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採用での選考に時間をかける

5月6日の日経新聞で、「新卒採用は急がば回れ 非効率がミスマッチ防ぐ」というタイトルの記事が掲載されました。いかに時間を短縮し効率よく業務プロセスを進められるかが、私たちにとって重要な命題となる中でも、時間をかけて採用活動を行う事例を取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

2025年春に卒業予定の大学生を対象にした採用選考が6月から解禁となる。例年より「売り手市場」の傾向が強まり、企業には焦りも垣間見える。

リクルートの調査によると、4月1日時点の内定率は58.1%で前年同月を9.7ポイント上回る。採用活動の前倒しが顕著だ。予定人員を確保したい気持ちは分かるが、急ぐあまりミスマッチが増えないか心配だ。効率重視の新卒一括採用を見直すときだろう。

あえて非効率を選ぶ企業がある。中古品売買のバイセルテクノロジーズは通年採用で一対一の面接に約1時間かける。幼少期や小中高時代に悔しかったことや楽しかった思い出を聞き取り、「なんのために働くのか」という根源的な問いについても語り合う。

適材適所で活躍してもらうために、個人が成長する背景を感じ取り、価値観を擦り合わせる必要があるという。他社でなかなか内定が得られない悩みを打ち明け、泣き出す学生の相談に応じることもある。24年卒の1次選考では7人の担当者が約2500人の学生と向き合った。

「減点方式の面接であれば15分でできるかもしれないが、加点方式では時間が足りない」と同社人事戦略室の小泉俊一グループマネジャーは話す。

U-NEXT HOLDINGSは19年卒の採用から改革を重ねてきた。学生にはエントリーシートの代わりに自己PR動画の提出を求める。学生が面接官を選ぶことができ、最終面接で不合格になっても再挑戦が可能だ。企業と学生は対等という考えから、各選考での通過者や内定承諾者の人数などをホームページで随時公開する。

「本来は学生の個性を見るべきなのに、従来の採用活動のままでいいのか。日本社会に向けたメッセージでもある」。採用戦略部長の野村大河氏は自社の取り組みをこう表現する。

ジョブ型人事制度を導入する日立製作所は、新卒採用でもマッチングの精度を高めることを目指す。職種別採用のほか、新入社員らの紹介による採用を拡充。24年卒の事務系の最終選考では、学生にテーマを与えプレゼンテーションをしてもらった。自身のやりたいことが明確になり、内定辞退が10%減ったという。

学生が約2週間の就業体験をする長期インターンシップにも積極的だ。受け入れる現場の負担は大きいが、人事部門が必要性と有効性を説いて回り、23年度は930人を受け入れた。22年度に長期インターンを経験した学生のうち2割強が採用につながった。

「日立は学生にJTC(伝統的日本企業)だと思われることがまだまだ多い。人材マネジメントの進化をはじめ、この十数年で大きく変わってきたことを知ってもらう機会になる」。人事勤労本部の大河原久治部長はインターンのメリットをこう指摘する。

一括採用で短期間に多くの学生のスキルや適性を見極めるのは難しい。採用方法を多様化し、手間をかけてこそミスマッチを減らすことにつながる。

「質」と「量」は、私たちがさまざまな活動をする上での、もっとも代表的なトレードオフです。

候補者一人ひとりの採用プロセスに時間(量)をかければかけるほど、自社に合った人材の見極めの質は高まります。一方で、1人当たりの採用判定にかかる時間をなるべく短縮すれば、より多くの候補者を集めたり会って判定したりするための活動に時間を使えます。候補者1人に対して無限に時間を投入するわけにもいきません。

1人当たりの採用プロセスにどれだけの時間を使うべきかについて、決まった正解もありませんが、採用選考の結果の質としては、以下を指標として考慮する必要があると思います。

・採用した人材が、入社後に自社で活躍できる人材か
(マッチング率の高さ)
・内定を出した人材が、そのまま入社してくれたか
(辞退率の低さ)
・入社前にイメージしていた就業環境・職務内容と実際とが合っているか。違っていたとしても納得して、一定数が適正に残ってくれるか
(離職率の低さ)

採用時間を可能な限り減らし、効率よく採用数を確保したとしても、上記のいずれか、あるいは複数が思わしくない結果であればあまり意味はありません。

逆に、例えば候補者1人に対しこれまでの採用活動の2倍時間をかけることで内定数を1/2しか出せなかったとしても、辞退率50%だったのがゼロになるなら、そのほうがやり方としては優れていると言えます。同数が確保できたうえでマッチング率や離職率が下がる、つまりは「質」×「量」による全体の掛け合わせが大きくなる、と想定されるためです。

同記事の例からは、「コスパ」や「タイパ」といった物事の進め方だけでは網羅できない要素がある、とりわけ対人の取り組みではそのことが当てはまりやすい、ということを感じます。

時間という途中プロセスの量を投入することで、最終的に得られることの量や質の面でプラスになるかもしれない。採用に限らず、身の回りの活動で振り返ってみたい視点だと思います。

加えて、同記事の例は、これから新たに社会人生活を始める人材に対する社会貢献活動と言えると思います。最終的に自社に入社しなかったとしても、自己発見を深めるという機会を提供し、社会人生活をより良いものにするきっかけとなるからです。

社会貢献活動の取り組みを模索している企業も多いと思いますが、インターンや採用活動といった、既に取り組んでいることのやり方を変えることで、その一助と言えるようになることが、いろいろあるのではないかと感じます。

大学生の就職内定率は、就職氷河期と言われた2000年前後は、就職活動が概ね終息している10月1日時点で60%台前半でした。冒頭の記事では、採用選考の解禁前の今年4月1日時点で既にほぼそれと同じぐらいの内定率58.1%という状況のようです。いかに採用活動で売り手市場なのかがわかります。

自社としての採用市場への向き合い方について、アップデートし続けることの必要性も、同記事からは改めて感じます。

<まとめ>
「質」×「量」というキーワードで、選考を考えてみる。

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