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【農と会計のススメ (2)】なぜ会計は、わかりにくいのか、その二つの要素

まず、お礼です。
先日、”【農と会計のススメ】書き始めに思うこと”を投稿しました。Likesやフォローを頂き、ありがとうございます。リアクション頂いたお一人お一人に、感謝いたします。

今日も、「農と会計」について、私が思うことを書いてみます。会計が表現しようとするものとは、何でしょうか。
本稿は、特に農業経営を立ち上げた経営者の方に限らず、会計を学びたい方に、広く読んで頂ける内容にしたいと思います。


会計が苦手になる二つのハードル

会計にチャレンジしたが、諦めた。はっきり言えば、嫌気がさした。そういう方もいらっしゃると思います。その原因として、2つ挙げてみます。

(1) 簿記のハードル

会計を勉強しようと思う動機は、さまざまだと思います。

  • 会計専門職になるため、試験対策として、会計に取り組む方。

  • 学校の授業の足しになるなど、勉強してみたい方。

  • 自分の事業を成長させるため、会計の枠組みを使いたい方。

いずれの方も最初につまづくのは、会計の最初に学ぶ、簿記だと思います。
右と左、借りと貸し。こんがらがって、嫌になります。

「会計は覚えるのが、とにかく早道」、という説もあります。
それも、ある意味正しいと思います。しかし私自身の経験で、覚えるだけでは、痛い思いをしました。

振り返ると懐かしい、私の経験談です。
大学の簿記論の授業で、企業向けの日商簿記二級検定に合格すれば、授業にでなくても単位がもらえると知りました。それはラッキーだと、確かに、初学から2週間で簿記二級に合格しました。2週間というのは、大学の学祭で遊び呆けて、日商簿記の秋の検定が2週間後に迫っていた、という止むに止まれぬ事情です。その合格秘訣は、パターン化して覚えることでした。しかし、ここで簿記は覚えればなんとかなる、という経験をしたことで(簿記をナメたことで)、後々、公認会計士試験に向かって苦労しました。

覚えることに頼ると、あるところまで何とかなりますが、そのうちキャパを越えます。そこに気づいて心を入れ替えた年、公認会計士試験の本番で、はじめて簿記が完璧にできました。何より、ただの試験対策で会計に取り組むと、実際の仕事の場面で応用が効かなくなって困る場合もあると思います。

(2) 財務書類のハードル

会計書類といえば、数字がたくさん並んだ幾つかの表があります。
貸借なんとか表、損益なんとか表など。

「これが、一年の事業の成果(結論)」と言われても、本音では、それが何を意味するものか、よくわからない。自分で作ると思うと途方に暮れる。結果、利益が出ていると分かれば、それで良いじゃん、という方もいらっしゃるかもしれません。

MECEという言葉を、ご存知の方も多いかと思います。もれなく、だぶりない、ということです。財務書類の元である会計の枠組みは、企業の活動を表現する上で、もれなく、だぶりがない枠組みだと思います。財務書類の意味を捉えるには、会計の枠組み(構造)を知っていることが役立つはずです。

会計は何を表現しようとしているのか

では、そもそも、財務書類に並ぶ数字、その財務書類作成に至る途中段階で、たくさん作られる左と右に分かれた記載(簿記の仕訳ーしわけー)は、何を表そうとしているのでしょう。経営者として、何を理解しておけば良いのでしょう。

市販の簿記のテキストや会計の本で、必ず解説されていますから、それをお読みになり、よくわかっていらっしゃる方もおられるはずです。

私にとって、会計にあまり馴染みがない方に向け、この簿記の「左と右」の説明は、実は、なかなか難しいです。せっかく、私の投稿を読んで頂いている方に向けて、できる限り、会計の用語を使わないで、説明を試みようと思います。

もしかすると、みなさんにわかりにくくて、今後の投稿の中で、折りにふれて、改めて説明するかもしれません。よろしくお願いします。

結論を言えば、会計が表現したいのは、【価値あるものが、形をかえて、また価値に戻るプロセス】です。

会計の学問的な理論には、欧州大陸派とか米国派、財産思考や損益思考など、さまざまな主義があります。ここでは、学問的な正確性よりも、農業はもちろん、将来のために新しいビジネスを経営しようとする方の理解に向けて、思い切って捨象したお話をしたいと思います。

ポイントは3つ ー 価値と変身、対価、その記録と測定

あなたは、最初に何か、価値あるものを持っているとします。

  • ものには価値がある。その価値は、形をかえるが、また価値にもどり、その巡りを繰り返す。

  • ものの価値が、形を変えようとするとき、なにか変身のエネルギーとなるもの(代償または対価)が必要である。

  • その価値の動きを、数字として測り、記録し、目に見えるようにする枠組みが会計であり、その記録や集計の手法が簿記である。

物語風に、少し説明を加えます。

最初にもっている価値あるもの、として分かりやすいのが、お金です。

(1)その価値あるお金を元にして、野菜の種を買いました。お金は、種というモノに変身し、その変身エネルギー(代償)として、いくらかの価値(お金)を使いました。

(2)農家のあなたは、種というモノを成長させて、野菜にするため、新たに畑にまく肥料を買い、そこでもいくらかの価値(お金)を使いました。

(3)やがて、種や肥料を撒いた畑に、別のモノ(野菜)が実ります。野菜には、再びお金に変わる秘めた価値がつまっています。

(4)市場でその野菜(つまり価値を秘めたモノ)を売って、再び、もとの価値(お金)に戻りました。

このような、「価値(お金)→価値の変身(種やクワが野菜へ)→価値(お金)」というプロセスが描けます。

これが、お金という価値という尺度をもって、会計が描こうとしているビジネスの姿です。

ポイントは、(1)から(4)それぞれの「価値の変身」を、その「変身のエネルギー」と、「両睨み」のセットでとらえる、ということです。

例えば、
種や肥料を手にしました。その変身エネルギーは何ですか?(お金)
野菜を手にしました。その変身エネルギーは何ですか?(種と肥料)
再び、お金が手元に戻ってきました。その変身エネルギーは何ですか?(野菜)

という形で、手にしたものと、その変身エネルギー(対価と呼ぶこともあります)を「両睨み」のセットで考えるのがポイントです。

まとめると、以下のような形です。

(1)野菜の種 ← お金
(2)肥料 ← お金
(3)野菜 ←種と肥料(これらを買うことで、お金が変身したもの)
(4)お金 ← 野菜

この「両睨み」のセットを、一度に表現しようとするものが、簿記の中でも「複式簿記」と呼ばれます。複式という呼び名から、両睨みのイメージが伝わりませんか?

複式簿記は、企業会計で一般に用いられる仕事の流れを、両睨みで、会計の仕組みに落とし込む表現方法です。

この会計の表現方法の仕組みが、簿記と呼ばれる手法のもとで、左側や右側の区別がでてくる仕訳という形になります。

読者の方には、それは知っているよ、という方がいらっしゃるかもしれませんので、少し応用の補足します。

実際に企業の実務では、これまで自分が扱ったことがない取引に出会うことがあります。初めて出会った取引を、企業の会計として変換しなければならないとき、解決のヒントになるのは、「どんな価値が、どんなエネルギー(対価)を使って、何に変身したのかな」というシンプルな、「両睨み」の変身セット思考です。

最初は検討がつかなくても、価値はなに?、変身エネルギーは何?、という風に考えて行けるからです。最終的に、価値と変身エネルギーが、両睨みで、かつ合理性を持ってセットになるはずですから、パズルのように、ミッシングパーツを考えていくこともできるようになります。

会計を覚えることで済まそうとすると、この両睨みの変身思考、またはパズル解きの応用が効きにくくなる、ということは、私自身の経験から申し上げられることです。

お金では測れない価値の大切さ

少し話が広がりますが、一つ、最近注目される議論を加えます。企業のビジネスが産む価値、また必要とするモノは、お金という尺度だけで測れるのだろうか?、という議論です。

例えば、企業や農家さんが積み上げてきたノウハウのようなもの。このノウハウは、そこで働く人々に蓄えられているでしょう。人こそ財産、と言われる所以です。では、その人の価値は、お金で測れるでしょうか (測れるという方もいらっしゃるかもしれません)。

お金に関わることとして、財務という言葉を聞かれたことがあるでしょう。例えば、企業で銀行さんとのお金のやり取りを行うのは財務部と呼ばれます。

最近では、お金という尺度で測りやすい企業の財務情報とは別に、ノウハウという知見や、さまざまな人々が働きやすい職場環境など、お金という尺度で表しにくいものを、非財務情報と呼び、企業の大切な価値として着目する動きが活発になっています。

会計が表現しようとする価値やそれを捉える範囲、つまり、会計の枠組みは変わらなくても、そこで表現しようとする価値の意味合いが、時代によって変わっていくことは、興味深いです。

逆にいえば、そうでなければ、会計は時代の変化の中で、その意義を失う、生き物のようなものである、ということかもしれません。

本稿のまとめ

本稿では、会計がとっつきにくいと感じるハードルを二つ挙げて、そのハードルを越える方法として、外に委託する方法の注意点を考えました。

事業を立ち上げて間がない経営者の方には、外に委託することは有効な手立てです。ただ、そこには弊害もあります。丸投げではなく、ご自身の理解をもとに、どこまで外にお願いするか、その線引きが大切になります。

会計について言えば、外に切り出す前に、ご自身の事業を会計の仕組みで理解していることは、インナーマッスルのように、事業を支えることになるように思います。そこで、物語風に、そもそも会計が表現しようとする意味合いをお話してみました。

私なりのチャレンジでしたが、もしかしたら、回りくどくて、分かりにくかったかもしれませんね。

なお、この物語では、「野菜の種←お金」というように、矢印が右から左に向かっています。実は、この矢印の向きにも、会計の枠組みとしては意味があります。

次回は、この物語を、会計の枠組みをふまえて、記録や集計手法である簿記で表現してみようと思っています。

よかったら、また読んでください。

今日も、最後まで、長文を読んでいただき、ありがとうございました。

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