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社外取締役向けの株式報酬制度を考える

7月10日の日経新聞で、「日立、社外取に株式報酬 基本額の3割 株主目線で経営監督」というタイトルの記事が掲載されました。社外取締役への報酬で株式を渡す形を活用し、より的確な役割発揮を期待しようとする動きについて取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

日立製作所は社外取締役向けの株式報酬制度を導入する。基本報酬の3割を同社の株式で支給する。社外取締役に株主の目線に合わせて経営の監督をしてもらう。海外株主比率が5割を超えるなか、グローバルな資本市場を意識した企業統治(ガバナンス)制度を整える。

一定期間の継続勤務などを条件に株式を受け取る権利を与える。報酬委員会で報酬額と支給株数を決定し、3年後に支給する。これまでは株式報酬は執行役など社内役員に限っていた。

日立は取締役12人のうち社外取締役が9人を占め、そのうち6人が外国に居住する。2024年3月期の社外取締役の報酬は平均で5000万円規模だった。25年3月期から基本報酬の3割程度を株式で支給し、長期視点で企業価値向上につながる助言を社外取締役から引き出す狙いだ。

24年3月末の海外株主比率は51.1%と、3月末として初めて5割を超えた。社外取締役で報酬委員長の山本高稔氏は「ステークホルダー(利害関係者)の目線に合った報酬制度を設計する」と語る。

海外企業では役員と従業員の給与格差が大きいと批判を受ける事例もあり、役員の成果を数値で示すことで社内外の関係者が納得できる報酬制度を整える。

同社はスイス重電大手ABBの送配電事業や米IT(情報技術)のグローバルロジックなど大型の海外M&A(合併・買収)を実施し、外国人の従業員比率は約6割となった。優秀な人材を獲得するために、グローバル基準の報酬体系を目指している。

企業統治助言会社のHRガバナンス・リーダーズ(東京・千代田)によると、社外取締役への株式報酬制度は富士通やソニーグループ、武田薬品工業などが導入している。HRガバナンスの内ケ崎茂社長は「株式報酬を推奨する機関投資家が増えている。今後、日本企業での事例が増えていく」と話す。

同記事の制度改定には、グローバル目線での経営に取り組んでいるという前提があると見受けられます。他国では社外取締役が株式で報酬を受けるのが一般的という背景がありそうですが、実情はどうなのでしょうか。

日本の人事部サイトで掲載されている記事「『日米欧CEOおよび社外取締役報酬比較』2023年調査結果」では、社外取締役の報酬について次のように紹介されています。(WTW(NASDAQ:WTW)による調査。日米英独仏の5カ国における売上高等1兆円以上企業のCEO報酬および社外取締役報酬について、2022年度にかかる2023年6月末までの開示情報から)

《CEO報酬に関する調査結果》(中央値ベース 合計は増減率)
国名/基本報酬/年次インセンティブ/長期インセンティブ
米国:167百万円(9%)/344百万円(20%)/1,249百万円(71%)/合計:17.6億円(-8.3%)
英国:178百万円(23%)/268百万円(35%)/330百万円(42%)/合計:7.8億円(+5.2%)
ドイツ:203百万円(27%)/281百万円(37%)/276百万円(36%)/合計:7.6億円(-16.1%)
フランス:173百万円(24%)/267百万円(36%)/296百万円(40%)/合計:7.4億円(+12.9%)
日本:89百万円(33%)/96百万円(35%)/86百万円(32%)/合計:2.7億円(+33.5%)

《社外取締役報酬に関する調査結果》(中央値ベース 合計は増減率)
国名/現金報酬/株式報酬
米国:1,640万円/2,430万円/合計:4,070万円(+3.3%)
英国:1,820万円/0円/合計:1,820万円(-2.3%))
ドイツ:2,380万円/0円/合計:2,380万円(+1.0%)
フランス:1,270万円/0円/合計:1,270万円(+4.2%)
日本:1,680万円/0円/合計:1,580万円(+6.3%)

《日米欧ROEの比較 (2021/2022/2023年度)》(中央値ベース)
米国:12.26%/19.30%/18.51%
英国:10.43%/11.48%/10.82%
ドイツ:6.41%/12.10%/10.49%
フランス:6.50%/11.28%/12.97%
日本:7.88%/9.81%/8.48%

ウイリス・タワーズワトソンによる2020年『日米欧社外取締役報酬比較』調査結果(こちらも基本的に、売上高等1兆円以上企業が対象)によると、各国の社外取締役報酬で株式報酬がある企業の割合が、次のようになっています。

米国: 99%
英国: 20%
ドイツ: 4%
フランス:0%
日本: 10%

これらの範囲内からは、(売上高が1兆円を超えるような大企業対象の参照情報という限定付きですが)傾向として次のように見てとれます。

・日本企業のCEOに対する報酬額は、年々上昇しているものの、他国と比べるとまだ少ない水準である。

・日本企業の社外取締役に対する報酬額は、他国水準に近く、CEOほどの差は見られない。

・ROEは米国企業が突出して高く、日本企業は低い。

・社外取締役に対して株式で報酬するやり方は、他国で一般的とまで言えないが、米国企業ではほぼ例外なく取り入れられている。

米国企業では、社外取締役についても受け取る報酬のうち結構な割合を株式が占めているようです。だからといってそのやり方に追随すればよいとは限らないと思いますが、高いROEをあげながら産業界をリードする米国企業がその方法を採用しているということは、一考に値しそうです。

報酬が成果に関係ない固定のみの形よりも、適切な成果に連動する変動部分を含むほうが、成果に貢献したくなるインセンティブがより働きやすくなるのは、自然な帰結です。株式報酬による社外取締役の一層の活用は、企業価値向上の実現に向けたひとつの施策になり得るのかもしれません。

<まとめ>
社外取締役向けの株式報酬制度の導入は、検討に値する。

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