従業員のエンゲージメントと役員報酬の連動
6月8日の日経新聞で、「役員報酬、働きがいに連動 日立や出光が導入」というタイトルの記事が掲載されました。従業員の仕事に対する意欲改善、投資家からの評価を高めることも狙いにしたものであると説明されています。
同記事の一部を抜粋してみます。
主要企業1100社のうち20社ですので、同記事のような制度を導入しているのは2%未満です。また、主要企業以外の企業は導入率がさらに低いことが想定されますので、まだ始まったばかりの動きだと言えそうです。これからさらに広がっていく動きになると想定されます。
売上や利益が上がるから従業員のエンゲージメントが高まるのか、従業員のエンゲージメントが高まるから売上や利益が上がるのかは、どちらが先とも言えない、鶏と卵のような関係かもしれません。いずれにしても、両者が影響を与え合う関係であろうということは、同記事などからも改めて想像できそうです。
思想家の安岡正篤氏は『思考の三原則』を提唱しました。長期的、多面的、根本的に物事を考えるのが大切だということです。
・長期的思考:第一は、目先に捉われないで、出来るだけ長い目で見ること。
・多面的思考:第二は、物事の一面に捉われないで、出来るだけ多面的に、出来れば全面的に見ること。
・根本的思考:第三に、何事によらず枝葉末節に捉われず、根本的に考える。
人材力は、(短期的にも当てはまりますが、それ以上に)「長期的」にその組織の力を大きく左右する要素となります。今いる人がいずれ組織を退出するといなくなるわけですが、良い人材がいる組織は良い新たな外部人材を引き寄せます。後から来た良い人材が引き続き組織をつくっていきます。
また、良い人材が指導・育成する人材は、良い人材に近づきます。よって、その人材が退出すればゼロになるわけではなく、何らかの成果やノウハウを残していくことになります。このように考えると、人材力がいかに長期的な影響を与えるかが改めてわかります。
人材力は、「人的資本」と言われることからも資本の一要素だとみなすことができます。「エンゲージメント」は、人的資本をつくり出す一要素です。よって、「エンゲージメント」は組織力を構成する全資本のうち細部の存在ということになりますが、重要な要素です。細部でありかつ金額などに換算しづらい指標のため、これまであまり注目されてこなかったのかもしれません。
こうした細部にあるもの、あるいは隠れている重要な要素に目を向け、その結果を経営・マネジメントに活かすということは、「多面的」に見るということに通じると思います。
他にも、このエンゲージメントと似た要素があるかもしれません。例えば、研究開発への投資状況です。仮に、同業界、同じ売上高、同じ利益額、同じ株主還元度合いのA社とB社があるとします。A社が将来のために研究開発費を多く使っている一方、B社がほぼゼロだとすると、利益率など話題になりやすい表面的な財務指標は同じであっても、A社のほうが将来的に優位性がありそうだと考えられます。
従業員のエンゲージメントが高いということは、その組織がエンゲージメントを高めるためにヒト・モノ・カネ・情報・時間を投入する(=投資する)活動をしているということです。投資しているということは、それだけエンゲージメントが競争力を左右する重要な要素だと考えているからです。
・エンゲージメントも含め、自社が大切だと考える投資対象が何かを特定できているか
・それらの特定でヌケモレなく、長期的、多面的、根本的な視点でなされているか
・特定した要素を高めるための十分な投資ができているか
今後の経営・マネジメントを考える上で、必要な視点だと思います。
<まとめ>
自社が大切だと考える指標を定義し、それを高めるために投資する。
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