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大学生の就職企業人気ランキングを考える

4月は、新入社員研修を担当する機会が増えます。毎年この時期に新入社員の皆さんとご一緒することで、仕事の初心を思い起こさせてくれます。

4月9日に、NIKKEI・マイナビ2025新卒採用広告特集が掲載されました。2025年卒の大学生を対象とした、就職先にしたい企業の人気ランキングを紹介したものです。

理系総合では1位はソニーグループ、文系総合では1位はニトリで、それぞれ前年から連続で1位です。ソニーグループについては、次のように紹介されています。(一部抜粋)

同グループは一時期低迷したものの、事業構造改革で業績がV字回復した。その後は好調を持続しており「業種にとらわれず変革を続ける企業」のイメージが好感度につながっているといえそうだ。

ニトリについては、次の通りです。(一部抜粋)

インターンシップを強化し、多様な職種を知るコースを提供。特に「IT(情報技術)コース」は、商品の企画開発から製造、物流やIT、店舗小売りに至る全ての機能を自社で完結させる「製造物流IT小売業」という独自のビジネスモデルを伝えることに成功している。

目を引くのは、文系2位で前年15位から大きく順位を上げた、みずほフィナンシャルグループです。同様に大きく順位を上げたのが、文系13位(前年306位)、理系3位(前年121位)のKDDIです。両社について次のように紹介されています。(一部抜粋)

auブランドを持つKDDIは前年から大きく順位を上げた。あらかじめ職務内容や求められるスキルを明確にする「ジョブ型」の人事制度に加え、初期配置を確約した採用も実施。みずほフィナンシャルグループもジョブ型の発想を取り入れ、職務内容を明確にして成果で評価する人事制度を開始している。

学生に支持されてランキング上位となるには、いろいろな要因を挙げることができると思いますが、ひとつ大きなテーマと言えそうなことに「不安が少ないこと」、言い換えると「将来の展望が描けること」が挙げられるのではないかと考えます。

ソニーグループとニトリは、ランキング上位の常連となっています。いずれも企業努力を行い、独自のビジネスモデルを追求し、商品・サービスの基盤を築くことで、経営持続性の高い企業と認知されているものと想定されます。

みずほフィナンシャルグループとKDDIについては、「ジョブ型」と言われる、職務記述書ベースの人事制度に基づく仕事内容・処遇の適用を全面的に打ち出していることが指摘されています。特にKDDIが文系で300位以下からトップ20まで大きく順位を上げた要因として、間違いなく指摘できそうです。

この背景について、「終身雇用や年功序列をベースとする「メンバーシップ型雇用」は古い、これからの時代に合わない」などと片付けたくなるかもしれませんが、もう少しひも解いて捉えるとよいのではないかと思います。

前世紀と今世紀で大きく変わったことのひとつに、私たちの職業生活の平均年数と、企業の平均寿命として想定される年数との逆転が挙げられます。55歳定年時代の職業生活年数は30数年、当時の企業がそれ以上の平均寿命として認知されていました。今では、70歳程度まで働くとすると職業生活年数50年近くになります。一方で企業の優勝劣敗による入れ替わりは早くなり、企業の平均寿命はとても50年に及びません。

かつては、配属ガチャでも何でも、無限定社員(職種や職務内容、勤務地、労働時間が無制限)として企業の人事に乗っかっていけば、マイカー・マイホーム(多数の拠点と無制限の転勤がある企業では、マイホームを持つのは困難ですが)・老後の年金の安心感がある生活が保障されていました。

つまりは、昔は配属ガチャでキャリアをつくれるという道筋を展望できていたために、配属ガチャが不安の要因にはなっていなかった=「不安の回避」が自然にできていたというわけです。それは、職業生活年数>企業の寿命の構図があってこそ成り立ちます。職業生活をまっとうする前に企業がなくなってしまえば成り立たないからです。今では多くの職場で望むのが困難です。

よって、学生の立場としては、「不安の回避」というテーマに関して(仕事のやりがいなど別のテーマは除く)の主要命題は大きく2つです。

1.想定寿命が他社より長く将来性のある企業に就職する、
2.自律して自律してどこでも仕事ができる能力を身につけ、自ら不安が解消できる状況をいち早くつくりだせる環境の企業に就職する、

のいずれか、あるいは両方の実現です。

自社のビジネスモデルや企業戦略を研ぎ澄ませ、自社の寿命は他社より長く将来性のある企業だと思わせることは、1.に該当します。ソニーグループやニトリの例は、1.が当てはまると言えそうです。(もちろん、上記記事の抜粋内容に関してだけの話です。実際は1.に加えて2.の要素も持ち合わせているかもしれません)

みずほフィナンシャルグループやKDDIのジョブ型の例は、学生が就職後主体的に2.を実現しやすい環境を進化させているという取り組みを前面に出して、認知を得ようとしてきたのが奏功していると考えられます。

23年3月の大卒者は59万人でしたが、大学生の減少が進み、50年代には大卒新入社員は38万人と現在から約2割減る見通しだそうです(3月31日の日経新聞より)。新卒採用は超売り手市場が今後も進むことになります。

初めて仕事をする環境を選ぶ学生にとって、「不安の回避」はとても大きなテーマです。自社として、1.2.のどちらを、あるいは両方を、どのような方法で打ち出せるのかは、企業の新卒採用戦略にとってもますます重要になってくるのではないかと思います。加えて、もし終身雇用や年功序列を基盤として、1.2.に通じる自社なりの方針を明確にできるのであれば、それも有効な戦略になり得ると思います。

<まとめ>
就活生の「不安の回避」願望に対して、自社なりにどうこたえるか。

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