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アルバイトスタッフの時給

先日、ある企業様でアルバイトスタッフの時給について話題になりました。勤続年数に合わせて時給を上げる必要があるか、上げる場合も何を根拠に上げるかが難しい、という話です。

この答えについて、当然ながら正解はありません。上げるも上げないも、自社の従業員に関する考え方・ポリシー次第になります。

会社が何に対して給与(報酬)を払うのかについて、下記の切り口で整理してみます。

1.仕事の結果(業績・成果)
2.仕事の過程(業務プロセス)
3.仕事の種類(担当業務内容)
4.期待する役割
5.能力・行動特性・資質(発揮できる持ちものの大きさ)
6.実費弁済(法的義務は負わないが企業の判断で支払い)
7.業務自体とは直接関連しない属人的な要素

正社員であれば基本給と呼ばれているものは、多くが3.4.5.のいずれか(あるいは複数)に該当します。最近言われている「ジョブ型」を突き詰めていくと、3.のみに対して支払うという判断にもなり得ます。

そして、給与を「3.仕事の種類を質と量で評価し、どれぐらいの難易度の仕事をどれだけ引き受けてくれるのかの対価としてのみ定義する」となれば、担当の業務内容が変わらない限り年次に応じて昇給させる必要がありません。対価は常に、外部で同じ業務内容に対してどういう値札が付いているのか、それと比べて自社はどういう値札をつけたいのかで決まっていきます。よって、昇給させることがあるとすれば、外部相場の値札が動き自社の値札も変えた時か、一定の%でインフレした時かになります。

その業務に見合った仕事をしていれば契約続行ですし、見合わないと判断されれば契約打ち切りもあるかもしれません。これが、多くの人がイメージするジョブ型の雇用のやり方でしょう。しかし、日本の雇用環境ではなかなかそうはいきません。よって、3.に加えて1.の要素を踏まえた評価結果に応じて賞与を支払うとか、今の担当業務に合わなければ別の担当業務にジョブを変えることで雇用契約を維持する、というやり方の企業が、少なくないでしょう。

4.は、3.をもう少し抽象化したものです。「初級管理職階層として1つの部署を取りまとめる役割を果たしてもらいたい」「中堅プレイヤーとして定型業務だけではなく非定型業務でも傑出した成果を上げてほしい」というような、緩やかな役割を定義し、どの役割を任せられそうかの期待値に応じた対価を支払うものです。多くの企業で、3.までは明確に定義しきれないために4.の運用にしている、そして、5.の要素も踏まえた給与設計にしている、というのが現状でしょう。

「年次に合わせた定期昇給」という概念が最も相性よいのは、5.の要素です。下記のような能力・行動特性・資質の高まりに伴う期待料の上乗せを、定期昇給という形で処遇に反映させるわけです。

・Aさんは今年1年間でより自社の顧客や商品知識について理解を深めた。だから、来期は今期よりさらに成果を上げる行動をしてくれるだろう
・Bさんのリーダーシップは日を追うごとに成長が見られる。来期はさらに主任職としてみんなを束ねる動きをしてくれるだろう。
・Cさんは今の仕事がだいぶん成熟した。これまでは自分の仕事をやりきるのに精いっぱいだったが、来期は自分のこと以外の、後輩指導にももっとエネルギーを注いでくれるだろう。

私たちがメディア等で賃上げに関連する情報を見る時、定期昇給という言葉が出てきます。そうした情報を見ると、定期昇給するのが当たり前のように感じるきらいがありますが、そもそも定期昇給自体必然性があるとは限りません。5.に対して対価を払うという考え方・ポリシーを採用している企業のみ、その値の変化の大きさに応じて昇給させるべきものということになります。1.3.4.の変化に応じて昇給は必要ですが、それは「定期」ではないでしょう。

冒頭の問いに戻ると、自社がアルバイトスタッフに対しても5.に対する対価を給与の一部とみなすなら、昇給もありだということになります。「昨日来たスタッフより1年いてくれたスタッフの方が、仕事にも慣れる分より機敏に動いてくれるだろう。それは時給アップという形で報いたい。そして、できれば長く勤めてほしい。」と考えるならば、時給アップが妥当だということです。

同社様の場合は、3.のみということでした。つまりは、アルバイトスタッフに担当してもらう仕事の種類は決まっている。それは何年勤めても変わるわけではない。そして、自社でアルバイトするのは自分の目標に向かうための生活費稼ぎとしてはよい。しかし、何年も居続けるような仕事ではないと思う。このようなイメージです。だとすると、人材マネジメント上、時給を上げる必要はないというのが解答でしょう。

同社様の前提に立った場合、各スタッフの時給アップをどう考えるかに時間を投入するのは、過剰な投資活動ということになります。Aさんは1年経ったから30円アップ、Bさんも1年経ったけど作業に慣れてないよね、Aさんと同じ30円アップじゃないだろうから10円だけかな、などの判断に悩むのはあまり意味をなしません。また、同じ仕事をやっているアルバイトスタッフ間で意図しない上下関係をつくってしまうきっかけにもなったりするでしょう。

続きは、次回以降考えてみたいと思います。

<まとめ>
能力・行動特性・資質などに対価を払わない前提なら、定期昇給という概念は合わない。


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