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転勤制度は選択肢(5)

前回の投稿では、個人の観点から転勤の選択肢が増えていることについて考えました。今日は、「自己決定」の観点から、続きを考えてみたいと思います。

私の中学校の同級生は、(近況はあまり分かっていないのですが、推定で)おそらく半数近くが転勤のない職業生活を送っているのではないかと思います。

当時の記憶だと、ざっくり3割ぐらいが高校卒業と同時に地元(山口県)で就職し、2割ぐらいが高校後に進学した専門学校や大学の卒業後に地元に帰って就職していました。地場に根付いた会社に就職し、他に拠点がないため転勤が起こり得ない環境で職業生活を始めました。または、地方公務員です。つまりは、地元に定住することを優先する職業生活を自己決定したと言えると思います。

転勤を断るという発想がなく転勤族として職業生活を送った場合は(私もこれまでのキャリアの前半はそうでしたが)、上記のような「転勤が起こり得ない環境」で職業生活を始めるという選択をしなかった、と言うこともできます。

先日、次のような方にお会いしました。「自分はこれまで、自己決定したと思えることが特に見当たらない。大学進学で、どんな学部に行きたいかよくわからなかったので、複数の学部を受けた。受かったのは第2志望の大学。就職も、どんな業界・職種がいいのかわからなかったので、幅広く受けた。受かったのはあまりイメージのなかった会社。そこで営業担当として働き始めて何年か経って、別の支店の営業に配置転換。可もなく不可もなくでやっているが、これをキャリアと言うのかどうか・・・」

私は、「間違いなくキャリア」だとお伝えしました。

ご本人が言うように、自己決定しているという自覚はないのかもしれません。しかし、じゃあこの方が工場で機械を操作する仕事をするのかというと、それは選んでないわけです。特にポリシーなく複数の学部を受験しているかもしれませんが、いわゆる理系の学部は受けていません。

場所にはこだわりなく、営業という仕事に行きついている背景には、必ずご本人なりの理由があるはずです。それをまだ特定できていないだけです。その理由を自分なりに言語化して、何が好き・得意なのかを明確にできた時に、キャリアビジョンの土台が見えてくると思います。

キャリアで自分が大切にしていることの明確化には、何らかのツールを使うとやりやすくなるかもしれません。例えば、キャリア・アンカー(書籍「キャリア・アンカー」エドガー H.シャイン氏著 金井壽宏氏訳 参照)の8分類で、自分がどれに当てはまりそうかを認識することも、その一例です(ご興味がある方は、同書等にある質問に答えていくことで、判定を試みるとよいと思います)。

キャリア・アンカーは、個人がキャリアを選択する際に、自分にとって最も大切で、「これだけはどうしても犠牲にできない」という価値観や自分の軸を指します。ちなみに、私の場合は、8つのうち「自律・独立」がアンカーのようです。

専門・職能別コンピタンス(TF):自分の専門性や職能が高まること:特定の分野で能力を発揮し、自分の専門性や職能が高まることに幸せを感じる。

全般管理コンピタンス(GM):組織で責任ある役割を担うこと:集団を統率し、権限を行使して、組織の中で責任ある役割を担うことに幸せを感じる。

自律・独立(AU):自分で独立すること:規則に縛られず、自分の納得する仕事の標準、ペース、やり方で仕事を進めていくことを望む。

保障・安定(SE):将来の出来事を予測できること:所属する組織に忠誠を尽くし、社会的・経済的な安定を得ることを望む。

起業家的創造性(EC):創造的な事業を試せること:夢に貪欲で、リスクを恐れず、クリエイティブに新しいものを創り出すことを望む。

奉仕・社会貢献(SV):大義のために身を捧げること:なんらかの形で世の中をもっと良くしたいと思い、社会的に意義のあること望む。

純粋な挑戦(CH):解決困難な問題に挑戦すること:解決困難に見える問題の解決や手ごわいライバルとの競争にやりがいを感じる。

生活様式(LS):生き方全般のバランスと調和:個人的な欲求や家族の願望、自分の仕事などのバランスや調整に力をいれる。

ただ、「自分は自律・独立だ」と言うだけでは、自己探求としては道半ばです。それをどういう形で実現させるのが自分にとってよりしっくりくると思うのか。自分がこれまでに体験した出来事で、その時どう感じたのかなどを思い起こして、「自律・独立」と関連付けて考えてみるなどすることで、キャリアに対する自分なりの向き合い方の言語化に近づくと思います。

私の場合は、場所も時間も仕事のやり方も自己裁量・自己責任で決めて取り組みたいという願望が強い自覚があります。そのことが、「住むエリアは他者に指示されず、自分で決めたい」という、転勤を避けようとする動機になっていると感じています。

同書では、「生活様式(LS)」がアンカーの人は、「個人と家族、キャリアの問題をうまく統合するために、転勤に消極的である可能性が高い」と書かれています。勤務地限定を選ぼうとする人は、このアンカーが当てはまっているかもしれません。自分の価値観・軸を言語化できれば、キャリアの岐路での判断基準が明確になり、能動的に自己決定しやすくなります。

転勤が発生する環境を選ぶか、発生しない環境を選ぶかは、以前も自己決定できる余地はあったとはいえ、選択肢が今より限られていたのは確かです(前回参照)。しかし、今では選択肢が広がりました。自分の価値観・軸を言語化し、どの選択肢を選ぶのかについてより能動的に臨めるとよいと思います。

<まとめ>
「自分は何を選ばなかったか」から、見えてくる自分軸もある。


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