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テレワーク勤務の今後を考える(2)

前回は、4月26日の日経新聞記事「在宅勤務、今後どうするか(下) 勤務場所の自律的選択 重要」の内容に関連し、テレワーク勤務をテーマに考えました。場所ありきではなく成果ありきで考え、「どこで仕事をするのが、今日の自分が生み出すべき成果を最大限創出できそうか」の観点で向き合うことが、勤務場所を考える上でのポイントになるのではないかとしました。

同記事及び前日の記事「在宅勤務、今後どうするか(上)」を参考に、ポイントをさらに以下の通り3点挙げてみます。
自分で場所を選ぶことで生産性が上がる
・自分にとって拠り所となる特定の場所を持っておくほうが生産性が上がる
・テレワーク勤務導入で生産性が高い会社は、もともとマネジメントの質が高い

記事「在宅勤務、今後どうするか(上)」から、一部抜粋してみます。

調査によると、パンデミック当初、在宅勤務をする人の4割以上が在宅勤務の生産性の低さを指摘した。その割合は22年4月に25%まで下がったが、生産性の低さを感じる労働者が在宅勤務をやめて通勤勤務に戻ったことが主因だ。つまり感染予防の観点からの要請がない限り、労働者や企業は積極的に在宅勤務を選択しにくいといえる。

この点は他国でも当てはまる。在宅勤務の個人や組織への影響を検証した37の論文をレビューしたカナダの研究グループによると、在宅勤務を自主的に実施した場合はプラスの効果が生じやすいが、強制的・全面的に実施した場合はマイナスの効果が生じやすいという。コロナ禍で緊急回避的に導入された在宅勤務にはプラスの効果が少ないため、多くの労働者が通勤勤務に戻ったと解釈できる。

この内容も、前回取り上げた「どこで仕事をすると、自分・組織の成果が最大化できるか」の観点に通じると思います。

パンデミック初期は、本来会社で仕事をしたほうが生産性が上がる種類の仕事、あるいは、ある人にとっては在宅のほうが生産性上がる仕事であっても自分は会社のほうが能率が上がるというタイプの人に対しても、強制的に在宅という場所の制約を課されました。そのことが、本来別の場所のほうが成果を上げやすい状況の仕事・人を、生産性の悪い場所に閉じ込める結果となっていた、というわけです。成果ベースで、最適な場所を定義するのがよいということが想定されます。

センシング技術を使ったリアルの位置情報とオンラインチャットのログ、質問紙調査の回答がデータソースによるある企業での分析の結果、オフィス内利用場所の多様性と1日あたり平均オフィス滞在時間が中程度で、チャット量が多すぎない人は創造・革新行動が高い傾向がみられた。

さらに個々人の1カ月の行動を追跡すると、創造・革新行動が高い人は、勤務時間の7割程度滞在するホームベースがあり、それ以外の時間でオフィス内外の多様な場所を柔軟に使っていた。自律的に時間と場所を選択できていると、そうしたパターンが観察されるようだった。

逆に勤務場所が多様すぎるのは、他人起点の会議出席依頼や相談に振り回されて、創造・革新的な仕事ができなくなっているからである可能性が示唆された。

つまり、単に中庸だからよいのではない。勤務場所を自律的に選べることが重要なのだ。ただ自律と自由をはき違えてはならない。自律とは責任(accountability)を伴う。職務とその成果に対し自らの選択が持つ意義を説明できるという確信があるかが常に問われる。広い意味でのABWは、自律した個人へと自己変革を促す取り組みでもある。

人的資本経営の観点からも、従業員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)を高めるツールとして、在宅勤務が機能する可能性がある。

「日経スマートワーク経営研究会」での筆者の分析では、在宅勤務を実施している労働者ほど、睡眠やワークエンゲージメント(仕事への熱意・活力・没頭)などで測ったウェルビーイングが高いことが明らかになった。一方、在宅勤務日数が希望より少なく、在宅勤務を増やしたいと答える労働者ほど、残業時間が長く、睡眠時間が短く、睡眠の質が悪く、ワークエンゲージメントが低いという結果も得られた。

そして、上記の記事内容からは、その場所を本人が自ら選択できていると思えている感が高いほうが生産性が上がることがうかがえます。やはり、場所の選定も人から強制されるより、自己決定できているほうが、よい影響があるということです。

一方で、頻繁に場所を変えすぎるのも生産性が落ちることを示唆しています。自分にとって「ホームグラウンド」と思える場所が存在していることは、大切なのだろうと想像します。

在宅勤務の潜在的なメリットがあった人や、コロナ禍で在宅勤務の難点を克服しメリットを享受できるように働き方や環境を変えた人ほど、在宅勤務はコロナ後も定着しやすいといえる。

筆者らの研究によると、そうした労働者の特徴としては、コロナ前から在宅勤務をしていた人や在宅勤務を実施しやすい業務(タスク)を担っている人、仕事の成果や効率性が職場で重視されている人、柔軟な働き方をしている人、良好な人材マネジメントがなされる職場で働いている人などが挙げられる。コロナ前から働き方改革が進んでいた職場で働く労働者ほど、コロナ禍での在宅勤務のメリットは大きく、定着しやすかったと考えられる。

上記からは、「オフィス内で対面によるタスクマネジメント・人材マネジメントができていなかった企業が、テレワークを取り入れればマネジメントが向上するものではない」ということを示唆しています。あくまで、オフィス内で対面によるタスクマネジメント・人材マネジメントができているからこそ、テレワークという形態を取り入れてもうまくいく」のだと言えそうです。

まだテレワーク勤務による適切なマネジメントのあり方を見出せていない組織も多いことと思います。例えば、一度オフィス勤務による対面でのマネジメントに立ち戻り、チーム・仕事に対する考え方・ルールを認識共有・合意形成したうえで、改めてテレワーク勤務の導入に向き合ってもよいのかもしれません。

<まとめ>
対面で個の自律性を尊重するマネジメントができていない組織は、テレワークという形態でもできない。

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