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牛丼の値上げから考える

2024年4月17日の日経新聞で、「牛丼を分解してみた 1杯の原価は4割上昇、値上げ再び?」というタイトルの記事が掲載されました。デフレの象徴といわれることもあった牛丼の価格が上がっていることを取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

2021年以降、牛丼チェーンは断続的に店頭価格を引き上げ、足元も再び値上げ機運が高まる。実際に牛丼の原価はどれだけ上がっているのか。食材の市中卸値を使って試算してみた。

結論から先に述べると、牛丼1杯あたりの食材コストは1年前と比べると4割上昇した。もちろん、チェーン各社で食材調達の方法や時期などが異なり、調理工程も加わるため、単純に市中卸値では測れない部分もあるが、参考値にはなる。

今回は、実際に「吉野家」「松屋」「すき家」で提供する並サイズについて食材の使用量を計測した。それぞれ、お店を変えて3回にわたって持ち帰りで購入し、牛肉とコメ、タマネギの卸値から原価の平均を計算した。

コスト負担が最も重い食材が牛肉だった。主に牛丼で使われている牛肉は米国産バラ肉。国内卸値は現在1キロ1180~1300円。米国での生産減少や円安の影響を受けて高騰が続く。米国からの輸入が自由化された1991年以降で最も高くなっている。

吉野家の場合、牛丼1杯で57.3グラム。松屋は51.3グラム、すき家は76.3グラムだった。卸値をかけると、吉野家は67.6~74.5円、松屋は60.5~66.7円、すき家は90~99.2円になる。1年間で輸入牛肉の卸値は5割上がった。牛丼1杯でみると、牛肉だけで3社平均の中心値で25.6円のコストアップになる。

白米は、タレを含んだ状態で計測すると吉野家は236.7グラム、松屋が258.3グラム、すき家は281グラムだった。22年産の業務向けの卸値は現在1俵(60キロ)で約1万3000円。白米に含まれる水分を差し引いて計算すると、1杯あたり3社平均で22.5円になった。卸値は前年比12.5%高で、1杯で2.5円のアップ。牛肉ほどコスト面での影響は大きくないようだ。

輸入タマネギは3月下旬時点で大田市場(東京・大田)の卸値は1年前と比べると、8%安。使用量が少ないため、原価への影響は限定的とみられる。

牛肉とコメ、タマネギの3食材のトータルコストでみると、3社平均で牛丼1杯96.9~104.3円。1年間での値上がり率は中心値で38.4%になった。

最近では「すき家」を展開するゼンショーホールディングスが3日に「並盛」を30円引き上げて430円にした。松屋フーズは牛めしの並盛を400円に据え置いて、牛焼肉定食などを2日に値上げしている。

吉野家ホールディングスは直近では23年10月に「並盛」を値上げして現在468円。同社は今後の価格改定について「計画はないが、常に検討をしている」と説明する。

牛丼はいまでも他の外食と比べれば安くて身近なメニューだ。だが、コスト上昇が止まる気配はなく、ワンコインで食べられる時代は終わりが近づいているのかもしれない。その変化は日本のデフレ脱却の行方を映し出す。

飲食店の経営で必要な費用は、食材だけではありません。物流、調味料、食材の加工、賃金、店舗の管理など、他にも様々な経費がかかります。同記事の試算では、この1年間食材だけで100円程度のコストアップ要因があったということですが、賃上げによる人件費増など他の経費増加要因も含めるとさらにコストアップしているはずです。

買い手側の消費者としては、400円が430円に8%程度も値上げされると痛みを感じますが、売り手側としては30円程度の値上げではまったく足らないというわけです。背景には、コストアップ要因の多くを輸入品が占めていて、他国のインフレと為替の影響を受けやすいという面もあると考えられます。

コロナ禍以降テイクアウトを充実させるなど各社とも様々な取り組みも進めていますが、それほど利益率の高い業態ではありません。

直近で、ゼンショーHD(傘下ですき家を運営)の連結営業利益率は5%程度、吉野家HDと松屋フーズHDは共に4%程度となっています。店舗(牛丼屋なのか他の飲食店なのかなど)やメニュー(牛丼並盛なのか定食なのかなど)によっても利益率は異なるはずですが、平均値で想定すると、松屋の牛めし並盛400円は4%=16円しか利益が残らないということになります。

しかしながら、今の日本の消費者の価格感度からして、100円以上も値上げしてしまうと深刻な客離れが起きると判断し、30円程度にとどめているものと想定されます。

同じ飲食店業界といえども、値上げに積極的な会社もあります。例えば、吉野家と比較すると、マクドナルドやココ壱番屋はより積極的に値上げしていることが分かります。ちなみに、牛丼各社と異なり、ココ壱番屋は創業以来値下げをしない方針を貫いています。

価格の比較(価格は税込み) 2014年 2023年 上昇率
吉野家の牛丼 380円 468円 約23%
マクドナルドのハンバーガー 100円 170円 約70%
ココ壱番屋のポークカレー 442円 591円 約34%

背景としては、マクドナルドは本部のある米国の値付けの考え方から影響を受けている、ココ壱番屋はカレーチェーンでは圧倒的な強さのため顧客の値上げ受け入れ余地が大きい、といった要因が想定されます。他店と熾烈な競争をしている牛丼業界は、価格に関しても容易に値上げしにくいという事情があるように思われます。

以上からは、牛丼並盛単体で利益を上げることは、かなり厳しい状況だと想像されます。既に各社とも十分に取り組んでいるのではないかと思いますが、改めて以下のような取り組みが重要になってきそうです。

・セルフレジ、セルフ配膳、セルフ下膳などの導入、さらなる効率化を追求し、オペレーションにかかる人数を抑えて、最大のコスト要因である人件費を下げる

・牛丼単品よりも高利益率のメニューを開発、販促する

・ちょい飲みのアルコールに代表されるような、高利益率商材の抱き合わせ販売を伸ばせるような施策に取り組む

・グループ傘下の他の飲食店と合同で行う食材の仕入れ、加工などを増やし、スケールメリットを追求してコストコントロールできる余地を広げる

ちなみに、私は牛丼を食べる目的の時は、すき家に行きます。他の定食等を食べる目的の時は、吉野家、松屋も合わせて選んでいます。もちろん、これは個人の好みの問題であって、人が違えば選び方も違うだけの話です。

完全に個人の問題ですが、私の場合牛丼では肉の味などより、肉が多めの牛丼を食べたいというのがあります。感覚的に、すき家の牛丼が一番肉感がある気がしていたので、すき家を選んでいました。

同記事を参照すると、各牛丼に含まれる肉の割合が、すき家が一番高そうです。なんとなく選んでいた感覚が、合っていたというわけです。そのうえで、同記事のように、定量化して調べた結果を比較すれば、事実ベースで確認がとれます。ここまですることを思いつかなかったので、新たな気づきでした。定量化することは、やはり大切だと思います。(同記事のような記者のレベルまで、いつもできるわけではないですが)

肉の占める割合=牛丼1杯あたりの肉の量/牛丼全体の量
吉野家 約24%=57.3グラム/236.7グラム
松屋 約20%=51.3グラム/258.3グラム
すき家 約27%=76.3グラム/281グラム

消費者の視点としては、これぐらいの値上げを許容していく必要があるということ、さもなくば企業がもたなくなるということを、認識する必要もあると思います。

<まとめ>
事象を構成する要素を定量化し、事実確認する。

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