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イノベーションについて考える

10月31日の日経新聞で「イノベーションを生む土壌(上) 社会課題解決の先頭に立て」というタイトルの記事が掲載されました。イノベーションとは何かについて理解を整理する上で、示唆的な内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

イノベーションとは、我々の社会に「経済的価値をもたらす革新」である。イノベーションの実現とは、革新的なアイデアにつながる新たな知識を生み出す活動と、その知識を経済的価値に変換するために必要な資源を社会から集めるという資源動員の活動から構成されていることになる。この2つがイノベーション実現のための車の両輪である。

しばしばイノベーションが辺境から生まれる、という物言いをされるのは、イノベーションが本質的に逸脱現象だからである。主流からの逸脱ゆえに、革新的アイデアは常識外れとして反対されるか、例外や偶然として等閑視される。しかし、そのアイデアはいずれ「なくてはならないモノやコト」として具現化され、社会に受容される。イノベーションとは、「あり得ない(逸脱)」が「当たり前(当然視)」として受容される過程だということになる。

ビジネスは「顧客の困りごとの解決」のために存在し、新事業や新産業創出のための研究開発活動は、「未来の顧客や社会の困りごとの解決」のために存在する。他社が解決できない困りごとの解決能力こそが、企業の個性となり、独自の競争力の源泉となる。

それゆえ、未来のあるべき社会と解決すべき課題の提示なしに、政府や企業が競うようにイノベーションの実現を目標に掲げるのは奇妙である。掲げるべきは、イノベーションの実現を通じて最終的に実現したい社会の姿やカタチであり、そこに至る過程で具体的に取り組むべき課題の、社会への提案であるべきだからだ。手段や過程が自己目的化する状況は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)の議論でも散見される。

イノベーション実現という建前論が先行しつつも、果実を十分に享受できていない閉塞感は、日本全体の経済成長にも如実に表れている。国際通貨基金(IMF)統計によれば、2000年と比較して22年時点で世界の国内総生産(GDP)が3.23倍となったのに対して、日本の同期間の伸びはわずかに1.76倍である。台頭する中国(8.26倍)やインド(5.87倍)、そして韓国(3.52倍)にも及ばない。

この20年で大きく伸長した世界経済に対して、新たな価値を提案し、自らの成長機会として取り込めていないのが日本である。

イノベーションの支援・推進策もスタートアップ企業の支援・推進策も、そのポイントは一つである。それは、よりよい社会の実現に向けて、具体的に解決すべき現時点の挑戦課題とは何かを具体的に決めることである。解決すべき課題の認識の共有なしに、優先順位も時間軸も定まらない。

イノベーション支援もスタートアップ支援も、事業提案として語られる解決すべき課題の中身について突っ込んだ議論や検討なくしては、砂漠に水をまくようなものである。

上記から2つのことを考えました。ひとつは、イノベーションとは、社会に役立つ経済的価値を生み出すものを指すということです。

企業にとって、最も身近に存在する社会は、その企業の商品・サービスを買ってくれるお客さま=顧客だと言えます。経営学者のドラッカー氏は、企業の目的を「顧客の創造」と言いました。顧客をつくるとは、自社が提供する商品・サービスを受け入れてもらい、既存顧客の購買が継続し、新たな顧客もひきつけることと言えます。イノベーションは、このことを実現させるための手段だと捉えることができます。

普段いろいろな企業を見聞きすると、イノベーションが長い間起こってなさそうな組織を見かけることもしばしばです。一方で、やたらと新しいことに挑戦し、商品・サービスのチェンジや付随サービスの開発、社内活動の取り組みを始める組織もあります。

もちろん、試行錯誤の実験や失敗はイノベーションを生み出す上で不可欠ですが、お客様不在の状態でなされていることも多く見かけます。すなわち、そのイノベーションを必要とするお客さまはどんな人で、それによってどんな価値が得られるのかが想定されないまま、「何か新しいことをせねば」というイノベーション志向・試行だけ先行しているということです。同記事の示唆する「手段や過程の自己目的化」に通じます。

社内活動であれば、お客さまが社員となります。社員はどんな新たな価値が得られるのかの視点が忘れ去られたまま、他社から「こんなユニークな社内活動をしている」と聞いたことをそのまま自社で試そうとするのも、同記事のイノベーションの位置づけから外れていると言えるでしょう。改めて、イノベーションの前提として、「それによって、相手に対してどんな新たな付加価値が生み出せるのか」の問いが大切だと感じます。

もうひとつは、課題を定義するのがリーダーの仕事だということです。

もちろん、リーダーの仕事はこれだけではなく、多岐にわたります。そのうえで、突き詰めると、リーダーの仕事は大きく2つの方向性、何を目指してどこに行くべきかのゴールを設定することと、そこに向けてメンバーを導くことに集約されていきます。達成すべき課題の定義は、ゴールを設定しそこへの道筋を明らかにすることだと言えます。

社内外に存在する情報を吸い上げて、既存顧客、未来顧客の求めていることを自分事とし、自社の経営資源の強みを活かして何ができるのかを考えて、取り組むべき方向性と課題を設定する。その方向性・課題を達成させるための手段として、イノベーションがあるという構図になります。

よって、リーダーのなすべきは、イノベーションの実験に腐心することや個別具体的な戦術を考えたり実行したりすることではなく、取り組むべき方向性・課題を明確にすることだと考えます。もちろん、リーダーがイノベーションを起こす過程や個別具体的な戦術に関与する場面も出てくるかもしれませんが、物事の順序・流れとしてはそのようになるべきだと考えます。また、具体的なやり方や過程は、メンバーに任せることもできます。

コロナ禍や地政学的なリスクの高まりによって食料・原材料資源の他国依存が改めて明らかになったり、他国に先駆けて少子高齢化社会を先行したりしている日本は、課題先進国だと言われます。逆の視点では、その社会課題の中から自社の課題を見出して、自社の課題を解決させるためのイノベーションを見出していけば、イノベーション大国になりやすい環境だとも言えるかもしれません。

日本とドイツのGDPが逆転するということが話題になっていますが、対ドイツという比較に限らず、世界のほうがイノベーションの動きが活発だったことがこの背景にあると言えそうです。

簡単ではないですが、自社のなすべき課題を明確にした上で、それを実現させるためのイノベーションを探索するための活動を活発にさせていくことが必要だと言えます。

<まとめ>
イノベーションは、経済的価値を生み出すために自社が取り組むべき課題達成の手段である。

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