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自律型人材を考える

先日、ある企業様で「自律型人材」について話題になりました。「自律型人材」と聞くと、少なくとも「他律型人材」よりは望ましいイメージがわきます。それでは、この「自律型人材」とはどういう意味合いで、人材を自律型にするにはどんなことに取り組むとよいのでしょうか。

「デジタル大辞泉(小学館)」を参照すると、「自立」と「自律」について次のように説明されています。このことも踏まえると、「自律型」とは、他者による介入なしに自ら行動できているということに加えて、何をしたいのか・すべきなのかを自らが考えて行動できる人のことを指すと言えそうです。

<自立>
1 他への従属から離れて独り立ちすること。他からの支配や助力を受けずに、存在すること。
2 支えるものがなく、そのものだけで立っていること。
<自律>
1 他からの支配・制約などを受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動すること。
2 カントの道徳哲学で、感性の自然的欲望などに拘束されず、自らの意志によって普遍的道徳法則を立て、これに従うこと。

先日の投稿では、「自主的」と「主体的」について考えました。「自律型人材」の公的な定義は特にありませんが、「自律型」は、(「自主的」ではなく)「主体的」に近い概念だと捉えるとよさそうです。

改めて、次の通りに整理してみます。非自律型である「自立」や「自主的」は、次の1.は当てはまるものの2.3.は当てはまらない、「自律型」はすべて当てはまるということです。「自立」もしておらず「自主的」とも言えない状態なら、1.にも至っておらず、上司や他者からの指示がなければ動かない・動けないという状態です。

1.やるべきことを理解し、上司や他者からの指示がなくても自ら行動できる
2.やるべきことの目的や意味を自ら考え、やるべきことに対して改善ができたり、必要に応じてやるべきこと自体を見直したりできる
3.やるべきこと・やりたいことが何かを自ら考え、行動できる
4.やるべきこと・やりたいことが何かを自ら考えたり、やるべきことを見直したりするための判断基準となる行動規範を、自分の中に持てている

次に、自律型人材が今後ますます必要となる背景について、現場の人材、お客さま、の2つの視点から、改めて考えてみたいと思います。

現場の人材について、雇用や活動の前提となる環境の変化が挙げられます。主な要素を整理してみました。

<かつての環境>
・労働力人口の増加
・終身雇用・年功序列の意識
・転職市場の未整備
・長時間労働の社会的合意
・着実な人材成長への期待
・効率性を高めるための機械の導入

<今・これからの環境>
・労働力人口の減少
・終身雇用・年功序列の概念希薄化
・転職市場の発達・一般化
・長時間労働の社会的反対
・即戦力となる人材育成への期待
・新たな付加価値創出のための機械の導入

かつては、会社(組織)の力が強い環境でした。従業員が希望する限り定年までの雇用を保障し、かわりに労働時間・勤務地・職務内容を無限定に指示命令でき、経営戦略を実行できたわけです。同質性の高い人材の大量供給を想定し、特定の人材モデルに沿って長期間かけて安定的に育成するという人材マネジメントがうまくいった環境も多かったと想像されます。

今・これからは、従業員(個人)の力が強い環境です。定年までの雇用を期待する従業員は、以前ほどには多くいません。転職等も一般的となったため、従業員主導でキャリアチェンジが可能になりました。そもそも、企業の平均寿命と人間の平均寿命が逆転したため、従業員の側が望んでも生涯雇用されるとも限りません。自身が有益な人材として活躍し続けられるための能力を早く身につけていきたいと考えています。

また、企業側も人材難で採用コストもかさむため、入社した人材には早く戦力となって投資分を還元してほしいという状況にあります。こうした、現場人材を取り巻く個人の側、企業の側双方の立場から、一人ひとりが自律型人材となることによる人的資源活性化を通して、生産性を高めていくことが不可欠だと言えるでしょう。

次に、お客さまを取り巻く環境です。かつては、大量生産大量消費、一物一価で成り立っていた市場が、そうではなくなってきています。お客さまのニーズは多様化・細分化されてきました。売り手はそれに対応することが求められます。ダイナミックプライシングにも見られるように、同じ商品・サービスであってもTPOに応じて価格が可変的であるということにも耐性ができてきました。

また、従来は売り手側=情報の発信者、買い手側=情報の受信者というシンプルな関係性だったのが、買い手側がSNS等を使って当該商品・サービスに関する情報を発信するようになりました。売り手側が、買い手側を傾聴する必要が出てきたということです。これは、従来のトップダウン型の商品・サービス戦略の意思決定・伝達を待つだけでは、間に合わないという環境にあると言えます。組織の上位者がすべての情報に気づいて指示はできないし、できたとしても時間がかかりすぎてお客さまの変化に対応できないからです。

お客さまの多様なニーズをくみ取り、市場やお客さまの変化を敏感に察知し、影響範囲の小さな問題・課題であれば現場で即断即決すること、影響範囲の大きな問題・課題であれば、単に上位者に報連相するだけでなく具体的な提案と意思決定を求める上申をすることが求められると言えます。

各従業員が仕事に対するオーナーシップをもった問題発見・解決者であることが、求められるというわけです。これは、自律型人材に他なりません。

続きは、次回以降考えてみます。

<まとめ>
従業員自身の側、企業の側双方の状況から、自律型人材であることがますます必要となっている。

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