずいぶん細かいところまで統計化されているということを、改めて感じます。これら品目は、確かに価格が変わりにくい印象があります。これら岩盤も、動き出したというわけです。

このような構造変化が起きているという現状認識のもとに、改めて2点考えてみます。ひとつは、生活者としての視点から、現預金保有の価値の低下です。

物価がまったく変わらない状況下では、現預金保有が最有力な資産防衛策となり得ます。100万円という現金の価値が変わらないまま、100万円を確実に維持できるからです。金利もほとんどつかないような金融商品や、多少リターンがありながらもリスクのある金融商品に投資するよりも、そのまま保有しておくほうが確実と言えます。

しかしながら、物価が上がり続けるとなると話は別です。1年間で2%物価が上がるとなると、現在の100万円の価値は1年後に2%分目減りすることになります。10年間現預金をそのまま保有し続けて、10年間で毎年2%ずつ物価が上がり続けると、100万円の保有価値はどこまで下がるのか。このように考えると、資産形成により能動的になるべき背景が、改めて認識できます。

もうひとつは、雇用側(経営・マネジメント)の視点として、賃上げの必要性です。

自社で従業員に中長期的に活躍してもらうには、当然ながら納得できる賃金の支払いが必要です。物価上昇分を下回る水準の賃上げが続くようであれば、従業員の納得感は毀損し続けることになります。

もちろん、賃上げをどの程度できるかは、会社の持続可能性の中での経営判断で最終的になされるべきものです。社会全体のトレンドにそのまま全面的に合わせるのは適切ではありません。局面的に、物価上昇分を下回る賃上げが続くことも、判断としてあり得ます。

そのうえで、「どこまでいっても物価上昇分に勝てる賃上げを自社ではする予定がない」といった印象やメッセージを従業員に与えてしまうと、やはり自社から離れてしまう誘因となってしまいます。

上記2つのことは、しばらく前からいろいろなところで言われてきていることではありますが、物価上昇の動きを時系列で、構造的にとらえることで、改めて認識できると思います。

<まとめ>
価格が上がりにくかった岩盤品目でも、価格上昇の動きが見られる。

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