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「特定技能」に見る外国人人材受け入れ施策を考える

4月25日の日経新聞で「「特定技能」長期就労が全分野で可能に 熟練外国人、6月にも 食品製造や外食など」というタイトルの記事が掲載されました。限定的な期間の滞在となっている特定技能による就労・滞在を長期間で認めようとする動きです。

同記事の一部を抜粋してみます。

人手不足対策として2019年に創設した在留資格「特定技能」について、長期就労が可能な業種を6月にも現在の3分野から全12分野に拡大する方向で関係省庁が調整に入った。実現すれば期間限定の受け入れだった飲食料品製造や外食などの分野で、技能を磨いた外国人労働者を企業が継続雇用できるようになる。

政府・与党が検討して6月の閣議決定を目指す。省令改正などを進め、資格取得などの運用開始は24年5月ごろになる見通しだ。少子化で外国人労働者が不可欠となっており、受け入れ政策を見直す。

外国人材の受け入れには主に2通りある。高い専門性や技術力を持つエンジニアなどの高度人材と、製造業や農業、建設業などの現場で働く技能実習や特定技能だ。

技能実習は廃止し、人材の確保・育成が目的の新たな制度を創設する方向となっている。実習後に特定技能に移行する人は多く、両制度の改定が進めば非熟練の外国人材がスキルを向上させながら長期就労できる環境整備が進む。

背景には人手不足の深刻化がある。国際協力機構(JICA)などは政府が目指す経済成長を40年に達成するには、外国人労働者は現在の4倍近い674万人必要と推計する。各国で少子化が進み、労働力の獲得で競争激化が見込まれる。

この時期に見直すのは、特定技能の創設当初から働く人が24年5月以降に在留期限を迎え始めるためだ。現状では多くが帰国を迫られる。引き続き日本で働ける道を用意するかを早急に示す必要があった。

具体的には特定技能「2号」の対象分野を拡大するよう調整する。技能などの試験に合格するか技能実習修了が条件の「1号」は最長5年だが、2号は資格更新回数に上限がなく配偶者や子どもも日本で暮らせる。これまで対象は建設など2分野のみだった。残る10分野のうち、別の資格で長期就労できる介護を除く9分野での追加を関係省庁が求めている。

2号の取得では建設などと同様、高度な技能を持つ熟練者に限る方針だ。2号取得者は10年以上滞在し、安定した生活を営む資産があるといった要件を満たせば永住権取得も可能になる。

特定技能は2月末時点で約14万6千人。外国人労働者(22年10月時点で約182万人)の約8%に当たる。国籍別ではベトナムが約6割を占め、インドネシア、フィリピンが1割超で続く。入国制限緩和で拡大している。

賃金が上がらない日本で働くメリットは薄れてきたとの見方もある。台湾では非熟練者でも最長12年間(介護などは14年間)働ける。韓国は所得や語学力などが一定水準に達した外国人に永住権を与える。日本もさらに呼び込む手立てが必要となる。

数年間滞在し、日本の事情や職務能力に精通してきた人材が無条件に帰国しなければならないのは、日本にとっても本人にとってもたいへんな機会損失だと言えます。具体的なルール改正については各論でいろいろな課題が出てくるのだと想像しますが、基本的には前向きな動きだと考えます。

同記事に関連し、2点考えてみました。ひとつは、現在の受け入れペースでは、今後日本で必要とされる人材・雇用をカバーする一助としても到底足りない、ということです。

特定技能の約146,000人のうち、2分野の1号に該当するのは、建設14,554人と造船・船用工業5,291人ですが、そのうち長期就労可の2号が取得できているのは建設10人のみです。

関連記事によると、建設では2号の取得で技能検定1級レベル(日本人を含めても1級の合格率は3割)を要件としているなど、取得の基準が容易でない現状があります。仮に同程度の基準で全分野に広がったとしても、どれぐらい新たな2号取得者の実数が増えるのかは、見通せません。

だからと言って基準を下げればよいという単純なものでもないと思いますが、例えば2号取得の育成サポートなど、別の施策も合わせて行っていくべきではないかと考えます。

もうひとつは、受け入れ側の意識を変える必要性です。

普段中小企業の経営者や経営幹部と話をしていると、いまだに「外国人を安く使う」「日本人が寄り付かない条件の環境・業務でも、外国人なら雇用できるのではないか」というようなことを聞くことがあります。これらは、外国人人材の能力的な面、金銭的な面のいずれも誤認していると言えます。

4月23日の日経新聞記事「大学の退場ルール整えよ 医学部凍結、患者に不利益」によると、2017年に開学した新興勢力の国際医療福祉大学で1期生の国家試験合格率は99.2%だったという紹介がありました。受験者全員が合格した順天堂大に次いで全国2位の合格率です。

さらに、合格者124人のうち、15人がベトナム、カンボジアなどアジアからの留学生だったとあります。入学時日本語がままならず、1、2年次に420時間の必修日本語が課されて「私が入ったのは医学部なのか?日本語学学校なのか?」という状態から始まったと紹介されています。そこからの国家資格合格です。人材のポテンシャルは国籍関係ないということです。

そもそも、日本人で見向きもされない条件の求人は、外国人も見向きしたくないものです。この原理原則を認識する必要があります。

それでも大昔のように、日本経済や日本円と渡日者出身国の経済や通貨に圧倒的な差があれば、日本人が寄り付かない求人でも外国人雇用が可能かもしれません。しかし、そのような力差はないのは、周知のとおりです。

「事実上の移民受け入れにつながりかねない」という慎重論もあるとされますが、だとすると、移民にまったく頼らずに人手不足対策、経済を支える人材の確保をどのようにするのかを具体的に考えなければなりません。

「女性活躍」「Z世代を理解する」など多様性受け入れの推進が叫ばれていますが、多様性の観点では外国人人材受け入れも同じ領域のテーマだと思います。

今後、少子化が進む韓国や中国が、より本格的に人材獲得施策に乗り出してくることが想像されます。その段階で、日本の受け入れ環境整備が進んでいないようだと、上記留学生のような有力な人材は日本に見向きもしなくなるはずです。

現在の受け入れペースではまったく不十分だということ、受け入れ側の意識を変える必要性があるということを、認識すべきだと考えます。

<まとめ>
外国人人材受け入れ環境の整備に、あまり時間的猶予はない。

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