イノベーションについて考える
10月31日の日経新聞で「イノベーションを生む土壌(上) 社会課題解決の先頭に立て」というタイトルの記事が掲載されました。イノベーションとは何かについて理解を整理する上で、示唆的な内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
上記から2つのことを考えました。ひとつは、イノベーションとは、社会に役立つ経済的価値を生み出すものを指すということです。
企業にとって、最も身近に存在する社会は、その企業の商品・サービスを買ってくれるお客さま=顧客だと言えます。経営学者のドラッカー氏は、企業の目的を「顧客の創造」と言いました。顧客をつくるとは、自社が提供する商品・サービスを受け入れてもらい、既存顧客の購買が継続し、新たな顧客もひきつけることと言えます。イノベーションは、このことを実現させるための手段だと捉えることができます。
普段いろいろな企業を見聞きすると、イノベーションが長い間起こってなさそうな組織を見かけることもしばしばです。一方で、やたらと新しいことに挑戦し、商品・サービスのチェンジや付随サービスの開発、社内活動の取り組みを始める組織もあります。
もちろん、試行錯誤の実験や失敗はイノベーションを生み出す上で不可欠ですが、お客様不在の状態でなされていることも多く見かけます。すなわち、そのイノベーションを必要とするお客さまはどんな人で、それによってどんな価値が得られるのかが想定されないまま、「何か新しいことをせねば」というイノベーション志向・試行だけ先行しているということです。同記事の示唆する「手段や過程の自己目的化」に通じます。
社内活動であれば、お客さまが社員となります。社員はどんな新たな価値が得られるのかの視点が忘れ去られたまま、他社から「こんなユニークな社内活動をしている」と聞いたことをそのまま自社で試そうとするのも、同記事のイノベーションの位置づけから外れていると言えるでしょう。改めて、イノベーションの前提として、「それによって、相手に対してどんな新たな付加価値が生み出せるのか」の問いが大切だと感じます。
もうひとつは、課題を定義するのがリーダーの仕事だということです。
もちろん、リーダーの仕事はこれだけではなく、多岐にわたります。そのうえで、突き詰めると、リーダーの仕事は大きく2つの方向性、何を目指してどこに行くべきかのゴールを設定することと、そこに向けてメンバーを導くことに集約されていきます。達成すべき課題の定義は、ゴールを設定しそこへの道筋を明らかにすることだと言えます。
社内外に存在する情報を吸い上げて、既存顧客、未来顧客の求めていることを自分事とし、自社の経営資源の強みを活かして何ができるのかを考えて、取り組むべき方向性と課題を設定する。その方向性・課題を達成させるための手段として、イノベーションがあるという構図になります。
よって、リーダーのなすべきは、イノベーションの実験に腐心することや個別具体的な戦術を考えたり実行したりすることではなく、取り組むべき方向性・課題を明確にすることだと考えます。もちろん、リーダーがイノベーションを起こす過程や個別具体的な戦術に関与する場面も出てくるかもしれませんが、物事の順序・流れとしてはそのようになるべきだと考えます。また、具体的なやり方や過程は、メンバーに任せることもできます。
コロナ禍や地政学的なリスクの高まりによって食料・原材料資源の他国依存が改めて明らかになったり、他国に先駆けて少子高齢化社会を先行したりしている日本は、課題先進国だと言われます。逆の視点では、その社会課題の中から自社の課題を見出して、自社の課題を解決させるためのイノベーションを見出していけば、イノベーション大国になりやすい環境だとも言えるかもしれません。
日本とドイツのGDPが逆転するということが話題になっていますが、対ドイツという比較に限らず、世界のほうがイノベーションの動きが活発だったことがこの背景にあると言えそうです。
簡単ではないですが、自社のなすべき課題を明確にした上で、それを実現させるためのイノベーションを探索するための活動を活発にさせていくことが必要だと言えます。
<まとめ>
イノベーションは、経済的価値を生み出すために自社が取り組むべき課題達成の手段である。
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