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賃上げを考える(2)

5月23日の日経新聞で、「賃上げ、4年ぶり高水準 22年本社調査 2.28%、好業績追い風」という記事が掲載されました。

同記事の一部を抜粋してみます。

日本経済新聞社がまとめた2022年の賃金動向調査で定期昇給とベースアップ(ベア)と合わせた平均賃上げ率は、前年比0.48ポイント増の2.28%となった。賃上げ率は4年ぶりの水準で、7割の企業がベアを実施した。新型コロナウイルス禍から回復した企業で最高益が相次ぎ、賃上げが広がった。ただウクライナ情勢もあり物価が上昇するなか、消費の底上げには力不足と言える。

調査は3月31日~4月19日に実施し、前年と比較できる311社で集計した。4年ぶりに前年を超え、前年比0.48ポイント増は32年ぶりの高い上げ幅となった。基本給を底上げするベア(ベア相当の賃金改善含む)を実施した企業は69.1%(前年調査は53.1%)。ベア額(2253円)、ベア率(0.72%)ともにデータを遡れる10年以降最高だった。

背景にあるのが企業の好業績だ。東証プライム上場企業1100社強の22年3月期の純利益は4期ぶりに最高益だった。稼ぐ力も高まり、21年末時点の直近四半期の総資産利益率(ROA)は4.9%と、コロナ禍前の水準に回復した。

25業種中22業種で賃上げ率が前年を上回った。人手不足のなか人材をつなぎ留める狙いもある。アンケートでは22年の春季労使交渉で「人手不足を考慮した」と24%が答えた。化学や自動車・部品などで多かった。

ベアが相次ぐ背景には足元の物価上昇基調がある。岸田文雄首相が21年11月、緩やかな物価上昇と経済成長率の引き上げを実現するため、好業績企業に3%超の賃上げを求めた。大和ハウス工業は米国での戸建て販売などで業績が拡大し、3年ぶりにベアを実施した。アンケートでは「政府の要望を考慮した」との回答が電機業界を中心に21.8%に達した。

4月の消費者物価指数(生鮮食品除く)の前年同月比上昇率は7年1カ月ぶりに2%を超えた。物価は高止まりを続けそうだが、賃上げ水準は物足りなさもある。第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは「物価高が家計に与える影響は大きく、今回の賃上げで消費が増えることは望みにくい」と話す。

企業の手元資金は過去最高水準に達するが、付加価値が働く人にどれだけ分配されたかを示す労働分配率は21年10~12月期は00年以降で最も低い水準だ。経済協力開発機構(OECD)によると年間平均賃金は35カ国中22位にとどまる。ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長は「労働分配率は低水準にあるが、好業績が続くなか企業の賃上げ余力はなお高い」と指摘する。

先日の投稿「賃上げを考える」では、個人の月例給与が上がる主な要因として以下の4つを考えました。そして、4.について、以前では見られなかった物価上昇を反映した賃上げも見られるようになったことを取り上げました。

1.各人の将来の業績貢献に対する期待値の大きさが変わる
2.所属組織の業容・ビジネスモデル・収益性等が発展する
3.他社(主に同業の競合)で賃上げの動きがある
4.社会全体の物価が上がる

上記記事の動きは、1.は分かりませんが、2.~4.についてのすべてが反映された結果であると言えそうです。

近年の賃上げ率の推移は、厚労省による民間主要企業春季賃上げ集計で次の通りとなっています。「妥結額(定期昇給込みの賃上げ額)などを把握できた、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業343社」が集計対象のため、中小企業などは含まれていません。ですので、全企業の動きとは言えませんが、概要は表していると言えるでしょう。また、冒頭の記事の311社とは属性が近いと思われるため、冒頭記事と照らし合わせながらの賃上げ率の推移としては参照できそうです。

2021年1.86%(平均妥結額5,854円)
2020年2.00%
2019年2.18%
2018年2.26%
2017年2.11%

この間の物価の動きは、総務省による消費者物価指数(総合)の対前年比で次の通りとなっています。これらを比較すると、近年の賃上げ率は高くないながらも、消費者物価の上昇率を1%~2%程度上回っていたことがわかります。つまりは、実質的な所得額が、全体としてはわずかながらでもプラスだったと想定できるかもしれないわけです。

2021年-0.2
2020年0.0
2019年0.5
2018年1.0
2017年0.5

これに対して、2022年4月(月単位)の消費者物価指数(総合)は、前年同月比で2.5%上がっています。今後この流れが続くとなると、冒頭の2.28%賃上げしたとしても、物価の上昇分で打ち消されて実質的な所得額がマイナスということになります。

さらに、ステルス(隠れている)増税とも言われる、社会保険料の増額もあります。「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」にかかる社会保険料が年々上がり続けているため、手取りとしての実践的な所得額はさらに目減りするということになります。

このように考えると、今年の賃上げ率はかなり頑張って近年では一番の上昇ながら、実質所得が明らかにマイナスになるであろう結果という点で、昨年までと種類の異なる環境にあると言うことができそうです。

そうは言うものの、ポジティブに捉えるならば、物価上昇分に近しい程度の賃金上昇はしている、そして上記記事の通り企業によってはさらに賃上げ余力はある、と見ることができるのかもしれません(あくまで、日本全体を平らにしてみた場合、ですが)。

続きは、次回以降考えてみます。

<まとめ>
今年の賃金上昇は物価上昇で打ち消されている一方、さらなる賃上げに取り組もうとしている企業もある。


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