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不正の要因(3)

前回の投稿では、「不正のトライアングル」(「不正を犯す動機・プレッシャーの存在」「不正を犯す機会の認識」「不正を正当化する理由」の3つの要素が同時に成立するときに、人が不正を起こしやすくなる)について取り上げました。不用意な発言やメッセージから、不正発生につながる歪んだ動機・プレッシャーをつくらないようにすることについて考えました。

あるメーカーは、自社で発覚した不正問題(製品の性能を実際よりも良くみせるためにデータを不正に操作していた)の原因について、次の通りとしています。(NHKニュースウェブ関連記事を参照)

1.関連データの測定が長期にわたって固定した部署で行われ外部のチェックができなかったこと

2.目標(一定の性能を証明する検査結果)達成に関する責任者が、試験に使う製品や日程を十分に確保できない現場の実態を見過ごしていたこと

3.机上での計算を習慣的に行い現場に法令順守の意識が不足していたこと

4.数年前に制定された法令への対応が社内決定され、その対応の一環として目標(検査結果)必達が開発現場のプレッシャーとなり不正行為に追いやる原因になったこと

5.経営と現場の情報共有ができなかったことに加えて、『ものが言えない組織風土』や人材の長期固定化などが不正を誘発していたこと

上記1.-5.と「不正のトライアングル」の要件を照らし合わせてみると、下記のように整理でき、3要素がすべて揃う=要件成立していたと考えることができるでしょう。
動機・プレッシャー:4
機会:1.2.5.
正当化:3.5.

3.5.に関しては、「これが慣習になっているんだから、今さらこの検査方法に是非もないよね」「不正は問題かもしれないけど言ってもムダだから」などの発想が、自身や他者の不正行為の正当化につながっていたと想像できます。

このように、社会的に取り上げられる不正問題の事例について、一歩踏み込んで関連記事に目を通してみて、「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」がどのように成立していたのか想像してみるとよいと思います。

管理職・社員のどのような言動やそれが生み出す組織風土、会社の仕組みが、「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」につながるのか。このことに関する感性を磨くことが、私たち企業人・組織人には求められています。他社事例から学ぶことは、感性を磨くよい機会になると捉えることができるでしょう。

前々回触れたトヨタモビリティ東京の不正車検問題について、日経ビジネスの記事から要点をいくつか抜粋してみます。上記と同様、不正のトライアングルに沿った整理ができると思います。

・2021年6月までの約2年間にわたり、検査した車両のおよそ3分の1に当たる565台について、検査数値の書き換えや必要な検査の未実施があった。パーキングブレーキの利きやヘッドライトの明るさの検査で検査数値を基準値に書き換えたほか、排ガス成分やスピードメーターの精度を検査しなかったケースなどがあったという。

・不正の原因について、トヨタモビリティ東京は「人員や設備が十分でない中、時間短縮や請負う金額にこだわりすぎた。整備の現場が高負荷である状況を言い出せる風土ではなかった」と話した。

・レクサス高輪は他店舗に比べて入庫数が多く、1人当たりの作業量が多い店舗だという。残業も恒常化する一方で、現場がキャパオーバーしていることについて営業側とのコミュニケーションが取れていなかった。
 
・トヨタ国内販売事業本部は「数字や成績で店舗を評価してきた。こういうやり方では現場のやる気が出ないのだと、今回の件を含めて実感している」と、メーカーの責任を語った。トヨタ生産方式(TPS)の考え方を販売店にも持ち込み、生産性向上に取り組んできたが、数字を追うばかりに、「できません」と言い難い風土が形成されてしまった側面がある。

前回の投稿で触れたとおり、不正のトライアングル各要素の背景には、個人的事由と組織的事由が挙げられるでしょう。個人的事由(生活上の事情など含む)は抑止にも限界がありますが、組織的事由は抑止できることも多いはずです。

そのことに関連して、自身の所属する組織にとっての「不正」の定義も必要です。企業組織に求められるのは、最低限の法令遵守はもちろんのこと、法令の求める水準を上回る、その企業ブランドに合った行動です。法令違反に加えてどんな行為を自社は否定するのか、基準を明確にして組織内外に示し続ける取り組みが求められると思います。

<まとめ>
他社事例から学び、自社のコンプライアンス向上に活かす。


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