見出し画像

年収の壁を考える

先週から3回にわたって、日経新聞で「崩れるか 年収の壁(上)(中)(下)」というタイトルの記事が掲載されました。人手不足と言われる環境下で、潜在的な活用余地のある専業主婦、パート・アルバイト人材の現状を取り上げたものです。

年収の壁を意識して働いている人材は、どれぐらいの数になるのでしょうか。個人の価値観も絡むそのような数値を表した正確な統計は見当たりませんが、以下のとおり推定してみます。(正確な方法ではなく、適当な見積りでの推定ですが)

・総務省統計局の労働力調査によると、共働き世帯は1,521万世帯

・共働き世帯のなかでも妻がパートタイマーなどの非正規雇用者である世帯は半数以上(ARUHIマガジン)とされる。この情報も手がかりに、共働き世代で非正規雇用者の女性の数を約800万人としてみる

・日本の非正規雇用者全体は2,101万人。うち、パート・アルバイトが約7割の1,474万人(労働力調査)

・7月7日の日経新聞記事「崩れるか 年収の壁(中)」(参照記事下記)から、パート・アルバイトの人材のうち約6割の人が年収の壁で働き方を抑制していると想定

昨年末から今年初めにかけて、霞が関の官僚の間で話題になったリポートがある。「配偶者のいるパートのうち6割が、年収の壁を意識して働く時間を抑えている」

リポートをまとめた野村総合研究所では「人手不足の解消策を検討するなかで出てきたテーマ」という。パート女性にアンケートをしたところ、年収106万円など保険料の負担が生じる「壁」を超えても、「働き損」にならないなら働きたいとの回答は8割近くあった。

・以上から、年収の壁を意識しながら働いているパート・アルバイト人材は、800万人×0.7×0.6=約336万人と想定

日本の就業者数は、2022年度労働力調査で約6700万人となっています。そのうち、約340万人程度が年収の壁で「働き方抑制」をしているとしたら、どうでしょうか。個人的には、思っていたより存在感として大きいと感じた次第です。

私も以前、女性の方のパート従業員が多い職場で、採用管理の担当をしていたことがあります。年間100時間を目安に「これ以上シフトに入れないでほしい」とお願いしてくる例がけっこうな人数でありました。特に年末が近づくと「年明けまでシフトから外してほしい」という依頼が続出し対応に苦慮した記憶があります。

年々最低賃金が上がっています。社会的にはよい動きだと言うべきですが、年収の壁の関係で、時給が上がる分労働時間を抑制する人もいるため、マネジメントの現場としてはこの逆効果への対応も悩みの種となります。

歴史的な経緯もあり複雑な制度となって今に至っていますが、制度適用を受けている人もいて、抜本的な制度改定はなかなか難しいようです。

現在の政府案では、企業が1週間の労働時間を3時間以上延ばし、基本給を3%以上上げた場合などの助成を想定しているようです。1人あたり50万円を雇用保険制度から手当てし、企業がこの手当によってパート従業員等の手取りが減らないようにしてもらう内容で、早ければ2023年度中に始めて3年程度の措置とするとしています(「崩れるか 年収の壁(上)」より)。

そもそもこの年収の壁のイメージ自体、誤解が多いと専門家は指摘しています。年収の壁については、以前も取り上げたことがあります。その時の主な内容は、次の通りです。(私は社労士やFPではないため、内容の厳密性は保証できませんが)

・年収の壁は、税関連と社会保険料関係がある。
・税関連は、103万円と150万円で2つある。
・税の壁を超えることで手取りが減ることは基本的にない。

・社会保険料関連の壁は、106万円と130万円で2つある。
・勤め先が従業員101人以上の会社の場合、106万円の壁を超えると手取りは減るが、代わりに得られる将来的な便益・不足の事態への備えによる便益の効果が、手取り減より大きい。
・130万円の壁は、本人の勤務先が従業員100人以下の会社で、週30時間以上勤務などの条件を満たさない場合は、減った手取り分だけ損となる。
・逆に言うと、「勤め先が従業員100人以下の会社」「勤務時間が週30時間未満」「年収130万円以上」をすべて満たすケースのみ、働き損が発生するということ。

企業の側にできることとしては、今後上記のような政策の内容を把握し、自社で雇用するパート従業員に周知しながら働き方を変える意思がないか、促していくことが挙げられると思います。

個人の側も、制度内容をよく理解することと、物価が上がる=通貨の価値が下がる環境の中で106万円や130万円といった固定の壁をずっと気にし続けることが果たして妥当なのかを、考え直してもよいのではないかと思います。

<まとめ>
年収の壁に対しては、人材の有効活用や物価高の観点から、向き合い方の見直しが必要。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?