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孫育て休暇から考える

3月16日の日経新聞で「孫育て休暇、地方公務員に広がる 郡山市は45人利用」というタイトルの記事が掲載されました。育児休業・育児休暇の制度が孫まで対象になるという概念が自分の中でなかったため、新鮮な内容でした。

同記事の一部を抜粋してみます。

孫を持つ職員向けに「孫休暇」を導入する動きが自治体で広がっている。誕生時のサポートや孫の育児、看病を理由に多くの場合は有給で取得できる。2023年度に始まった公務員の定年延長で孫を持つシニア世代が増えるのを見据え、育児に協力しやすい環境を整える。

神奈川県は4月に孫を持つ職員向けの休暇制度を導入する。子どもを持つ男性職員が妻の出産時と出生後の育児のためにとれる特別休暇の制度を一部変更し、対象を孫を持つ職員に広げる。期間はそれぞれ最大3日間と5日間とする。

23年12月の県議会で関連条例を改正し、4月の制度開始に向けて職員への周知を進めている。県の担当者は「男性職員の育休取得は進みつつあるが、祖父母を含めた全体的な子育て支援が必要だ」(飯田馨労務給与担当課長)と話す。

岡山市は孫の成長段階に合わせた特別休暇を4月から取り入れる。誕生前後に3日間の有給休暇を認めるのをはじめ、3歳になるまでに通算で6カ月間の無給休暇を取得できるようにする。本格的な孫休暇の導入は政令指定都市で初めてだという。

市によると、職員が退職理由の一つに孫の育児を挙げるケースが過去にあった。孫休暇の導入を通じ「子育ての推進とあわせ、優秀な職員をとどめたいという気持ちもある」(大森雅夫市長)。1月には三重県桑名市も孫休暇を導入した。

ベテラン職員の知識・経験の活用、人手不足への対応を目的に公務員の定年は23年度から2年ごとに1歳ずつ延長する計画だ。31年度には65歳となり、在職中に孫の子育てにかかわるシニア世代は今後増加するとみられる。

先行する自治体では職員からの好意的な反応が出ている。23年2月に導入した福島県郡山市は1年間で45人が利用した。学校管理課主幹の遠藤修さん(56)は娘が夫婦そろって出産に臨めるよう、上の孫を預かるために休暇を取得した。娘には「安心して出産できた」と感謝されたという。

23年1月に都道府県で初めて導入した宮城県には「孫の世話で有給の特別休暇を付与するのはいかがなものか」と批判的な声も寄せられたという。それでも孫休暇が広がる背景には、祖父母世代が子育てに果たす役割の大きさがある。

国立社会保障・人口問題研究所の21年の出生動向基本調査によると、15〜18年に生まれた第1子で3歳までに祖母から子育て支援を受けた割合は58%と半数を超えた。祖父の支援を受けた割合は32%だった。

同記事からは、現存する様々な社会制度や企業内の雇用制度ができた当時から、環境変化を踏まえたうえで、改めて2つの前提を見直す必要があることを感じました。それは、「世帯の構成メンバー」と、「メンバーの属性や取り巻く実情」です。

子どものいる世帯については、いろいろな制度が、会社員の父親が世帯主、専業主婦の母親、子ども2人というモデルをもとにつくられて、そのまま今に至っている面があります。例えば、正社員が無限定で残業し転勤することを所与の要件としていた雇用がそうです。父親の仕事の都合で居住地が変わることに、他の家族全員が合わせることが前提となっています。この前提は当然ながら、母親も会社員の場合通じなくなります。

女性を中心とする時間給労働者で103万円や106万円などがネックとなる年収の壁問題もそうです。母親の大半が、専業主婦という形態の中限られた時間の範囲内で、家計の補佐的に就業することを前提としていた制度の名残りだと言えます。

もちろん、今でもそうしたライフスタイルを選択する人もいるわけですが、世帯全体の過半を占めるようなモデルではなくなっています。単身世帯、別居世帯、両親共働き、会社員(被雇用者)以外の就業形態の拡大など、世帯の構成メンバー・属性も多種多様になっています。何かひとつのあり方を前提のモデルとした制度は成り立たなくなっていると言えます。

しかしながら、例えば、総合職と一般職を区分し、事実上前者が男性正社員対象、後者が女性正社員対象といった運用をしている会社を今でも見かけます。総合職と一般職という区分の設置がその企業の戦略に合致している可能性はありますが、性別や国籍等の属性で無条件に区分する運用がこれからの戦略に合致しているとは思えません。

冒頭の記事に関連して、かつては55歳定年制だったのが、今では従業員に対して70歳まで就業機会を確保することが「努力義務」となっています。55歳定年時代にはほとんど想定されませんでしたが、今後は就業中の従業員で孫育てに参加するという人材も増えていくものと思われます。その観点では、同記事のような事例は今後の休暇制度の在り方としてひとつのきっかけになるかもしれません。

そのことによって有給での休暇が数日間増えるということもさることながら、そのような考え方やルールに沿って気兼ねなく休めるということが発言権を得ることのほうが、意義として大きいと考えます。

会社によっては労働環境の制約が大きいところもあり、難しいことだとは思いますが、改めて、

・社会全体の労働供給力がさらに減っていく中で、一人ひとりの労働参加と労働生産性向上がますます重要になる

・それらを実現させるうえでは、多種多様な人材を雇用し、強みを発揮して活躍してもらうことがポイントになる

・そのうえで、評価や処遇は、労働参加自体ではなく具体的な貢献でみるのが基本となる。つまりは、(短期、中長期で求める適切な時間軸という観点はあるものの)各人材がもたらす成果の大きさや付加価値の高さが基軸になる

・多種多様な人材を雇用=誰でも雇用する、ではなく、自社の理念やビジョンへの共鳴など、自社が妥協すべきでない要素をクリアしたうえでの雇用である

などを実現させていく必要があると思います。

<まとめ>
環境変化に合わせてルールを適切に見直す。

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