今年の課題
生田丘陵の上の大学でシナリオライティングの授業を受け持って9年目。
今年度の授業も無事に終わり、今は成績をつけている。
成績の評価材料は3つ。
ひとつめは授業中に使っているレスポンというツール。
スマホやPCで行えるリアルタイムアンケートシステムで、あらかじめ用意したクリッカーや選択式の設問、自由記述の回答などが行なえ、また学生の出席や、互いの回答への評価などもできるもの。
最近の学生は挙手による発言を促してもあまり乗り気ではなく、更に感染防止の観点から授業中での発言はNGとなっている。
けれど授業後のアンケートなどを見る限り、講義を聞いていて色々と考えはあるようで、それらをリアルタイムに引き出すためにもこうしたSNS慣れした世代に向いているツールを使うのは有効で、実際に提出された回答を観ていると面白いものが多い。
こうしたツールを通してできるだけ学生の意見を吸い上げ、自分自身の次年度の授業教材改訂の判断材料にしている。
今年は全15回の授業の中で96件ほど授業内アンケートを行った。
おそらく学内で一番使っている気がしないでもない。
(他の先生の授業はまったく知りませんけれど)
ふたつめは授業後に出す課題。基本的にはそれぞれの授業に沿った簡単な物が多い。「赤ずきん」を現代風にアレンジして簡単なオチのある物語を書いてくるように――など。
この段階ではプロットとはあえていわず、物語を綴ることを軸に評価している。
今年は柱・ト書き・台詞といった最初から脚本としての形での文章形式で授業をするのではなく、物語の構成とそれらを作り出すアイデアの拡張とまとめるための手法を先に行い、創造の意識を高めることを優先させた。
文章慣れした学生であればその辺はクリアしてくるのだが、興味だけで授業を取る学生も少なくはない。
なので比較的、創作物を作ることが苦手な学生に対しても創作の過程、アイデアの拡張拡散とそこから使えるものを繋ぐ連想力、そしてパズルのピースを組み上げる構築力を意識してもらうようにした。
実際に仕事で行っているとこれに時間を割いているほうが圧倒的に多いわけだし。
最後にみっつめの課題が成績評価課題。
5分程度の短編脚本を書いてもらっている。
毎年、違ったお題を出して、そこから発想を得て、自由に物語を展開してもらう。
ジャンルも自由。内容も公序良俗から大きく外れるものでない限りは許している。
今年のお題は
「20世紀の音楽を聞いた主人公の変化の時が訪れる」
今の学生たちはほぼ21世紀の生まれ。
なので20世紀の歌に直接触れた経験はない。
だからこそその歌を調べる必要がある。つまり取材が必要になるのだ。
おそらくはネットなどで検索してくるのだろうけど、その中身が正確でなくても別に構わない。
自分で調べ興味を持ち、それを発想の源泉として自らの物語を作り上げてくれればそれでいい。
――という軽い気持ちでお題は決めた。
ちなみに一昨年は「サイコロ」。
以下、自分が参考例として書いた脚本はnoteで公開している。
提出された課題の評価
ふたつの学部でこの授業を行っており、今年は70本ほどの脚本が集まった。
これをチェックして修正アドバイスのコメントで返すのだけれど、本数が本数。更には授業に間に合わせないといけないので年末はこれでほぼ時間が溶けた。
今年はプロットと初稿の間に、準備稿という「実質初稿なんだけど多少甘くてもいいから最後まで書いてもってきてね」という段階を入れることにした。
多くの学生がト書きを小説の地の文のように書いて、内容のほとんどが説明になってしまっているので、そうした部分を中心に直しの指示は出している。
一応、映像のための脚本=シナリオなので、ト書きは実際に映像として表現できる内容で書いてもらうように指導。
なので感情や設定の説明などをする場合は、台詞に振り直すか、それらが読み取れる描写に置き換えるかするようにコメントを返信。
直ってくるものが多いが、まったく対応されないこともある。
書いた学生の意地ならばそれでいいが、単純に出せば単位がもらえるだろうという考えの学生もいる。
そうした学生にまで情熱を注ぐほど、自分は熱くないし、大学というところは学ぶ意思のないものは来なくてもいいとさえ思っているので、基本放置。
大人になってもずっと勉強の続くこの仕事はそんなに甘いもんじゃない。
それを今のうちに体験できるのも良い機会だろう。
今年度の脚本は直しの機会を一段階増やしたこともあり、これまでに比べてよくなっていた。
実際にそれは成績結果にも現れており、これまでの中の最高点が出たことでもわかる。
講師の作例
学生が提出してくる前に、最低限、これぐらいの脚本にはしといてほしい――という感じでできるだけ同じお題で作例を出している。
もっともこちらは直しにかける時間はほぼないので一発書きで、時間も教員室の待機時間中で書いたものである。
故に二時間くらいで書き上げた脚本。
サイコロのときのように一応、載せておきます。
――という感じです。
後半のところが少しもたついてるのと、心境変化のところが少し強引かなぁ?と自己評価。
それにしてもかわいい恋愛モノが多いな、自分。
仕事の作風とまるで違う気がする。
来年度も講師の仕事をする予定なので、また授業内容を改定しつつ、シナリオライティングに興味を持ってもらえたらと思っている次第。
もっと面白さを伝えたい。
――以上、本日の余談でした。
次回をお楽しみに。