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私はやっぱりシンガーソングライター
熱海から新幹線に乗り換えて、名古屋へと向かう。街が変わると、空気が変わるのを顕著に感じるようになった。ツアーをしていた頃は全く気にしていなかったのに。伊東での暮らしは、私の五感をより敏感にさせたらしい。おかげで都会へ行くと鼻炎になるようになった。いいのか悪いのか…。特に名古屋の地下鉄に乗ると、帰ってきたなあ~と感じる。学校へ行く時も、バイトへ行く時も、ライブへ行く時も、何度も何度も吸ったあの懐かしい匂いがするのだ。
実家へ着き、夕飯を食べ、夜のリハーサルまで時間を潰す。最近では19時には夕飯を食べ終わり、21時には寝る支度が終わっていて、ライブハウスでアンコールをやっている時間帯は寝ていることが多い。自分の生活サイクルがガラリと変わっているのを感じる。
昨年の8月に伊豆高原でライブをしたぶりにミキヒトさんと再会し、明けまして~なんて挨拶をしつつ、リハーサルをした。リハーサルなんてしなくてよかったんじゃないかってくらい良い感じ。ミキヒトさんのサポートが素晴らしいのはもちろんのこと、私があまり決めきらずに、本番の空気に任せたいと思うようになったのもあるかもしれない。前はガチガチに決めて、本番もその通りにならないと許せないところがあった。いわゆる完璧主義。今は何事もできるだけ余白を残しておいて、あとはその場の空気に身を任せたいと思うようになった。自然という、人間がコントロールできない圧倒的な存在の側で暮らしたおかげでできた余白だと感じている。
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ライブ当日、「栄ミナミ音楽祭」へと向かう。栄の街中にいくつもステージが組まれ、誰でも自由に見ることができる、いわば野外版サーキットイベント。コロナ禍の影響で5年ぶりの開催となり、みんなそれぞれが特別な思いを抱き参加していたと思う。私はオーディションというもので初めて勝ち取ったメインステージへの思入れもある。色んなことを思い出したし、色んなことが変わった。私は一時期シンガーソングライター業から離れ、故郷すらも離れた。それでもまた故郷へ戻り、シンガーソングライターをやっている。見てくれが変わっても、根本的な部分は何も変わっていないらしい。人はそんな簡単には変わらないのだと知った。
久しぶりの故郷でのステージは懐かしさを感じるのかと思いきや、ついこの間までやっていたかのようだった。どれだけ間が空いても、歌いまくっていたあの頃の感覚が身体の奥底から湧き上がってくる。ギターを持って、歌を歌えば、私は藤森愛になれる。
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でも、長く一緒にいれば嫌なところばかりが目についてしまうように、次第にお互いの歯車が合わなくっていた。だからしばらくの間、私と藤森愛の距離を置くことにして、藤森愛が遠くへバカンスに行っている間、私は伊東へ。そして、栄ミナミ音楽祭で合流した私たちは、すっかり丸くなっていた(笑)もともと穏やかだったのに、さらに穏やかになったと言われたくらい。ちょっとふやけすぎてしまったかも。それでも根本的な部分は何も変わっていない。私はやっぱりシンガーソングライターだった。
最近知り合った人たちは、私を絵描きだと思っていることの方が多い。どっちが本業ですか?と聞かれるのに対して、両方と答えるようにしている。絵描きも、シンガーソングライターも何度も手放しているのに、住む場所さえも変えたのに、いつの間にか紙の上で線を引っ張っているし、いつの間にかステージの上で歌っている。もはや運命なのか、腐れ縁なのか、呪いなのか(笑)両方ともに「大切」なんて言葉ではとても言い表せられない、血肉のような存在になってしまった。きっとご飯が食えなくなってもやめられないのだろう。そういったものを人生のうちで2つも見つけることができた私は、もしかしたら幸せ者なのかもしれない。
私はやっぱりシンガーソングライター。いくつになってもシンガーソングライター。どこまでいってもシンガーソングライター。
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