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早期離職を考える

早期離職白書2022(株式会社カイラボ)という書籍を読みました。

新卒で就職した人のうち中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割が3年以内に離職する「七五三現象」は、(年によって若干の変動はあるものの)何十年も前から見られる事象です。離職は必ずしも悪いことではありませんが、労使双方にとって避けられる・望まない離職なら避けたほうがよいことです。

調査対象者は全離職者の一部ではありますが、詳細なヒアリングからも考察された同書の内容は示唆的で、早期離職というテーマにどう向き合うべきかのヒントが得られそうです。

同書では、離職者に対する退職企業に関するアンケートで、「総合的にみて満足していた」の設問に「不満」「どちらかといえば不満」と回答したものをネガティブ離職、それ以外をポジティブ離職と定義しています。同書の調査対象者の中での割合としては、ネガティブ離職が52.4%、ポジティブ離職が47.6%となっています。

ネガティブ離職については、在職していた企業で「不満」と感じた要素が軽減もしくは解消されれば、勤続していた可能性があると推察されます。ポジティブ離職については、(在職企業へのイメージは悪くないわけですので、それに加えて)本人が職場でこだわりたい何かが将来的に満たされる可能性がある、と感じる何かの一押しがあれば、(ネガティブ離職ほどではないかもしれませんが)在職につながった可能性があります。そのように考えると、離職率を下げる余地はまだまだあるのではないかと考えられます。

「新卒は、いつの時代も3割以上が3年以内に離職するものだから、それを普通のことだと考える」という捉え方も、事実ベースで間違ってはいないでしょう。そのうえで、離職率1桁%を実現し、入社した人材が活躍している企業もあります。ですので、やはり「3年で3割離職」を所与のものとするのではなく、より少なくするためにできることを考えて取り組むべきだと思います。

同書で興味深い示唆は、退職の「きっかけ」と「決め手」は違う、という指摘です。

「仕事のやりがい」「人間関係」「会社の将来性」など、何が離職のきっかけや決め手になるのかは人それぞれです。その中で、退職を考えるようになった「きっかけ」と、退職を決断した「決め手」が同じ人は、調査対象者中の三分の一だったとあります。逆に言うと、三分の二は、「きっかけ」と「決め手」が違うということになります。

このことから、何を考えることができそうでしょうか。私なりにここでは、3点挙げてみたいと思います。ひとつは、基本的な職場環境要素の欠如が「決め手」にならないよう、きちんとした環境づくりをするということです。

同書の早期離職者に対するインタビューファイルでも、「社内で大きなセクハラ事件が発生したのが辞めたい気持ちを後押しした」という事例があります。本人のキャリア志向で譲れないものと社内でできることがどうしても一致しなくなったなど、本人の内面によるものが離職の決め手であれば、離職は避けられないかもしれません。

しかし、非常識なハラスメントがない、お互いに尊重し合える人間関係の中で働ける、残業代がきちんと支給されているなど、職場として成立する上での基本的な要素は、離職の決め手にならないよう組織として改善することができます。

「働きがい」は各人の個性に委ねられる部分も大きいですが、「働きやすさ」は本人以外に委ねられる部分が大きいわけです。

2つ目は、上長や先輩が、新人のキャリアについて一緒に考えてあげることの意義です。同書では次のように説明しています。

バックキャスティングとフォアキャスティングという考え方がります。キャリアについては大切な考え方です。バックキャスティングとは自分の未来のありたい姿や到達点から逆算して、今何をすべきか、近い未来にすべきことを考えることです。フォアキャスティングとは今の関心や、自分のあり方、強みを起点として自分の未来を予測して考えることです。

将来の夢や目標がないと思っている部下に対しては、上司はフォアキャスティングの考え方でサポートを始めるのがよいのではないでしょうか。

企業の人事部の方とお話をすると、最近の若い人はWILLがない人が多い、と言うのをよく聞きます。WILLがない人に未来の姿や夢を語らせても答えられるはずがありません。今やっている仕事にどんなやりがいがあるのか、その人がどんなことに興味があるのかを上司や周りの人がもっとよく聞いてあげるべきです。キャリアや志向はその都度変化しますので、1on1(上司・部下の1対1ミーティング)など定期的に部下の考えを知っておくというのもいいかもしれません。

1on1をする上で重要なことは、まずは、上司が部下に興味を持つことです。部下の興味のあることに興味を持つということです。そして共感し最後まで話を聞いてあげてください。WILLがない部下であれば、一緒にWILLを見つけてあげる手伝いをしてください。

キャリアでは、その人にとっての「WILL(したいこと)・CAN(できること)・MUST(すべきこと)」の3つの輪の合致が大切だという考え方があります。しかし、WILLが不明確な人に対してWILLを話せと言っても困惑するというわけです。

以前の投稿では、「成功するのに目標はいらない! (平本相武氏著)」という書籍をもとに、「ビジョン型」と「価値観型」について取り上げました。

ある人は将来の「ありたい姿」(行き先)を想像することが、別のある人は「自分らしさ」というこだわり(理由)を満たすことが、その人にとっての自分軸になり得るという考え方です。そして、ありたい姿を追う人を「ビジョン型」、自分らしさを満たすことを求める人を「価値観型」と、ざっくり2つに分類しています。

ビジョン型は、「○○にたどり着きたい」と思った方がやる気が出る人です。しかし、ビジョン型にとっては目標が自分軸になり得るものの、価値観型にとってはそうなるのが難しいというわけです。価値観型は、「自分自身にとって大事なことで1日1日を過ごしたい」と思った方がやる気が出る人です。「未来に向けた目標」を考えるより、「今ここで大事にしたいこと」をWILLの起点にしたほうがやりやすいというわけです。

例えば私の場合は完全に価値観型に振り切れている自覚があります。自分の具体的な将来目標などを設定するのは苦手です。以前の職場で上司との面談で、「5年後具体的にどこで何をやっていたいか」話すように言われて、何も出てこず困惑した覚えがあります。

ポジティブ離職の場合は、「いい会社だと思うが、自分のやりたいことがこの会社ではかないそうにない」「やりたいことは特にないが漠然とこの会社に居るべきではない」などと思い、やめていく人もいると同書では説明されています。普段から若手人材の話の聴き方を工夫することで、そのような思いが建設的な方向に変わっていくのであれば、望ましいことだと思います。

つまりは、なんとなく今の仕事を続けることに疑問を感じ始めたという「きっかけ」が、そのまま最終的な「決め手」となってしまわない状態を目指す、ということだとも言えます。

続きは、次回以降取り上げてみます。

<まとめ>
離職の「決め手」になりそうな要素を、可能な限り改善する。

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