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リスキリングの意義の説明

4月17日の日経新聞で、「リスキリングの現状と課題(上) 企業の説明・成果の還元 必須」というタイトルの記事が掲載されました。

しばらく前からリスキリング(学び直し)という言葉をよく聞くようになりました。技術革新をはじめ企業を取り巻く環境は変わり続けます。その中で、世界中で従来のスキルや仕事の進め方が陳腐化して、人と職務のミスマッチが広がっている背景を受けて、提唱されている概念です。同記事は、リスキリングについて考察されている内容です。

海外では国の成長戦略の一環として国主導でリスキリングを進めているケースも見られますが、日本の場合は企業の経営戦略の一環として進められているのが基本です。今後こうした環境も変わっていくかもしれませんが、いましばらくは企業と学習する個人とが主体となって取り組むことが前提になると想定されます。

同記事の一部を抜粋してみます。

リスキリングは、個人の学習または再学習であり、学習する側(従業員)の主体的な参加・関与がないと有効な学びが起きない。学習過程そのものが本質的にそうした性質をもっている。加えてリスキリングの場合、これまで自分のキャリアを築いてきた基盤とは異なるスキルや能力を学ぶことが多く、学ぶ側の不安が伴い、自発的な関与には消極的であることが多い。その意味で従来の人材育成とは質が異なる。

従業員が企業の動きをどう認識しているのかについてネット上でアンケート調査をした。研究会のアンケート調査から、企業側はリスキリングの意図をある程度説明している実態が示唆された。リスキリングの趣旨が説明されていると答えた従業員にその方法を聞くと、会社による説明会が33.0%、部署内の会議が28.5%、社内イントラネット上のサイトが24.3%、上司による説明が22.1%だった。他の方法も含め何らかの説明をしている企業が77.4%に達し、8割近くの企業がリスキリングの背景や趣旨を説明しているようだ。

こうした企業による説明がもつ効果はどの程度あるのだろうか。「企業の推進する学び直しに納得していない」と答えた従業員の割合は、何らかの方法で従業員に対する説明があった場合には5.3%に対し、説明がなかった場合には40.9%に達した。説明がある場合、従業員が納得してリスキリングに参加する可能性が高い傾向がみられた。

さらに企業が実施する学び直しに「納得していない(ある程度を含む)」と答えた人が「組織の将来的な戦略や求める職務技能(スキル)が示されていない」を選ぶ比率は66.7%で、「納得している」と答えた人が選ぶ割合(55.9%)よりも10ポイント以上高い。

また納得していないと答えた人が「組織の戦略と自身が進みたいキャリアが合致していない」を選ぶ比率も、納得している人との間で10ポイント以上の差があった。戦略の方向性を説明し、そこで求められるスキルや将来のキャリアを明確にすることは、従業員のリスキリングに対する納得感を得るうえで重要と考えられる。

日本の企業内人材育成は企業主導型で進められてきた。極端な場合、企業がその人材をどう育てたいかを決め、本人の希望を聞かなかった。どの研修や教育を受けるかも企業が決め、一方的に従業員に押し付けてきた。人材育成の視点で重要な施策である配置転換・異動も同様だった。

だがこうした人材育成モデルが崩れ始めている。配置転換や異動を従業員の希望に基づく方式にする企業も増えてきたし、育成内容の選択を望む働き手、特に若手が増えてきた。人材育成に関し、従業員の意思やキャリアプランが大きな位置を占めるようになった。

今後こうした状況は進展する可能性がある。その時、企業は従業員に会社の方向性をきちんと伝えることが必要だ。働く側も、自分がどういうキャリアを築きたいのかを真剣に考える必要がある。自分が将来築きたいキャリアを考えておかないと、何を学ぶべきかを決められない可能性がある。

リスキリングとは、そうした個と組織が対等である人材育成への入り口だ。これまでのキャリアやそこまで培ってきたものを無しにして、別のスキルやキャリアを要求される。働く側にとっては極めて大きな転換だ。企業もこの状況を理解し、従業員に対する説明や自発的な参加を促す施策を講じているようだ。

同記事からは、企業と個人との間で、リスキリングに関する合意形成を生み出すことの必要性を、改めて感じます。

合意形成するためには、説明内容が必要です。内容は、当該リスキリングが自社にとって必要であることの理由と、自社の企業活動に参画することによって個人が身につけることができるスキルやキャリアの可能性です。

個人が企業活動に参画する以上、企業の要請事項に合わせるのは自然なことですが、その結果自分はどうなっていくのかの展望を描けることが大切です。

企業が定年まで雇用を保障しようとしてくれることよりも、職業人としてどこでも通用するスキルを身につけられる環境であることのほうが、今では多くの労働者にとっての訴求要因となっています。どこでも通用するスキルを持ったうえで、自社で活躍し続けることを選んでもらう、あるいは一度退出したものの別の形で関わったりまた戻ってきてもらったりすることが、これからの企業が目指したい姿だといえます。

普段見聞きしている範囲では、リスキリングによって個人のキャリア上の能力開発でどのようなメリットがあるか、それを自社で使ってどのようになっていけるのかといった展望を十分に言語化できている企業は、多くはない印象です。企業戦略上の趣旨と合わせて、この点についても一層の明確化が必要だと思います。

同記事で差分が印象的な内容は、企業から学び直しについての説明があった場合の「企業の推進する学び直しに納得していない」が5.3%に対して、説明がなかった場合には40.9%だという点です。リスキリングが必要な理由とそれに参画することによる従業員個人のメリットについて、従業員に対して提示することの意義が大きいのを感じさせます。

このことに対して、8割近くの企業がリスキリングの背景や趣旨について何らかの説明をしているとしながらも、その内訳は会社による説明会33.0%、部署内の会議28.5%、社内イントラネット上のサイト24.3%、上司による説明22.1%となっています。これらの方法のどれかを行った「or」の企業を含めると8割程度になるが、すべてを行った「and」の企業は少数派ではないかと想定されます。

しかしながら、同記事にあるように、リスキリングは企業戦略と直結するテーマであり、これまでの学びの概念から転換するテーマでもあります。そのことを踏まえると、それらの説明機会を「and」で十二分につくるぐらいの取り組みが必要なのではないかと考えられます。この観点からは、企業の考えを説明し理解を得るという取り組みに改善の余地があると言えそうです。

キャリアは本来個人が責任を持つべきテーマなのか、企業側が主導すべきテーマなのか、いろいろな意見もありバランスの問題だとも感じます。そのうえで、自社での就業でどのようなスキルが身につきそれがどんなメリットになるかが見えていることが、社員以外のいろいろな就業形態が可能になる中での、特に正社員として在籍するうえで個人にとって大切な視点になってくると考えます。

<まとめ>
従業員に対して、リスキリングが必要な理由とそれに参画することによる従業員個人のメリットを提示する。

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