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物価手当をベースアップに組み込む

12月4日の日経新聞で、「ノジマ、ベア前倒し 今月一律2万円、物価高対応で」というタイトルの記事が掲載されました。家電量販大手のノジマがこの12月からベアを実施するという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

家電量販大手のノジマは従業員の基本給を底上げするベースアップ(ベア)を12月に実施する。賃金改定の時期を通常の4月から前倒しし、従業員一律に2万円引き上げる。ベア率は平均6%と見られ、足元の物価高に対応する。従業員の生活支援を急ぐ企業の取り組みが広がってきた。

部長級以上を除く約3千人(契約社員を含む)が対象となる。2023年1月支給の22年12月分の給与から一律で2万円引き上げる。

22年7月から「物価上昇応援手当」として月額1万円を上乗せ支給しており、同手当分を基本給に織り込んだうえで、さらに1万円上積みする。

同社の通常の賃金改定は4月実施で、21年と22年と2年連続でベアを実施していた。確認できる1989年以降では12月の賃金改定は初めてという。

前倒しで賃金を改定することで、物価高が続くなかで、従業員の生活支援を急ぎたい考え。

一律に基本給を2万円底上げし、賃金が相対的に低く物価上昇の影響を受けやすい若手従業員の士気向上につなげる狙いもある。

総務省によると賃金の実質水準を算出する指標となる物価(持ち家の家賃換算分を除く総合指数)の前年同月比上昇率は10月に4.4%に達している。賃上げで物価上昇に対応できていないなか、一時金や特別手当などの「インフレ手当」の支給で、従業員の実質的な賃金の目減りを防ぐ企業が増えている。

連合が、定期昇給2%、ベア3%で計5%程度の賃上げ要求を2023年春闘で掲げるとして話題になっていますが、その5%を上回る水準の賃上げを12月から行うというわけです。しかも、定期昇給分を除くベア分のみで6%ですので、ベア幅としては極めて高い水準だと言えるでしょう。

同記事の内容で感じたことは、大きく2つです。ひとつは、望ましいと考えることは早く取り組んだほうがよいということです。

賃上げは毎年決まった時期に行うのが通例です。同社の場合も、毎年4月に行われているようです。しかし、4月まで待たなければならないルールはありません。経営判断で行うことに決めた方針を早めに打ち出すことで、従業員に対するメッセージも高まりますし、労働市場での存在感も高まります。

もうひとつは、リスクを想定しての方針策定と実行の有効性です。

以前の投稿「物価高への対応と物価手当の効果」で、同社の例を取り上げました。そのときは、「毎月1万円の特別手当「物価上昇応援手当」を、7月15日支給の6月度分の給与から導入。2022年度内は継続して支給し、23年度以降についても続ける方向で検討。」でした。23年度以降は保留という扱いでの導入だったと言えます。

上記投稿で次のように考察していましたが、同社はまさにそのような流れでベアに組み込んだと言えそうです。ベアの確定までは難しい環境下の企業において、ひとつのやりかたのアイデアになると思います。

・自社で今ベースアップを行うのは、人件費総額増加が経営に与える影響を長期的に考えると懸念が大きい。そこで、一定期間という前提での、期間限定の手当にして状況を見守る。

・一定期間経過後、やはり継続的な賃上げが難しいと判断されれば、約束通り支給を終了する。あるいは、一定期間経過後も、経営戦略・計画と十分な収益性の見通しが立ち、継続的な賃上げが可能だと判断されれば、同手当を終了し相当分をそのままベースアップに変える。

同日付の日経新聞では、共働き世代の世帯年収が5年で月5万円増えていながら、税金・社会保障費で相殺され、可処分所得が増えていないことが紹介されています。これに物価上昇が加わってくると、賃上げなし、あるいは微額の賃上げでは生活力、消費力が落ちていくことが想像できます。

慎重な経営判断が必要ですが、そのうえで同社のような動きが増えてくれば、社会環境が変わっていくきっかけになると思います。

<まとめ>
期間限定で特別手当を支給し、環境が整ったら継続的な賃上げに変えるという方法もある。

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