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就職は大手かスタートアップか

「就職活動の会社選びで、大手企業がよいと思うか、スタートアップ企業がよいと思うか?」

ある方からの問いかけです。昔は、大手企業が就職先の目標とされていましたが、最近は日々ダイナミックでやりがいのあるスタートアップ企業を求めている学生も増えています。日経COMEMOでもテーマになっていることから、学生にとって関心の高い問いなのだと思います。

前提として、「大手企業」「スタートアップ企業」といっても、各社によって様々です。それぞれ一括りにするのは無理がありますし、それぞれ一長一短の面があると思います。また、大手でもスタートアップ的な側面、スタートアップでも大手的な側面を持ち合わせている企業もあるはずです。よって、一概には言えないわけですが、そのうえで、以下3つの問いについて考えてみたいと思います。

・新卒生の就職先として大手企業とスタートアップ、どちらをすすめますか?その理由はなんですか?

私の意見としては、次の通りです。

「今後数年間のやりたい仕事が明確に絞り込めている。組織内のあいまいな環境を許容できる。それに伴うあらゆる壁やストレスに向き合う心の準備ができている」ならスタートアップ

「志望する業界、職種、会社などがそれなりに認識できているが、それ以上の絞り込みには至っていない」なら大手企業

社内外の環境の発展段階に応じて、求められるマネジメントは変わっていきます。典型的には、次の通りでしょう。

<市場の発展段階と求められるマネジメント像>
成長性高:「革新」「創造」→「What」
成長性安定:「維持」「改善」→「How」
成長性低(消滅):「取捨選択」「再定義」→「What」

<組織の発展段階と求められるマネジメント像>
創業期→拡大期:仕組み化する
拡大期→成熟期:多様性を束ねる
成熟期→転換期:破壊・創造する

新たな商品・サービスの市場に挑む組織では、「どのような手順で作るか・売るか(How)」よりも「何を作るか・売るか(What)」がキーワードとなります。また、企業が創業直後のステージであれば、人事評価制度など組織内のルールも大手企業のようには仕組み化されていない状態が一般的でしょう。だとすると、スタートアップ企業では、「仕組みのない中で、自らが形のないものを形にしていく」ような仕事のやり方が求められると考えられます。

このことは、なかなか簡単ではありません。仕事に対する高くて、絞り込まれた目的意識が必要になると思います。そのうえで、「絶対にこの仕事を今すぐやりたい」「この会社が目指していることに、自分もいちメンバーとなってどうしても参画してみたい」と強く思えるものが見つかっているなら、スタートアップへの就職はとても有効な環境選びとなるでしょう。

しかし、社会人経験のない状況では、自分の中でそのような明確なものがまだ見つからないという学生の人も多いと思います。大手企業であれば、様々な種類の仕事が分業されていて、仕事のやり方もある程度仕組み化されています。

就職した企業で、仕組み化された仕事の流れの中で、自身に期待されていることにひとつずつこたえていく。その過程で、自分の何が強みでより発揮できる環境は何かについて、一定の時間をかけて見出していく。そうしたキャリアづくりも有効だと思います。

・大手企業とスタートアップにおける「挑戦」とは、それぞれどんなものだと思いますか?

スタートアップの仕事のイメージは、0を1にすること、あるいは1を10にすることが中心ではないでしょうか。そうした局面では、仲間と協力しながらとはいえ、1人でなんでもやることが求められます。仮に「ジョブ型」と言われる雇用であっても、「私は研究室内のことしか考えない」「セールス以外はやらない」などは通用しにくいでしょう。

スタートアップはスピードが命です。全方位的に何役もこなす挑戦が求められると思います。逆に言うと、そうした挑戦ができるチャンスが多いとも言えます。

また、そのような環境では、経営陣や会社への強い共鳴が必要になります。公私の別もなく仕事のことを考えるマインドも必要になるでしょう。もちろん、無尽蔵に残業するという意味ではありませんが、労働時間外でも仕事との切れ目なく、仕事に関連する情報を探したり、発想したりすることを楽しめるマインドも必要です。常に仕事のことを考え続けるほどコミットメントができるかどうかも、スタートアップで問われる挑戦だと思います。

私自身、歴史がある重厚な組織から、ベンチャー企業と呼ばれる組織に移って仕事をしたことがありますが、求められるスピード感、労働時間内外のセルフコントロールの難しさなどの違いで、試行錯誤した覚えがあります。

これに対して、大手企業での仕事のイメージは、10を100にしていくことやその維持が中心でしょう。もちろん、大手企業であっても仕事へのコミットメントが必要な点は、スタートアップと同じです。そのうえで、ある程度の仕組みが既にあり、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源が安定的に配分された中で自分の役割に集中できる環境は、スタートアップにはない強みであり、大手ならではの魅力です。

他方で、既成概念を含めたいろいろな仕組みが出来あがっているために、様々な利害関係者を巻き込みながら何かをなしていくのは、一筋縄ではいかないものがあります。何かを決裁してもらおうにも、いろいろな相手に印鑑をもらって歩くことが必要かもしれません。

「慣例」という言葉を聞くと否定的な響きがしますが、踏襲されているルールや価値観は、それなりの理由や合理性があって今日まで残っているわけです。ルールを何かひとつ変えると、社内外の多方面に影響を与えることもあるはずです。

また、日本国外のグローバルなスケールで影響範囲を想定しながら担当業務を進めるチャンスもある大手も多いでしょう。そうした機微な関係性や情報にアンテナを張りながら、仕事をつくりあげていく力は、その後のキャリアの幅広い場面で役に立つはずです。

・大手企業とスタートアップ、キャリアパスを考えた場合、どのように転職していくのが有効だと思いますか?

個人的には、どのような順番でもかまわないと思います。将来起業を目指している人も、スタートアップ・大手それぞれの特徴を知っていることで、起業後のよりよい組織づくりが進めやすくなります。

スタートアップ企業が成長し成熟していくと、大手企業のようなマネジメントが本格的に求められてきます。その時に、大手で経験したノウハウは、必ず役立つはずです。

逆に、大手企業も新規事業を始める場面ではスタートアップのような仕事のやり方が必要ですし、成熟期を経ての転換期では全社的にスタートアップ企業のようなステージに移ることになります。そうした場面では、スタートアップで経験したノウハウがあれば、とても有効です。

また、今後は環境変化に対応するために、大手内部でもスタートアップ的な仕事の進め方ができる場面が、増えていくのではないでしょうか。

キャリア理論で代表的な考え方のひとつに、「計画的偶発性理論(プランドハップンスタンスセオリー)」というものがあります。スタンフォード大学のクランボルツ教授によって提唱された理論で、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とされている考え方です。

キャリアに主体的に向き合って、チャンスだと思われる目の前の仕事に向き合っているうちに、よい偶然が重なっていくのではないでしょうか。変化の激しいと言われる時代で、あらかじめキャリアを計画したり、ひとつのキャリアの進み方に固執したりするよりも、よい偶然を重ねていくという視点で仕事に向き合うのもよいと思います。

<まとめ>
大手企業、スタートアップ企業、どちらの経験も貴重。



#日経COMEMO #就職は大手かスタートアップか

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