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任期限定の若手役職登用

10月28日の日経新聞で、「富士通、新卒2年で課長級抜擢も 任期限定、若手の発想活用」という記事が掲載されました。年功序列など、旧来の人事制度と一線を画した改修を目指して各社が取り組んでいますが、様々な試みを行っている例として富士通は時々取り上げられるのを見かけます。

同記事の一部を抜粋してみます。

富士通は若手社員を期間限定で管理職級に登用する制度を導入した。任期を基本1年として公募し、新卒2年目の社員を課長級に抜擢した。従来は管理職に昇進した人材を一般社員に戻しにくいため若手の登用が難しかったが、期間限定にすることで管理職級を経験する機会を増やす。事業転換に若手の柔軟な発想を活用するため、年功序列を見直す人事制度が広がってきた。

国内の大企業では、人事労務の慣習として一度管理職などに昇格した社員を一般社員に戻すことが難しい。そのため、若手を登用するとその後に長年管理職を務め続ける必要があることなどが、登用の妨げになっていた。若手でも管理職に就ける制度を導入する企業はあるが、富士通のように期間限定で管理職級に登用する制度は珍しい。

9月に課長級の役職「デザインアドボケート」を新設した。新卒1年目からを対象に社内公募で希望者を集めて、新卒2年目の社員1人を選抜した。学生時代にイベント企画の経験を積み重ねてきたことなどを評価した。

富士通が提供する業務用アプリやシステムの画面表示を操作しやすく改良する業務などを手掛ける部署の役職で、業務の内容を外部に発信する役割を統括する。幹部社員のみが参加する戦略会議に出席したり、約20人のチームの会議の進行を取りまとめたり、自身のSNS(交流サイト)での発信などを担う。課長職級の間は同等の給与を支払う。成果次第で任期延長の可能性もある。

大企業では若手社員は上司の指示を受けて業務に取り組むのが通常で、自らが主体的に重要な意思決定に関与することは少ない。IT(情報技術)を使いこなした発信には10~20代の「Z世代」の社員が持つSNSの活用能力や変化への対応力を引き出すことが欠かせないと判断した。重要な役割を与えられる前に離職するといったことを回避する狙いもある。

富士通は2020年に本体と国内グループの管理職、22年にほぼグループ全体で「ジョブ型雇用」を導入し、管理職を社内公募で選考する制度に切り替えた。20年までは上司からの推薦で管理職に登用する社員を決めていた。

管理職に登用されるのは30代半ば以降が一般的で、これまでの最年少は28歳だった。本体と国内グループ会社の約6万人のうち管理職は約20%の1万2000人程度。年代別で15%程度を占める20代社員の活躍の場は限られてきた。選抜された社員からは「結婚や子育てをする年代となる前に経験を積めることは貴重」との声もでている。

評価・処遇の制度作りや運用では、次の視点が大切です。

・是々非々
・信賞必罰
・再チャレンジの許容

これまでにも時々取り上げたことがありますが、年功序列が悪だとは限りません。自社を取り巻く社内外の環境、それを踏まえた上での事業戦略・人事戦略いかんによっては、年功序列方式による処遇が有効な場合もあり得ます。

問題となるのは、年功序列方式が有効でないはずの組織で有効だと判断している場合や、「成果主義」など年功によらないとする人事の方針を謳っていながら、結局年功で評価している場合などです。

富士通が「事業転換に若手の柔軟な発想を活用するため、年功序列を見直す」方針であるなら、それに合ったルールを新設するという同記事の内容は、是々非々の観点から妥当な方向性だろうと思われます。もし年功序列を大切にする組織が、同社の事例のような流行り物を見て、「面白そうな制度だから、うちも」などとやると、是々非々の観点からおそらく妥当ではないでしょう。

そして、信賞必罰です。国外企業に比べて、日本企業は社員の評価・処遇において信賞必罰に徹しにくい文化だと言われることがあります。「評価ルールに沿うと○点になってしまうが、評価が下がり過ぎになってしまうので△点加点してやわらげよう」など、よくある話です。しかし、「その組織の文化・ルールにとっての信賞必罰」を崩してしまうと、人のマネジメント全体が崩れてしまいます。やはり、信賞必罰は原理原則だと思います。

同記事にある「慣習として一度管理職などに昇格した社員を一般社員に戻すことが難しい」も、信賞必罰に徹しにくい風土ということを表している典型例です。

そうした風土的な背景も踏まえると、同社のような「期間限定での役職登用」の工夫は、有効な方法だと考えます。そのような前提にしておけば、任期が来たら降格という形ではなく、約束事として自然と元に戻せるからです。そのうえで、期待をいい意味で裏切って高いパフォーマンスを出した人は、例外的に続けてもらったり、別の重責を任期付きで任せたりするなども可能になります。

そして、再チャレンジを許容することも大切だと考えます。以前の投稿では、稲盛和夫氏が「マネージャーやリーダーをやらせてみて、どんどん交代させていく、交代させられた人の敗者復活も十分あるようにする」という考え方で経営されていたことについて取り上げました。仮に上記の制度でうまくいかなかった社員がいたとしても、そのことで必要以上に評価が下がったり次の挑戦機会が閉ざされたりしないことが、大切だと思います。

社内外を取り巻く環境変化に応じて、各社員の強みを最大限に引き出して全体最適の観点から有効活用する。既存のルールや慣習がそれを阻んでいるなら、ハードルを下げるための新たなルールを設定してみるのは、ひとつの有効なアプローチだと思います。

<まとめ>
期間限定は、信賞必罰に徹しにくい風土を踏まえた上での、有効な方法かもしれない。


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