余談「大学の課題」
学生の成績評価に関わる課題を提示する時期となりました。
お題を決めて、そこから発想した5分程度の短編脚本を書いてもらうということを毎年しています。
去年は「サイコロ」というお題で脚本を書いてもらいました。
学生の発想は様々。
課題のフィードバックや成績評価は大変なんですが、初々しい脚本に触れられるので、現役で脚本家を続けている自分としてはとても刺激になることが多いです。
ただお題を出して終わりではなく、講師である自分も毎年そのお題で脚本の流れを考えます。
今の自分が書いたならばどれぐらいの期間で、どれぐらいの脚本として成立させられるのだろうか?――ということをしないと、学生に対して示しが着かないというか、無理難題出してないかなどの確認のためにしています。
実際に仕事もしているのでこの課題にかけられる時間は、例年であれば大学の授業のある日に早めに教員室に入り、そこで待機している時間を使って書き上げるようにしています。
なので企画であらすじを考えつつ、ハコガキを用意してプロットにまとめるところまでで90分ほど。
そこから初稿にするのは少し時間がかかるので自宅で数時間かけて書くイメージです。
自分の評価としては、正直なところ、いいときもあれば悪いときもあるので、学生に対して少しでも構成や描写といったものが伝わることを念頭に置いて書いています。
去年の課題「サイコロ」においては、以下の発想で書きました。
サイコロはどんな目が出るかわからない。
↓
わからないがそれがすべてを決める。
↓
5分程度なので世界を広げすぎない。
↓
ならば小さな物語にしよう。
といった感じの流れを頭に起きつつ、いつものマインドマップでネタを広げていきました。
結果、小さなラブコメっぽいものにしたてようと決め、そこから物語を展開していきます。
文章で考えると組み換えが面倒なのでハコガキです。
教材用にパワポに展開したハコガキが上記のような感じでした。
実際はまたマインドマップのツールとかエクセルとか使ってシーン毎に切った貼ったやるんですが、学生向けにわかりやすいように展開をいくつか作ってまとめています。
起承転結っぽい流れにしてはいますが、三幕でもビートシート風にしてもわかる単純な構成で作りました。
ひねっても教材として使うものなのですべての流れがひとつにまとまり、オチがつくことが大前提なので捻りは弱めです。
5分ですし。
それに当初から「サイコロを転がす物語」「コロコロする」というイメージから女の子をココロちゃんにしようと決めたところから「可愛い話にしたい」という気分でもあったので、わかりやすさ全面推しです。
今、書いたらまた違う物語になるのでしょうけれど、去年はこんな感じだったのかもしれません。
まず課題では企画立案という形で、物語の場面や人物設定とあらすじを出してもらっています。
なのであらすじは「引きのあるものがイメージできているか?」が大切な部分となっています。実際はプロットを作ってからあらすじを作るべきなのですが、脚本を書いたことのない学生が多いのでまずはどんな作品を目指すのかを考えるようにさせるために、あらすじを書かせています。
まあ、あらすじを先に考えるとだいたいが後で苦しむことになるんですが――。
企画書とプロット
今回の課題で僕が用意した企画書のサンプルが以下となります。
[タイトル]『コロコロ・ココロ』
[テーマ]「自分の意見のない子が決断をくだす」
[登場人物]
・小路刈ココロ(16)サイコロに運命委ねる女の子。
・ハルオ(16)ココロの好きな男子。
[あらすじ]
ココロはいざとなるとサイコロを振って答えを決めてきた。
食事をなににするか、試験の回答をどうするか、どこの学校を受験するか――。ある日の帰り道、ココロの前に同級生の男子が現れココロに「つきあってほしい」と告白をする。
ココロは返事をすぐには決められずいつものようにサイコロをふろうとした……。
といった感じで課題を提出させ、ここからプロットの提出となります。
タイトル:『コロコロ・ココロ』
ある雨の日、サイコロを振って学校までの行き方を決めるココロ。歩いていくことに。道中、好きな男の子に出会って、やっぱりサイコロは私の道を示してくれると思う。
試験でも、なんでもうまくいく。
あるときサイコロを落とすと、男の子が拾ってくれて。やっぱり私にとって幸運のサイコロだ。男の子にサイコロのことを話す。男の子からも相談。「好きな子がいて告白するかどうかを」、それを聞いてちょっとショックなココロ。
どうしたらいいのだろう。もやもやするココロ。
翌日、またも雨。今度はバス通学の目。車窓から歩いていく男の子の姿見えて。
悲しくなるココロ。
男の子の呼び出し。そこで男の子から突然の告白。返事をどうするか迷うココロ。
でもサイコロをしまって――。
雨の日。二人並んでひとつの傘で歩く男の子とココロ。 (おわり)
プロットなのでオチや展開などがある程度、書かれていなくてはなりません。
だいたいここで学生たちは躓くわけですが、ハコガキを先に作ってあればある程度、まとめることはできますから、それに従って書いていけばいいだけの話です。
だいたいここまでで躓く学生の多くが、脚本を書く際に考えてから書くのではなく、考えながら書いているため、設定の説明や状況描写が頭で長くなる、頭でっかちのスタイルになることがほとんど。
なので冒頭の部分でキャラクターのセットアップと目的が見えていれば物語は動くはずなのに、そこにたどり着くまでが長くなるので冗長な感じになってしまうというか設定を書いて時間切れ、俺達の闘いは(以下略)な物語となってしまうことがほとんどです。
ですから、プロットの段階でどのくらい詰めきれるのかで次の初稿作業の段取りが変わっていくわけです。
実際に毎年のことであれば初稿までは2週間ほど用意しています。
ですが今年は授業のタイミングが悪く一週間しか用意できなかったので締め切り甘めにしつつ年末年始でフィードバックを返して決定稿にしていこうというスタイルで授業を進めています。
「脚本家になりたい!」という方が相手の講義であれば、一週間で上げてこいと言えるのですが、大学の授業でそこまで厳しくすることもできず、どちらかといえば脚本を書くということで自らの目標に向かう際の筋立てや、想像力を働かせそれを具現化するプロセスを養ってもらえたら――という一面もあるので、無理強いはしません。
もちろん、評価も甘めです。
中には書き慣れている学生もいます。
見ればすぐにわかります。
小説系は割と見受けられますが脚本経験者とあわせて1割もいないくらい感じです。
そういう学生の書いたものは確かによくできている感じはします。
正直、おもしろいと思うものも多いので、同じ土俵に上がってくる前に出る芽をつぶして――ということはしません。
伸びてきてくれるといいなぁとほんとに思います。
脚本家って、なかなか育たないと言うか、あらゆるオーダーに沿って書ける脚本家ってそんなに多くないような気がしています。
自分は「なんでもこい」という感じなんですが、世間的評価はたぶん、SF系とかホラー系とかの印象がついているのかもしれません。
ほんとはかわいいものとか書きたいんですよ。
――とか思いつつ、成績評価の課題を学生と一緒になって考えているわけです。
脚本の形に
で、次の段階としてプロットから脚本にする際にその比較をするために途中まで書いた初稿を見せつつ、講義をします。
5分の短編なのでアニメの脚本の感覚で言うならば、ペラはだいたい20枚程度。(ト書きが多めになるのでこれぐらいの感覚で書いてます)
なのでアニメの本読みの現場では、A4用紙一行20文字×40行のフォーマットが多く使われているのではないでしょうか?
(僕の経験してきた現場だけかもしれませんが)
そんなことを気にしながら徒然なるままに書いていきます。できるだけ場面の絵となる描写を大切にしつつ台詞芝居にならないように気をしています。
目的としてはこれを見た絵コンテの担当者が絵をイメージできるかどうかを気にしています。
○自宅玄関・中
玄関先で座り込みなにかを握りしめ念じ
るようなココロ。
ココロ「奇数が出たらバス。偶数が出たら歩き」
ココロ、手を動かしなにかを投げる。
床の上、コロコロと転がるサイコロ。
四の目が出る。
サイコロを拾う手。
サイコロを見るココロ。
ココロ「偶数だから歩いていこ」
立ち上がるココロ。
○自宅玄関・外(雨)
激しい雨が地面を叩く。
玄関前、立ち尽くすココロ。
手の中のサイコロを見て。
ココロ「……うん。歩いてく」
サイコロをポケットにしまうココロ。
傘をさし、雨の中へと出ていく。
○バス通りの通学路(雨)
雨の中、傘を指し歩くココロ。
その脇をバスが通り過ぎていく。
跳ねる水しぶき。
ココロ、それを避けて。
ココロ「(ため息)はぁ……、今日はついて
ないな」
そのとき背後から爽やかな声が。
ハルオ(off)「おはよう!」
ココロ、振り返るとそこにはハルオ。
ココロ「……おはよう、ハルオくん」
ハルオ「お前も歩き?」
ココロ「……え、うん」
ハルオ「そういや今日試験あるって知ってた?」
ココロ「え、そうなんだ」
なんとなく並んで歩きだす二人。
なにかを話しているハルオ。
それに合わせて笑顔見せるココロ。
ココロ(M)「ラッキー! いい目、出たかも」
くるくると回るココロの傘。
○学校・外観(雨)
○学校・ココロの教室
窓の外を降る雨。
試験の最中。雨音と鉛筆の音だけが教室
に響く。
ココロの机、鉛筆の転がる音。
問題用紙にメモされた複数の答えと番号。
鉛筆に書かれた番号。
その答えを解答用紙に書くココロ。
○学校・学食
がやがやしている学食内。
サンプルが表示されているケース。
その前に立つココロ。
ココロ「点数もよかったしいいことありそう!」
美味しそうなオムライス。隣には激辛。
ココロ「……一がオムライス、二が牛丼、三
がおうどん、四がカレー、五がパスタで六
が激辛担々麺……かな」
× × ×
どこかのテーブル、サイコロを手にする
ココロ。
コロコロ転がるサイコロ。
ココロ「!」
サイコロを見たココロ、冷や汗。
出た目は六。
× × ×
テーブルの上に置かれた激辛担々麺。
ココロ「……サイコロで出ちゃったから、食
べるしか」
一口たべるココロ。
ココロ「! お水、お水!」
水を飲むココロ。そのときサイコロが落ちて
床に転がって。
○学校・教室(晴れ)
窓の外、青空が雲間に見える。
× × ×
教室内、上着のポケットを探るココロ。
ココロ「あれ? ない?」
ハルオ(off)「小炉刈(ころがる)」
苗字呼ばれて振り返るココロ。
ハルオがいて。
ココロ「な、なに?」
ハルオ「これ」
ハルオの手の上のサイコロ。
ココロ「あ……、私の」
ハルオ「学食に落ちてた」
ココロ、サイコロ受け取って。
ココロ「ありがとう」
ハルオ「……小炉刈、いつもそれ
持ってるよな」
ココロ「……うん。おばあちゃんから
もらった大切なものなの」
目を閉じるココロ。
○回想・おばあちゃん家
おばあちゃんからサイコロを
もらう小さな頃のココロ。
おばあちゃん「ココロは優柔不断
だから、いまはこれで決めたらええ」
○学校・教室(現実)
目を開くココロ。
ココロ「……大切な形見なの。
言いたいことも言えないとき
サイコロに勇気もらってた」
ハルオ「……そっか」
ココロ「ハルオくんもそんなこと
あったりする? あ、ハルオ
くんなら言いたいことちゃんと
言えるよね……」
ハルオ「そんなことない」
ココロ「そうなの?」
ハルオ「……ああ。好きな子
がいるけど、まだちゃんと
気持ち伝えられてないし」
ココロ「!」
軽くショック受けるココロ。
チャイムが鳴って。
先生が入ってきて。
ハルオ「またな」
席に戻っていくハルオ。
ココロ「……うん」
暗い表情のココロ。
外、青空がまたも曇っていく。
離れた席のハルオを見るココロ。
ココロ(M)「ハルオくん、好きな子、
いるんだ……」
窓ガラスにあたる雨粒。
○自宅玄関・外(雨)
○自宅玄関・中
床の上、コロコロと転がるサイコロ。
三の目が出る。
サイコロを見るココロ。
ココロ「……奇数だからバス」
○バス通りの通学路(雨)
バスが走っていく。
○バス・中(雨)
バスに乗っているココロ。
バス窓のガラスを流れる雨。
ココロ「……あ」
濡れた窓ガラスの向こう側。
傘をさし歩いているハルオ。
ココロ「……」
○バス通りの通学路(雨)
傘を指しハルオの側を通り過ぎていくバス。
○バス・中(雨)
窓外の後方を見つめるココロ。
前を向いてうつむいて。
ココロ「……信じて、いいんだよね」
手にはサイコロ。
ココロ「おばあちゃんの形見だもんね」
○学校・教室(雨)
再び試験。
鉛筆を転がすココロ。
× × ×
採点している先生。
先生「次の解答は――」
解答用紙に○をつけるココロ。
× × ×
試験の結果。100点。
ココロ(M)「やっぱり、いいんだよね」
× × ×
放課後の教室。
雨が小振りになっていて。
雨を止むのを待っている感じのココロ。
教室にはココロの他に誰もいない。
帰り支度のココロ。
ハルオ(off)「よかった、まだいた」
ココロ「?」
見るとハルオいて。
ココロ「ハルオくん」
ハルオ「それ、貸してくれないか?」
ココロ「え?」
ハルオ「お前の大事にしてる、サイコロ」
ココロ「……」
ココロ、サイコロをハルオに渡して。
ハルオ、ココロからサイコロをもらって。
ハルオ「偶数がでたら言う。奇数がでたら言わない」
机の上でサイコロを転がすハルオ。
コロコロと転がるサイコロ、勢い余って床の上にオチて。
一の目が出る。ハルオからは見えない。
ハルオ「……なにがでた」
ココロ「いち」
ハルオ「奇数か。奇数は――」
ココロ「言わないって言ってた」
ハルオ「うん。でも俺は俺の気持ちで決めたいから言うよ」
ハルオ、改まって。
ハルオ「小炉刈。俺と付き合ってくれ」
ココロ「え?」
ハルオ「ずっと気になってたんだ」
ココロ「……」
ココロ、床にオチてるサイコロを拾って。
それを振ろうとして、手を止める。
ココロ「……」
ハルオ「……」
ココロ、ハルオの顔を見て口を開いて――。
窓外。
雨がやんでいる――。
○バス通りの通学路(雨上がり)
水たまりが青空を映していて。
そこを一緒に歩いてくるココロとハルオ。
ふたりとも笑顔で。
おわり(ペラ・23枚)
――といった感じです。
いいかわるいかは別として、冒頭を家の中からはじめた理由や、バスでの通学路のシーンなどが後半の展開でも活かされる構成していることなどを伝えつつ、どの程度の分量で書けば伝わるかなどを見せていきます。
(今、改めてみるとおばちゃんの回想はいらないかもなぁとか思ったりしますが尺次第でカットでしょうね)
実際に学生は面食らいます。
プロットの一行が一ページほどになることもあるわけですから。
こんな感じで脚本を組んでいくことを毎年、バージョンアップしつつ、学生に教えています。
この『コロコロココロ』も去年の課題として脚本を途中まで書いて後は書いていなかったので、先程、後半部分を書いて足してみました。
分量としてはペラ23枚なので5~6分くらい。じっくり芝居をすれば7分程度なので分量的にややオーバーしてます。少し整理すれば大丈夫かなと。
僕の授業であればこれぐらい書ければ、100点満点中、90点くらいにはなるのではないでしょうか。(自分で書いているので面白いかどうかは判断できないので満点にはなりません)
ちなみに採点基準は、企画立案・プロット・初稿・決定稿を納期までに提出していれば20点が入ります。
決定稿まで内容に関する評価はしません。
決定稿において、柱、ト書き、台詞などの文法・タイトル・テーマ性(お題の消化)・尺配分が各5点、描写、構成が各15点の合計100点としています。
これは大学の授業でも課題を出す際に開示しています。
こんな感じで気がつけば来年で10年くらいになるわけで、もう少し、自分なりの考えなども出てきたのでこのnoteとかでまとめていけたらとは思います。
以上、今日の余談でした。
では次回をおたのしみに――!
サポートしていただけることで自信に繋がります。自分の経験を通じて皆様のお力になれればと思います。