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施策の効果の大きさを時間軸で考えてみる

2023年度与党税制改正大綱が決まりました。その中で、貯蓄から投資への流れを後押しする目的の少額投資非課税制度(NISA)を恒久化し、非課税期間も無期限にする方針が示されています。

NISAには、投資信託に限ったつみたて型と、国内外の上場株に広く投資できる一般型があります。それぞれ42年、23年までの時限措置だったのを、24年1月から恒久化するということです。非課税の保有期間もそれぞれ20年、5年から無期限になります。

年間投資枠は、つみたて型が新規買い付け額で今の3倍の120万円、一般型は2倍の240万円に増えます。生涯投資枠は買い付け残高で1800万円(評価益は含まない)となります。(以上、日経新聞参照)

この内容について、専門家からは「庶民レベルの資産形成ニーズから考えて満額回答」といった指摘があがるなど、評価と期待が高い内容とされています。

時限措置などへの懸念やルールの分かりにくさ、規模が限られていることからさほど魅力的でないなどと指摘されていた同制度が改善され、投資への一定の呼び水になること、利用者の資産形成に資することは確実だろうと想定されます。基本的に、好ましい動きだと考えます。

このことについて、2つの観点で考えてみます。ひとつは、実際に効果が実感できるまで時間がかかるのではないかということです。

今回の改正で、例えば20代の方がどのくらいの規模の額を新たに投資に振り向けるのでしょうか。適当な想定ですが、20代の人口は、同年齢で約100万人ほどです。

以前から日本社会の賃金の伸び悩み、税金や社会保険料の増加などによる実質手取り・可処分所得の減少が指摘されています。よって、月々積み立てられる金額がそれほど多額とは思えませんので、5,000円/月と仮定してみます。そうすると、20代の全人口(20~29歳)が新たに投資に振り向ける額は、年間で以下のようになります。

5000円×12か月×100万人×10=6,000億円/年

日本取引所グループのサイトを参照すると、「内国株式時価総額」(プライム、スタンダード、グロース、TOKYO PRO Marketの時価総額合計)は、2022年11月末で、742,652,987百万円となっています。

このうち、6,000億円は0.08%にしかなりません。

実際には20代の中でも既にNISA等を始めている人もいます。また、全人口が行うとも考えにくいです。これを機にNISA等で投資を始める人を多めに半数程度と見積もっても、3000億円/年となり、0.04%となります。

上記は20代だけの話です。実際には30代以上も制度の対象のため、当然ながらもっとインパクトは大きくなります。それでも、株式市場全体にただちに与える影響は限定的だと言えるのではないでしょうか。

株式市場の活性化だけが改正の目的でもないでしょう。これまで以上に積極的に、現預金という資産活用を促すことで利用者が豊かになり、再投資や消費を通して経済も豊かになることも目的のはずです。利用者が配当やNISA残高の増加を実感し、こういった恩恵を実感するまでには、投資開始から一定の年数が必要でしょう。そのように考えると、今回の改正は即効薬ではなく漢方薬というイメージが合っているのかもしれません。

2つ目は、50代以上の利用をいかに促すことができるかが、社会的な波及効果のポイントになるのではないかということです。

50代以上の世代は、若手に比べて資産形成に充てることができる現預金を多く持っています。その一方で、能動的に資産形成を行っていない人も多くいると見られます。

例えば、野村総合研究所のデータ「生活者1万人アンケート」によると、「投資はしていないが興味はある人」について、2021年に年齢階層別で次のような割合なっています。

25~29歳:約32%
30~39歳:約36%
40~49歳:約27%
50~59歳:約20%
60~69歳:約10%

「投資を行っている人の割合」では、どの年齢階層もあまり差はなく、約18%~23%の間に全年齢階層が収まっています。つまりは、「投資を行っていないが興味もない」という人の割合が、50代以上は他の年齢層よりも高いことが想定されます。

この階層が興味を持ち、手元の現預金をNISA等を通した投資に振り向けることで、本人の生活の質の向上、社会的な好影響の広がりのポテンシャルが大きいのではないかと思われます。人生100年時代と言われるこれからの時代で、より能動的な人生の後半を送る上でも、有益な視点だと考えます。

また、この階層が資産形成により興味を持てば、その子どもが成人したときに資産形成を促す教育効果も期待できます。学校教育等で資産運用の教育を行っていくことの必要性や方法論が叫ばれていますが、それも有益ながら、やはり両親から受ける影響が大きいはずです。親がその子どもに、資産形成の必要性や正しい知識に則った方法を教えることの効果は、大きいと思います。

施策の効果について、時間軸とターゲットの切り口で考える。仕事も含めあらゆる場面で共通する有益な観点だと思います。

いずれにしても、長期的に経済の活性化につながることを期待したいところです。

<まとめ>
施策の効果について、時間軸とターゲットの切り口で考えてみる。

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