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その場に応じた美点凝視のフィードバック

先日、コーチングをテーマにした勉強会に参加する機会がありました。その勉強会では、「相手から主体性を引き出す」ことをポイントのひとつにしながら、1対1でコーチングのロールプレイも行ったのですが、そのロールプレイ終了後に行った参加者全体での振り返りで、たいへん示唆的な気づきがありました。

全体での振り返りで、私とロールプレイを組んだ相手の方が、次のようなフィードバックのコメントを発言されました。

「今日は主体性がポイントになっていましたが、主体性は相性も大切だと感じました。藤本さん(私)がコーチ役でコーチングのロールプレイを行いましたが、藤本さんとは相性が良かったのか、波長が合ったと感じたので、どんどん話したくなったんですね。その結果、いろいろなことが引き出されたというか。私が、波長が合ったと感じただけかもしれませんが、とてもよい時間でした」

私としては、自分の行なったロールプレイは、うまくいかなかったなという、次のような振り返りをしていました。よって、全体振り返りの場でも次のように発言した次第です。ですので、上記のフィードバックは想定外で驚きの内容でした。

・ロールプレイの前に、主体性とは何か、主体性を引き出すうえで有効だろうと考えられる問いかけ等について、ディスカッションを行っていた。その中から、ロールプレイでは使ってみようと思っていた問いや、意識したいと考えていた視点がいくつかあった。

・しかしながら、ロールプレイが始まると、相手の方の話を聴くことのみになってしまい、約15分間のセッションの中で私から発した言葉は3つ程度のみで、ほとんどなかった。

・もちろん、コーチングでは傾聴に徹するのがよい局面もあるため、コーチが何も言葉を発しない時間が続く=悪いとは限らない。しかしながら、この日のロールプレイでは、明らかに私(コーチ側)がもっと発言することで、よりよい場になる余地があった。

全体振り返りの場では、上記私自身の振り返りの視点に通じるような、私の至らなかったところや、もっとよりよくなるための改善点を指摘することもできました。そのようなアプローチも、相手(私)に対する善意に基づくフィードバックになり得ます

しかし、今回ロールプレイを組んだ相手の方は、真逆の視点で、私の良かった部分を探してそこに焦点を当てる「美点凝視」のみにとどめたわけです。しかも、年齢的にも私より一回り上の方だったため、私に対して不足の点を指摘しやすい位置関係でした。しかし、そうしなかった。

その相手の方に直接聞いたわけではないのですが、冒頭のフィードバックをしてくださった背景として、次のようにお考えになった結果ではないかと想像しました。

・この勉強会は、コーチングスキルを磨くこともさることながら、「明日からさらに頑張って研鑽していこう」と思えるマインドアップのほうにより重きを置いている。よって、スキルの的確な指摘よりも、自分のフィードバックの後、相手がそのような状態になっているかどうかが最優先。

・藤本は、自身で至らないところも十分に認識しているように見える。だから、自分から指摘の上塗りをあえてしなくてもよいだろう。だとすると、「あの場面でもっとこうしたらよかった」などのスキル面の改善点よりも、マインドアップにつながりそうなフィードバックに終始したほうがよいのではないか。

上記のようなことを考えていた折に、友人である紀藤 康行さん(株式会社カレッジ代表)の「フィードバックのつもりの「おせっかいなアドバイス」が生まれる理由」というタイトルの記事が目にとまりました。

同記事内容に関連して、私なりの解釈でポイントを挙げてみます。(一部の内容は、同記事を引用しながらになります)

・「アドバイスを与えるという行為によって、”人はより力がついた”と感じる」という傾向がある。力を得たような感覚となるため、そうしたいという欲求にかられることもある。それも善意発で。しかし、相手にとっては、それを聞くことで冷水をかけられたような気分となり、行動パワーが落ちる「余計なアドバイス」になることがある。

・「フィードバックのパワーダイナミクス」のバランスを保ちながら、相手に伝わるようなアドバイスを行うには、「3つのA」の視点が有効である。Assist(支援を意図する)、Actionable(実行可能である)、Ask(「自分にもフィードバックがほしい」と頼む)である。(詳細は、上記リンクをお読みください)

的確な内容で相手の至らないところを指摘し、今後に資するアドバイスであったとしても、それが相手にとって常に有効に機能するとは限らないというわけです。

フィードバックでは、「Youメッセージ(あなた主語)より「Iメッセージ(わたし主語)」のほうが基本的によい、という原則があります。例えば、何かを指摘するにしても、「あなたはAが不足している」と断定的に伝えるより、「あなたにAが不足しているのではないかと、わたしは感じる」と伝えたほうが、相手が受け取りやすくなるというものです。

それから、事実に徹するという原則もあります。事実に反して、本当はできていないことを「できている」と言うようなフィードバックは、相手の事実誤認につながるためです。

冒頭の私に対するフィードバックは、

・事実に基づいた美点凝視
・Iメッセージ
・場の目的に応じた、伝える事実の選択
・3つのAの視点に適っている
(3つ目のAskは、直接は表れていませんでしたが)

を網羅した、秀逸なものだと感じます。

このフィードバックを聞いた私は、その場で思わずうなりました。自分の改善点は認識しながらも、明日からもコーチングに向き合って取り組んでいこうと前向きに思えたり、「あの場面でそういうフィードバックでくるのか」と感じたり。(←その場に居合わせていないと、臨場感が伝わるのに限界があると思いますが)

相手の方は、企業の中で、百戦錬磨で部下指導や役員も務められてきた方だそうです。このようなフィードバックができるとよいなと感じた次第です。(私はまだほど遠いですが)

以上、フィードバックについて考える上で、ご参考になれば幸いです。

<まとめ>
フィードバックで、事実の通知は大切だが、相手がどう行動変容するかがより大切。

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