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働きがいのマイナス要因とならない賃金設計

4月13日の日経新聞の第1面で、「高齢者の「働き損」解消策、年金減額の緩和議論 保険料納付、45年に延長案」と「教員「残業代」2.5倍以上に 中教審案、人材不足で50年ぶり増」というタイトルの、2つの記事が並んで掲載されていました。働いたのに賃金としては報われない「働き損」について取り上げた内容です。

「高齢者の~」の記事から一部抜粋してみます。

5年に1度の公的年金制度の改革に向けた検討が始まった。働く高齢者の年金額が減らないように「在職老齢年金」の見直しを議論する。基礎年金の受給額を増やすために保険料を納める期間を延長する案もある。

今は一定の給与収入がある高齢者の厚生年金を減額する在職老齢年金という仕組みがある。賃金と厚生年金額の合計が月50万円を超えると年金額が減らされてしまう。21年度末の対象者は65歳以上で49万人で、働く受給権者の17%にあたる。

このため、働き損にならないよう就業調整する高齢者がいる。年金を受け取る高齢者からも人手不足に悩む企業からも制度の見直しを求める声があがっていた。減らされた年金の合計額は65歳以上で年4500億円ほどあり、制度の縮小・廃止には追加の財源を検討する必要がある。

「教員~」の記事からも一部抜粋してみます。

公立学校教員の残業代の代わりに基本給の4%を上乗せする「教職調整額」について、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)が現状の2.5倍以上となる基本給10%以上とする案を出す方向であることが12日、分かった。

増額すれば約50年ぶりとなる。教員は長時間労働が敬遠され、民間企業に学生が流れる傾向が続き、担い手不足が深刻だ。中教審は優秀な人材を呼び込むには、調整額を引き上げて一律で給与を上げることが必要だと判断したとみられる。

義務教育段階の教職員の給与は国が3分の1、自治体が地方交付税などを活用して残り3分の2を負担する。調整額を10%とした場合の負担は約2100億円となり、財源の確保が課題となる。

教員は教材研究や生徒対応など仕事内容が特殊だという理由で、時間外勤務手当(残業代)が支給されず、代わりに給特法が基本給の4%を教職調整額として支給すると定める。

賃金という報酬の性質については、これまでもテーマにしたことがありますが、切り口を2つ例示すると「動機づけ要因」ではなく「衛生要因」「内発的動機づけ」ではなく「外発的動機づけ」に位置付けられる要素に当たります。

つまりは、賃金それ自体は、永続的に働きがいを生むものではないということです。基本的に、働きがいというプラスはつくらない。もしつくれたとしても一時的な起爆剤のようなものです。

「ボーナスがたくさん出た、月給が増えた、だからうれしい」はあるものの、数年たっても「以前ボーナスをたくさんもらったから今年も頑張ろう」とその効果が続くわけではないということです。起爆剤の効果を持続させようとすると、ボーナスや月給を常に上げ続けなければならなくなるため、企業側が財務的にもたなくなります。むしろ、必要な視点としては「賃金面で、働きがいのマイナスをつくらない」ようにすることです。

よい仲間とよい仕事に取り組めている。そう実感できていて、働きがいを感じられる環境だとしても、賃金で不満を感じてしまうと、不満によってその働きがいが削られていくイメージとなります。その不満が大きくなり、不満>働きがいに至ると働きがいのプラスを打ち消してマイナスになり、別の仕事や職場を探すことにつながってしまいます。

周囲でお会いする学校の教職員とお話することもありますが、多くの教職員は使命感をもって仕事に時間とエネルギーを最大限注いでいると感じます。一方で、同記事にあるように、基本給の4%分の残業代しか支給されません。

仮に基本給が30万円の教職員がいるとして、1万2千円で無制限に残業することになります。これでは納得感があるとはいえません。同記事の通り10%に制度改定した場合でも3万円です。これでも少ないかもしれません。

公立の小中学校では、夕方以降も部活動や事務作業の対応をしていることに加え、昼の時間帯も給食を生徒と共にすることになっていて、事実上昼休憩がほとんどないという環境のところも多いと思います。

いくら教職に使命感と働きがいを感じていたとしても、「他の企業などであれば、相当する残業代をもっともらってるんだよね」という考えがちらつくと、そういった衛生要因の欠如が使命感や働きがいを削っていくことになります。

高齢者の在職老齢年金の制度も同じことが言えます。65歳以上の働く高齢者で賃金と厚生年金の合計額が月50万円を超えた場合、超えた分の半額を厚生年金額から減らす仕組みとなっています。

シニア世代となって以降も、自身にできる仕事を通して社会貢献したいと考える人は相応に存在すると想定されます。しかしながら、「働いても半分も持っていかれるんなら、頑張ろうという気にならない」と衛生要因の欠如要因になってしまうでしょう。

日本では所得税の累進課税制度があり、多くの収入を得る人には税率を上げていく仕組みがありますが、それと比較しても在職老齢年金による減額制度は、減額率が高いものだと言えます。同記事の言うとおり、現状でよいのか検討の余地がありそうです。

労働力人口が減っていく中で、さらに労働参加率を高める余地がある人材に対しては高まるようにする、一人ひとりの生産性がより高まるようにする、政策いかんでできることは取りくむべきだと言えます。それによって新たな予算も必要になるわけで、予算の規模にもよりますが、労働参加率と労働生産性の向上、それによる付加価値の向上で十分ペイできるのではないでしょうか。

このことは、いち企業単位で当てはめて考えても同様です。

・自社の賃金ルールが、働きがいを削ってしまうような不公平感を誘発する内容になっていないか

・外部の労働市場の相場と比べて、自社の賃金ルールがあまりに不十分ということはないか。それ以前に、法令を外したような内容になっていないか

・内部の人材同士を見渡した時に、不公平感につながるような処遇になっていないか。例えば積極的にお客様・会社に貢献した人とそうでない人とで処遇差がない、あるいはあっても納得感がない程度の差でしかないと感じてしまうなど

振り返ってみたい視点だと思います。

<まとめ>
賃金面の制度内容で、働きがいのマイナス要因をつくらないようにする。

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