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【農と会計のススメ(1)】書き始めに思うこと

会計に対して、苦手意識をお持ちの方が少なくないかもしれません。
今日は、会計について思うことを書いてみたいと思います。

会計という分野の範囲は広く、人によって捉え方は様々だと思います。
本稿は、特に、農業に取り組み始めた若い経営者の方、農業をビジネスモデルに組み込んだスタートアップの方など、一般の事業会社以外の方にとってもヒントになれば、うれしいです。


Nature Lifeと会計のつながり

さて、会計と私のNature Life、まったく関係ないようにみえます。実は、私のキャリアのベースに会計があります。

まず公認会計士として大手監査法人で会計監査、ベンチャー企業のIPO(株式公開)を支援。その後、Big4や米国系戦略コンサルティング会社でのコンサルティングを経て、化学会社に勤務。この事業会社では、国際会計基準(IFRS)の導入部署を率いたグローバル化の推進や経営企画など、約13年を過ごして、昨年夏に定年退職しました。

いまも、中堅・中小の二世社長様など、お声がけ頂いた経営者の方々への事業戦略やサステナブル経営のご支援を通じて、会計との関わりがあります。

一見、自然とは無縁のキャリアですが、自分の時間の中で、気候変動による高山の崩壊を目の当たりにし、北欧と出会い、また世界に山積みの廃棄プラスチックが広まる様をみて、Nature Lifeを大切にする人生に傾いてゆきました。

この経験を通じて思うのは、会計は、決して事業の表舞台にはでてきませんが、その理解は、インナーマッスルのように、事業を支えるということです。逆に言えば、会計の議論を主体に据えても、経営や事業の骨格の課題が解決するものでもありません。会計は、その理解を基礎にして、使う場面と使い方次第だと思います。

それが、農業とどのように関係するか。思うことを書いてみます。

農業で会計はどう役立つか

農業や農家さんをめぐる環境変化

農業を生業としてこられた農家さんは、税理士さん、銀行さん、農協さんなど、力強いアドバイザーの伴走とともに、何年も何十年も事業を続けてこられました。農業と会計が関係していることは、よくご存知だと思います。

自分の農業事業は、赤字ではないか。続けられるだろうか。
今期は税金をいくら納めるのだろう。
田畑を、どのように子孫に相続させようか。

事業を通じて生きていくこと、家を守るうえで、それは絶対に外せない大切なことです。

加えて、今、私が思うのは、自然環境や農業に関わるビジネスの変化と、そこにおける会計の役立ちです。農業に取り組み始めた若い経営者の方、農業をビジネスモデルに組み込んだスタートアップ経営者の方にとって、会計の理解は、その成長を支える基礎になると思っています。

例えば、農家さんは、ひしひしと温暖化の影響を感じておられるはずです。それは、これからの将来、自分の農業を続ける上で、大きなリスクになりそうです。リスクに備えるためには、自分の事業の状況を、しっかり理解しておくことが役立ちます。また事業基盤が脆弱な若い経営者にとって、自らの備えはもちろん、支援をお願いするときにも、その状況をきちんと説明して、理解をいただくことにも役立ちます。

最近は、農業の仕事を研究開発や他の企業と繋げたり、新しいビジネスを組み立てようとするスタートアップ企業も、ますます注目されています。

このように、会計の考え方や理解が役立つ身近な場面が、これから増えていくと思います。

会計は説明を通じて信頼につながる

農が、農業という仕事を越えて、将来の新しい社会基盤となるうえで、これまで以上に、多くの方達、農業とは直接関係がなかった方達や企業との繋がりが大切になりそうです。

この協力関係の繋がりで大切なことは、お互いの信頼だと思います。その信頼の基礎にあるのは、きちんと互いの事業を説明しあえることだと思います。

最初、事業は、思いや熱意で走り始めますが、詰めていく段階では、やはり利益、必要資金など、将来の姿や成果について、数字に基づいた互いの説明が大切になります。

難しいのは、数字というのは、それが示されるだけで信頼できそうですが、実は、そうとは言えないところです。

大切なのは、その数字のもととなる枠ぐみであり、数字を導出する道筋(ロジック)だと思います。

つまり、互いの信頼を築く説明の基礎を作ること、これが会計の大きな役割です。そして説明の基礎となる、数字を導く枠組みや道筋を実際に働かせることが、会計の機能です。

私は、新しい農業の展開を目指す農家さんにも、農業と関わろうとするスタートアップなど企業の側にも、一般企業と同じ会計の枠組みと道筋(ロジック)の理解が役立つと思います。

経営に役立つ会計の考え方

当然、多くの若手経営者の方達は、数字の重要性はとても良く理解しておられるはずです。ただ、新規事業の立ち上げを目指す方達のアドバイザリーを通じて感じるのは、大雑把なことも多いということです。もちろん、先に述べたように、会計だけで事業の課題は解決しませんし、会計専門家の仔細、枝葉なアドバイスが混乱を招くこともあります。

ここで大雑把という意味は、つくりあげたい事業の特徴を、会計という枠組みやロジックを通じて、数字に表せているだろうか?、ということです。

例えば、他の会社と同じようにすることは、体制を整える上で効率的かもしれません。会計専門家も、他に事例があることを理由に、それでOKとする場合も少なくありません。

ただ、他の会社とご自身の事業モデルや取り巻く状況が、同じとは限りません。実をとるならば、できるだけ最初の段階から、
・ご自身の事業の特徴を、会計の考え方で理解しておくこと。
・その理解を会計の道筋(ロジック)に反映すること。
このことは、後々の成長に役立つと思います。

一つ加えますと、事業の特徴を表現する会計には、事業を良く知る経営者の関わりが欠かせません。経理部員だけの仕事では、ないのです。

会計からみた農業の特徴

私自身、かつて農業法人の立ち上げ段階にブロッコリー、トマトやとうもろこし栽培など農業に加わり、また今でも、自分自身で、少し大きめの家庭菜園をやっている経験を踏まえると、農業には、大きな特徴があります。

一年を通じて農業資材を使い、畑で作業をするけれど、時間の経過を経て、作物という価値が生まれていくという特徴です。農業を数字で表現する会計の枠組みは、一般の企業会計と同じでも、やはり農業の特徴を踏まえた、会計のロジックが必要です。

しかし、一般の企業と農業を全く別ものとして考える必要はありません。企業でも、とくに、製造業や建設業などのモノづくりでは、作業や工程を経て、出来上がったものの価値をとらえるからです。

つまり、一般によく知られる企業会計の考え方や仕組みを、農業の分野に応用することで、他業種の共通理解者を増やすことに役立ちます。事業の特徴を、会計の数字を導く仕組みと整合させることで、異なる業種同士でも、事業に関わる互いの理解を進めることが可能になります。

もちろん、同じ枠組みとはいえ、異なる業種やビジネスの仕組みであれば、結果の表現の様子が違うかもしれません。会計の枠組みを保ちながら、その中で、どのようにご自身の事業を表現していくか。そこが判断であり、会計の考え所です。ただ基礎となる枠組みが同じだから、各々の判断に対して、共通の理解も得やすく、そこが、会計の使い所だと思います(共通の理解をすすめるために、説明を尽くす場合もあります)。

私は、会計の枠組みと仕組みを理解することで、業種を超えた数字の理解や説明を可能にし、協力のチャンスを広げていくために役立つと思っています。

私のブログ【農と会計のススメ】について

いま、農業の特徴を踏まえた会計の手法として、「農業簿記」という検定も行われていますし、農業経営をアドバイスする資格試験も開始されています。これらは農業の分野で、企業会計の考え方を役立てようという考え方が見られますから、私が思うところと同じです。

ただ私のブログでは、この検定や資格試験対策そのものは目的にしません。将来に向けて農業のビジネスモデルを創ろうとする農家さんやスタートアップなど企業さんの双方に、農業の特性を踏まえて、会計を知って頂けるような記事を書いてみたいと思います。

不定期になりますが、もしよかったら、これからも読んでください。

結果として、農業簿記など、検定を目指す方にも役立てば、うれしいです。

次回は、少し概念的な話題ですが、「会計が表現しようとするもの、価値とは何か」について、できるだけわかりやすく、農業の身近な例も入れながら述べてみたいと思います。

今日も、最後まで、長文を読んでいただき、ありがとうございます。

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