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余談『大学の課題2023』

今年の課題

生田丘陵の上の大学でシナリオライティングの授業を受け持って9年目。
今年度の授業も無事に終わり、今は成績をつけている。
成績の評価材料は3つ。
ひとつめは授業中に使っているレスポンというツール。

スマホやPCで行えるリアルタイムアンケートシステムで、あらかじめ用意したクリッカーや選択式の設問、自由記述の回答などが行なえ、また学生の出席や、互いの回答への評価などもできるもの。
最近の学生は挙手による発言を促してもあまり乗り気ではなく、更に感染防止の観点から授業中での発言はNGとなっている。
けれど授業後のアンケートなどを見る限り、講義を聞いていて色々と考えはあるようで、それらをリアルタイムに引き出すためにもこうしたSNS慣れした世代に向いているツールを使うのは有効で、実際に提出された回答を観ていると面白いものが多い。
こうしたツールを通してできるだけ学生の意見を吸い上げ、自分自身の次年度の授業教材改訂の判断材料にしている。
今年は全15回の授業の中で96件ほど授業内アンケートを行った。
おそらく学内で一番使っている気がしないでもない。
(他の先生の授業はまったく知りませんけれど)

ふたつめは授業後に出す課題。基本的にはそれぞれの授業に沿った簡単な物が多い。「赤ずきん」を現代風にアレンジして簡単なオチのある物語を書いてくるように――など。
この段階ではプロットとはあえていわず、物語を綴ることを軸に評価している。
今年は柱・ト書き・台詞といった最初から脚本としての形での文章形式で授業をするのではなく、物語の構成とそれらを作り出すアイデアの拡張とまとめるための手法を先に行い、創造の意識を高めることを優先させた。
文章慣れした学生であればその辺はクリアしてくるのだが、興味だけで授業を取る学生も少なくはない。
なので比較的、創作物を作ることが苦手な学生に対しても創作の過程、アイデアの拡張拡散とそこから使えるものを繋ぐ連想力、そしてパズルのピースを組み上げる構築力を意識してもらうようにした。
実際に仕事で行っているとこれに時間を割いているほうが圧倒的に多いわけだし。

最後にみっつめの課題が成績評価課題。
5分程度の短編脚本を書いてもらっている。
毎年、違ったお題を出して、そこから発想を得て、自由に物語を展開してもらう。
ジャンルも自由。内容も公序良俗から大きく外れるものでない限りは許している。

今年のお題は
「20世紀の音楽を聞いた主人公の変化の時が訪れる」
今の学生たちはほぼ21世紀の生まれ。
なので20世紀の歌に直接触れた経験はない。
だからこそその歌を調べる必要がある。つまり取材が必要になるのだ。
おそらくはネットなどで検索してくるのだろうけど、その中身が正確でなくても別に構わない。
自分で調べ興味を持ち、それを発想の源泉として自らの物語を作り上げてくれればそれでいい。
――という軽い気持ちでお題は決めた。

ちなみに一昨年は「サイコロ」。
以下、自分が参考例として書いた脚本はnoteで公開している。

提出された課題の評価

ふたつの学部でこの授業を行っており、今年は70本ほどの脚本が集まった。
これをチェックして修正アドバイスのコメントで返すのだけれど、本数が本数。更には授業に間に合わせないといけないので年末はこれでほぼ時間が溶けた。

今年はプロットと初稿の間に、準備稿という「実質初稿なんだけど多少甘くてもいいから最後まで書いてもってきてね」という段階を入れることにした。
多くの学生がト書きを小説の地の文のように書いて、内容のほとんどが説明になってしまっているので、そうした部分を中心に直しの指示は出している。
一応、映像のための脚本=シナリオなので、ト書きは実際に映像として表現できる内容で書いてもらうように指導。
なので感情や設定の説明などをする場合は、台詞に振り直すか、それらが読み取れる描写に置き換えるかするようにコメントを返信。

直ってくるものが多いが、まったく対応されないこともある。
書いた学生の意地ならばそれでいいが、単純に出せば単位がもらえるだろうという考えの学生もいる。
そうした学生にまで情熱を注ぐほど、自分は熱くないし、大学というところは学ぶ意思のないものは来なくてもいいとさえ思っているので、基本放置。
大人になってもずっと勉強の続くこの仕事はそんなに甘いもんじゃない。
それを今のうちに体験できるのも良い機会だろう。

今年度の脚本は直しの機会を一段階増やしたこともあり、これまでに比べてよくなっていた。
実際にそれは成績結果にも現れており、これまでの中の最高点が出たことでもわかる。

講師の作例

学生が提出してくる前に、最低限、これぐらいの脚本にはしといてほしい――という感じでできるだけ同じお題で作例を出している。
もっともこちらは直しにかける時間はほぼないので一発書きで、時間も教員室の待機時間中で書いたものである。
故に二時間くらいで書き上げた脚本。

サイコロのときのように一応、載せておきます。

『キグルミヌイデ』
[登場人物]
小出フリオ(大学2年) 内気、特撮オタク。特撮ヒーロー「熱血戦隊ファイトマン」のきぐるみのバイトをしている。

夏野ミカン(大学2年) フリオと同じゼミのかわいくお洒落な子。実は特撮好き。

小田仏先輩(40代?) 特撮着ぐるみ歴20年の大ベテラン。中島みゆき好き。言葉遣いに癖がある。

茂木(大学3年) イケメン。ミカンの彼氏疑惑あり。



○向ヶ丘遊園パーク
  夏の太陽。
  それを遮るようにサッと現れるヒーロー。熱血戦隊ファイトマン(フリオ)、ポーズつけながらキメ。
ファイトマン「太陽のように俺の闘志が燃えている! いくぞ、ワルディ!」
  悪役のワルディ(小田仏)、ポーズつけて。
ワルディ「こしゃくな! 返り討ちにしてくれる!」
  戦闘員とワルディがファイトマンに襲いかかる。
  アクション。
  ファイトマン、チラと観客席見て。
  そこにいるのはミカン。
フリオ(M)「ミカンさん、また来てる……」
ミカン「……」
   ×    ×    ×
  腰をかがめて風船を配るファイトマンとワルディ。
ファイトマン「はい、どうぞ」
子供A「ありがとう!」
  次の人に風船を渡そうとするファイトマン。
  すりと子供の手のイチではなく大人の高さに。
  ミカンがいて。
ファイトマン「……えっと、はい、どうぞ」
ミカン「ありがとう!」
  ニコリと微笑むミカン。
  立ち去り際、バッグにつけられたヒーローのマークの
  キーホルダー。
  ぼーっとするファイトマンのフリオ。
ワルディ「(小声で)おい、フリオ」
ファイトマン「え?」
  子供Bが手を差し出している。
ファイトマン「あ、ごめん。はい」
  視線をミカンが去ったほうに向けるファイトマンの
  フリオ。
ファイトマン「……」

○大学
  暑そうな学生たち。
  パソコンに向かってグループワークのテキストを
  打っているフリオ。
  チラとモニターの向こうに視線を贈ると、窓際の席で
  資料を見ているミカン。
  窓から差し込む陽射しに照らされてキラキラして
  見える。
フリオ「……」
  デスクの上に置かれたミカンのカバン。ヒーローの
  キーホルダー。
  嬉しそうな表情になるフリオ。

○向ヶ丘遊園パーク
  再びファイトマンとワルディのアクション。
  ワルディの攻撃を躱して、ファイトマンの蹴りが炸裂。
ファイトマン「とぉッ!」
ワルディ「ぐわあ!」
  派手にやられて舞台袖に引っ込むと爆発音。
  キメのファイトマン、ちらりと客席見ると。
  ミカンが拍手している。
   ×    ×    ×
  ファイトマンの風船くばり。
  子供Aが風船もらって去っていく。
  ミカンがいて。
ファイトマン「はい、どうぞ!」
  風船差し出すと、代わりにミカンもプレゼントの
  包み差し出してきて。
ミカン「がんばってください!」
ファイトマン「あ……」
  嬉しそうに去っていくミカン。
  ぼーっと見送るファイトマン。
ファイトマン「……」

○休憩所
  扇風機が左右に動いていて。
  ハンガーに吊るされた着ぐるみ。
  じっとプレゼントの保冷タオルを見つめるフリオ。
フリオ「……」
  突然、「ファイト」と音楽が流れてきて。
  見ると、小田仏がCDのジャケットみながら
小田仏「中島みゆきは染みるのぉ」
フリオ「いつも聞いてますね、その人」
小田仏「わしの女神じゃからのぉ」
  小田仏、フリオが手にしたプレゼント見て
小田仏「勘違いしたらあかんぞ。それはぬしのじゃなか。
 ファイトマンへのプレゼントじゃ」
フリオ「そんなのわかってます」
  口尖らせるがちょっと残念なフリオ。
  しかし内心は嬉しいのか、口元緩ませ、保冷タオル、
  そっと握る。

○大学
  暑そうな学生たち。
  パソコンに向かってテキストをキーボードで打って
  いるフリオ。
  モニターの向こうの窓際の席を見るがミカンはいない。
  そのとき――、
女子学生A(off)「ミカンちゃん。彼氏いるのかな?」
フリオ「!」
  キーボード打つ手が止まる。
  声の主みると女子学生たち(A、B、C)が会話して
  いて。
女子学生B「あー、それ! イケメンと一緒なの見たこと
 ある」
  カタカタとキーボード打ち続けるフリオ。聞き耳は
  立てて。
女子学生C「大学イケメンコンテスト入賞者の茂木先輩
 だよ、それ」
女子学生A「ミカンちゃんもかわいいし、お洒落だし……ち
 ょっと憧れちゃうなあ」
女子学生B「顔面偏差値高い彼氏いても不思議じゃないよ
 ねぇ。ね、フリオもそう思うでしょ?」
  突然話を振られてドギマギするフリオ。キーボード
  打つ手が動揺。
フリオ「えと、僕は……」
女子学生C「あ、フリオくん、そういうの興味ないか」
女子学生A「アニメ専門だもんね」
女子学生B「やめなって」
  視線外してキーボード打つフリオ。
  窓際の席を見るがミカンはいない。
フリオ「……」

○向ヶ丘遊園パーク
  ファイトマンとワルディのアクション。
  ファイトマンのフリオ、ちらと客席見て。
  見ているミカン。その隣にたつ茂木。
ワルディ「さあ、行くぞ、ファイトマン!」
  棒立ちのファイトマン。
ファイトマン「……」
ワルディ「(小声で)おい、台詞」
ファイトマン「あ! お前たちが――」
ワルディ「(小声で)そこじゃない、次!」
ファイトマン「えっと、来るなら来てみろ!」
  ワルディと戦闘員が動く。
  戦闘員を躱すフリオ。
  客席見るとミカンが茂木の腕をつかんでいるのが
  見えて。
ファイトマン「……」
  思わず動き停めるフリオ。
  そこにワルディの蹴りが飛んできて。
  衝撃!
  倒れるファイトマン。
  衝撃で脱げて転がるマスク。
  その転がったマスクが客の足元に。
  顔を上げるフリオ。
  その客はミカンだった。
フリオ「……あ」
ミカン「!」
  見つめ合うミカンとフリオ。
  ワルディがマスクを拾ってフリオに被せる。
ファイトマン「……わ!」
ワルディ「続きだ! 行くぞ!」
ファイトマン「は、はい!」
  ステージへと上がるファイトマン。
  呆然とファイトマンを見送るミカン。複雑な表情で。
ミカン「……」
ファイトマン「……」
   ×    ×    ×
  風船くばり。
ファイトマン「はい、どうぞ」
子供A「しっかりやれよ!」
ファイトマン「ありがと」
  が、次にミカンはいない。
  子供Bがいて。
子供B「これ、落とし物」
ファイトマン「え?」
  見るとミカンがつけていたキーホルダー。

○休憩所
  落ち込むフリオ。うなだれていて。
  裏では中島みゆきの「ファイト」が流れている。
  手にはミカンのキーホルダーと保冷タオル。
  保冷タオル、クビに当てて。
小田仏「ぬし、しっかりせんといかんぞ。わしら、夢与え
 ないかんからのぉ」
フリオ「……はい」
小田仏「やりたいことを選べるんは幸せなんじゃ。こん歌
 で歌われるのは、みんなどこかで躓いたもんばかりじゃ」
  歌に耳を傾けるフリオ。
小田仏「田舎から自由に出られんもんや、夢半ばで潰えた
 もん、そんでもそいつらはみな夢に挑戦しようと一度は
 あがいたんじゃ」
フリオ「……」
小田仏「ぬしは夢与えるファイトマンじゃ。お客さんに見
 せるんはぬしじゃなか。夢なんじゃ」
フリオ「……ですよね」
  保冷タオルとキーホルダー見つめながら。
   ×    ×    ×
  回想。マスクとれたフリオを見つめるミカン。
フリオ(M)「ミカンちゃんは僕を見てるんじゃない。
 ファイトマンを観に来てるんだ」
  回想。保冷タオル差し出すミカン。
フリオ(M)「応援してくれるくらいに好きなんだ」
   ×    ×    ×
  そこに中島みゆきの「ファイト」のサビ。ファイト!
  保冷タオルとキーホルダー、ギュッと握りしめて。
フリオ「……御礼、まだ言ってない」

○大学
  ゼミの教室で。
  窓際の席、ひとりでいるミカン。カバンにキーホルダー
  はない。
  教室に入ってくるフリオ。
  フリオ、ミカンのところにまっすぐ向かって。
フリオ「……あの」
ミカン「……」
フリオ「これ」
  顔を伏せ、キーホルダー、差し出すフリオ。
フリオ「もし僕がミカンちゃんの夢、壊したのなら、ごめ
 ん! 僕は嫌いなままでいい! でも……、でも! フ
 ァイトマンは嫌いにならないで! だからここに来てく
 ださい!」
  差し出されたままのキーホルダー。
  顔を伏せたままのフリオ。
フリオ「……」
ミカン「大好きだから」
フリオ「え?」
ミカン「ファイトマン」
フリオ「……うん」
ミカン「嫌いになれない」
フリオ「うん」
ミカン「がんばってる中の人も」
フリオ「え?」
  キーホルダーに伸びるミカンの手。
ミカン「中の人、フリオくんだったの、ちょっと驚いた
 けど……」
フリオ「ごめん」
ミカン「ずっと応援してたから。ここで戦ってるファイト
 マン」
  ミカン、キーホルダーをフリオにむけて。
フリオ「はい! ファイトマンは最高です!」
ミカン「君のことだよ?」
フリオ「え」
  フリオ、絞り出すように。
フリオ「……ありがとう。……あの、彼氏さんと一緒に、
 来て、ください」
ミカン「それ茂木くんのこと?」
フリオ「……はい」
ミカン「あれ、本当の兄さんなの」
フリオ「え!?」
ミカン「親が離婚しちゃって、お互い別姓になっちゃった
 けど、仲いいんだ、今も」
フリオ「……そ、そうだったんだ」
ミカン「また行くね。フリオくんの応援に」
  嬉しそうなフリオの笑顔。

○向ヶ丘遊園パーク
  夏の太陽。
  それを遮るようにサッと現れるファイトマン。キメ!
ファイトマン「太陽のように俺の闘志が燃えている! い
 くぞ、ワルディ!」
  決めポーズ。
  客席からミカン。
ミカン「がんばれ、フリオ!」
  動揺するファイトマン。
  客席ちらと見て。
  笑顔のミカン。
  フリオ、向きなおって。
フリオ「ファイトッ!」
  ――おわり
  (ペラ32枚)

専修大学2023年度成績評価課題講師作例


――という感じです。
後半のところが少しもたついてるのと、心境変化のところが少し強引かなぁ?と自己評価。

それにしてもかわいい恋愛モノが多いな、自分。
仕事の作風とまるで違う気がする。

来年度も講師の仕事をする予定なので、また授業内容を改定しつつ、シナリオライティングに興味を持ってもらえたらと思っている次第。
もっと面白さを伝えたい。

――以上、本日の余談でした。
次回をお楽しみに。


サポートしていただけることで自信に繋がります。自分の経験を通じて皆様のお力になれればと思います。