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多様性ある組織で成果につなげる(2)

前回は、多様性の科学(マシュー・サイド氏著)」という書籍も手がかりにしながら、多様性の確保で組織の成果につなげていくことをテーマにしました。

同書では、多様性について大きく2つのカテゴリーに分けて説明しています。

人口統計学的多様性:性別、人種、年齢、階級、信仰などの違い
認知的多様性:ものの見方や考え方の違い

同書の例示から一部抜粋してみます。「ただ物を見る」という単純な行動でさえ、人口統計学的な要素の違いによって「見える世界の違い」「物事のとらえ方の違い」に至るということがわかります。

2001年、ミシガン大学の社会心理学者、リチャード・E・ニスベッドと増田貴彦の両氏は、2つのグループ(一方はみな日本人、他方はアメリカ人)に水中の様子を描いたアニメーションを見せ、そのあと各被験者に何が見えたかと質問した。

するとアメリカ人は魚について語った。彼らは魚に関して細部まで詳細に覚えている様子だった。「大きな魚が3匹左に向かって泳いでいました。お腹が白くてピンクの斑点がありました」。

一方、日本人は背景について語った。「川のような流れがあって、水は緑色でした。そこには石や貝や水草が見えました。ああ、そう言えば魚が3匹、左のほうへ泳いでいきました」

2つのグループはまるで別々のアニメーションを見ていたかのようだ。これにはそれぞれの文化の違いが影響している。アメリカは個人社会の傾向が強く、日本はより相互依存的だ。アメリカ人は手前や中心にある「もの」に重点を置き、日本人は「背景」に着目する傾向が見られた。

同実験の次の段階では、被験者は別の場所の水中の様子を見る。そこには前回と同じものもあれば、違うものもある。しかし日本人はそれを識別できない割合が高かった。それよりも背景が変わったことのほうに意識が向いていた。逆にアメリカ人は、背景が変わったことに気づかない割合が高かった。

どんな魚であるかに関心が集中する人だけの組織と、水の色や流れに関心が集中する人だけの組織と、両方のタイプが相応に存在する組織とで、いずれの組織が長期的に質の高い意見交換・意思決定ができそうでしょうか。答えは明白だと思います。

人口統計学的多様性が自ずと認知的多様性をも成立させている場合もあれば、人口統計学的多様性とは別で認知的多様性が実現される場合もあるでしょう。例えば、新卒で同じ会社に入って同じ職種で勤続している日本人同士でも、ものの見方や考え方がまったく異なる人もいます。個人特性診断などで出てくる性格的な傾向や強みの違いなどが、まさに認知的多様性に当てはまりそうです。

そして、立場による違いも、認知的多様性を生み出しそうです。同書では一例として、「ウェディングリスト パラドックス」がいい例だと紹介しています。結婚式を行うカップルが招待客に向けて準備する贈り物と、招待客が欲しいと思う贈り物には、ズレがあるという事象です。

贈る側は、自分が独自に選んだ、気持ちのこもったプレゼントのほうが喜ばれるに違いないと考えるのに対し、受け取る側は、自分が欲しいものリストで指定した品物のほうをはるかに好むという結果が出ていると紹介しています。この背景には、結婚式の主役&贈る側という立場からプレゼントというテーマに向き合う人と、受け取る側という立場の人との間で、ものの見方や考え方の違いが発生していると言えそうです。

同書は次のように説明します。(一部抜粋)

認知的多様性は、数百年前まではそれほど重要視されていなかった。当時の人々が抱えていた問題は、今と比べれば単純か、直線的(たとえば答えや解決方法が1つに決まっていた)か、小さく分解可能か、あるいはこの3つすべてが当てはまるものだったからだ。

たとえば月の軌道は計算で正確に予測できる。それができる物理学者は、チームに違う意見を聞いて助けてもらう必要はない。自分自身で正解を弾き出せる。異なる意見は間違いであり、余計なものでしかない。

しかし、計算では解決できない難題になると話が違う。その場合は同じ考え方の人々の集団より、多様な視点を持つ集団のほうが大いに―大抵は圧倒的に―有利だ。

これまで挙げてきたことも手がかりにしながら、次のように整理してみます。

・多様性のあるメンバーで組織をつくることは、成果や付加価値の向上につながる。人口統計学的多様性を一定枠で確保することは、組織の多様性実現のために一定の効果が見込める。このことは、認知的多様性についても同様である。

多様性を確保したいと考えているチームが、人口統計学的多様性や認知的多様性の面で画一的なメンバー構成になっていないかは、留意しておいたほうがよい。

・多様性の有効度合いは、組織の発展段階や置かれた状況にもよる。適当な例だが、単一事業に特化した創業直後のベンチャー企業の場合、状況によっては多様性による侃々諤々(かんかんがくがく)な検討は生産性やスピード感を低下させ逆効果になるかもしれない。上記で例える、似たようなスーパー物理学者を数人集めることのほうが、最大の成果創出に有利なのかもしれない。

一方で、一定の歴史ができ安定的な拡張段階を目指すフェーズに入っている組織は、メンバーの多様性が大いに有効である可能性が指摘できる。前回例に挙げた管理職に占める外国人比率8割の目標設定などは、それにあたる。

・属性が多様ならそれでいいかというと、もちろん違う。組織の理念やビジョンへの共鳴、必要となるスキルなどを保有したうえでの、メンバー選定であるべきだ。

そのうえで、メンバー構成において組織が必要とみなした属性の比率を満たそうとすると、同じ能力の場合に特定の属性の持ち主が選ばれやすくなるなどの事象が発生する可能性がある。このことについてどう対応するのを組織の方針とするのかを、整理しておく必要がある。

・自組織でメンバーの多様性をもたせることがなぜ重要なのか、そのことによる自組織の効果としてどのようなことを想定しているのかについて、明確に語れる必要がある。

以上、組織活動を考えるうえでの参考になれば幸いです。

<まとめ>
人口統計学的多様性、認知的多様性が実現すれば、見える物事の種類が広がる。

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